お花見対談 : 忘れらんねえよ・柴田隆浩 × グッドモーニングアメリカ・たなしん
忘れらんねえよは、熱いバンドだ。どんなことがあっても大舞台に立つこと、自分たちの音楽で世界を変えてやることを信じ続けている。そして、それを実現させるためだったら、どんなことでもやってやる気持ちを持っている。赤坂BLITZを貸し切って無観客ライヴをやったのは、その最たる例といっていいだろう。柴田は、ライヴのMCで「話題作りのため」と語った。しかし、約60分のライヴ、お客さんがいてもいなくても変わらぬ熱さと信念が、これでもかというくらい伝わってきた。そして見終わった瞬間、満員の赤坂BLITZで演奏している彼らの姿を想像しないわけにはいかなかった。
ツレトイ対談、第三弾はグッドモーニングアメリカのベーシスト、たなしんを迎え、桜が咲き始めた公園で缶ビールを片手に話をしてもらった。これまでの2組にも共通しているのは、ただ音楽を奏でるだけではなく、どうしたら多くの人たちに聴いてもらえるかを考えて行動していること。それは本対談でも明確に話されている。大舞台で活躍するバンドたちは、どのような想いを持って活動しているのか、そして、バンド同士の繋がりが生み出すものとは? 今回も赤裸々な内容となった対談、じっくり読み進めてみてほしい。
インタヴュー & 文 : 西澤裕郎
写真 : 外林健太
目標を書くことで落ち着きそう安眠できそうな気がします(笑)
ーーこれまでツレトイの対談を2回ほど行なってきましたが、今回が一番世代的に近いですよね。
柴田隆浩(以下、柴田) : 近いですね。僕とたなしんくんは2歳差なんですよ。たなしんくんは、バンド歴って何年だっけ? 12年ぐらい?
たなしん : そうですね。12、3年ですね。
柴田 : 最初のころは、たなしんくんも、いわゆるいまのたなしんくんじゃなかったでしょ?
たなしん : そう。最初はMCもしてなくて…。
柴田 : それがいまでは考えられないもんね(笑)。
たなしん : 26、27歳ぐらいのときは、「ああ、よろしくお願いします。グッドモーニングアメリカです…」みたいな感じでしたから(笑)。
柴田 : あはははは。なにをきっかけに「ファイヤー!!」って言うようになったの?
たなしん : 山梨のConvictionっていうところでライヴをやったんですよ。その時期に、2ndミニ・アルバム(『ウォールペーパーミュージックじゃ踊りたくないぜ』)に入っている「花」っていう曲ができて。それは自分たちの想いをちゃんと乗せられた曲だったんですね。これは自信あると思ってライヴをしたんですけど、お客さんが2人だったんですよ。
柴田 : バンド・メンバーより少なかったんだ(笑)。
たなしん : しかも、その子たちは前のバンドのお客さんで、僕たちのライヴの途中で帰ろうとしていて。そこで「頼むから聴いてくれ、自信あるからこれだけは聴いてくれ」って言って。「ちょっと待って! ファイヤーっていうから、とりあえずファイヤーって一緒にやろう」って。そしたら、楽しんでくれて。そこから別のライヴでも速い曲とかやったときに、お客さんが手をあげてくれるようになっていって。その流れで、ツアー・ファイナルをやったときのアンコールで「脱いだら?」ってなり、だんだんカスタマイズされていきました。
柴田 : そうだったんだ(笑)。あとさ、聞きたかったんだけど、「代官山UNITのワンマンが埋まんなかったらバンド辞める」みたいなことを前言っていたよね? それってどういうことだったの?
たなしん : それは、「予言の書」みたいなのを書いていたんですよ。
柴田 : そうだったんだ!! それって、サラリーマンのビジネス的な成功法とかであるよね? 目標を紙に書くっていう。
たなしん : そうですね。ゴールから逆算して、ここでZeepワンマンをやって、ここでAXをやらなきゃ、そうするには、ここでCDを出したほうがいいかな… っていう大きな計画を立てていたんですよ。一番最初は「デモを作って八王子で100人集める」って書いていたんですけど、それができなかったら解散だって言っていて。それを毎回乗り越えてきたんですけど、そのなかの一貫にユニットがあったんです。
ーーそういう指針みたいなのものがあったほうが、バンドとしてはやりやすいんですか?
たなしん : 言ってみれば、100人集めるっていうのは、自分たちだけでも本気を出したらできることなんですよ。かきあつめて、なんとかできるギリギリの数というか。それで100人集めたら、すごくいいライヴになったんですよ。都内で100人集めるっていう企画をやったときも、102人集まったんですよ。毎回ギリギリだったんですけど、実現してきていて、そのときもすごくいいライヴができたんです。ちなみに、その日が初めて短パンになった日です。
一同 : (笑)。
柴田 : 100人集めるためには何をすればいいんだって考えて考えて考えぬいて、短パンだろってアイデアが出たんだ(笑)。そしたら、それがちゃんと効いたみたいな(笑)。その「予言の書」の最終目標はどこなの?
たなしん : 武道館です。とりあえずその後は想像が付かなかったから。「予言の書」はそこまでは書いてある。
ーーそれこそ柴田さんにも「予言の書」みたいなものはあるんですか。
柴田 : いま聞いててパクろうって思いました(笑)。これはいい方法だなって。他のバンドのことは気にしなくていいって理屈ではわかってるんですけど気になっちゃうから、目標を書くことで落ち着きそう安眠できそうな気がします(笑)。
人生でこれだけ打ち込んだものというか、全部つっこんだものってないから
ーー(笑)。忘れらんねえよって、リキッドでのワンマンも成功させているわけじゃないですか。それなのに他のバンドが気になってしまうのはなんでなんですか。
柴田 : それは性格もあると思う。あと、人生でこれだけ打ち込んだものというか、全部つっこんだものってないから。そこまでやっているから、誰かに数字で負けたりとか、自分の思ったようにいかないとかなると、びっくりするほど凹むんです。自分でも、こんな恐ろしいものだと思わなかった。本当に寝られなくなっちゃうんですよ、悔しくて。
ーーでも、それって本気で打ち込んでいるからこそ生じてくる気持ちなんだと思いますよ。大舞台で勝負するバンドって、そういうところ見せたがらないじゃないですか。だけど、忘れらんねえよって、さらけ出したくないのに出てきちゃう。だけど、絶対に諦めないし、気力に溢れている。そういう不器用さも含めて、すごく愛すべきバンドで、他にはいないと思うんです。僕なんかはついそこにフォーカスを当てたくなってしまうんです。ツレ伝ツアーに、グッドモーニングアメリカを誘ったのはなぜだったんですか?
柴田 : グドモを誘せわてもらったのは、単純に尊敬してるからっていうのと、俺らが届けたくても届けられていないお客さんがたくさんついているからっていうのも正直あります。ぶっちゃけ、名古屋のツレ伝、超こえーもん。しかもさ、グドモは全国万遍なく人気があって、さらに名古屋にも強いイメージがあるの。そこにつっこんでいくのは超こわいですよ。俺らの主催のツアーにもかからずグドモ・ファンも多いと思いますし。
ーーそんなに恐いのにやるんですね(笑)?
柴田 : そこで「お?!」と思わせられないと終わりだから。そういう意味でも、胸を借りるみたいな気持ちはあります。あと、お客さんくださいみたいな(笑)。だってグドモって、ずっとそうやって勝ってきたわけじゃん。毎回、デモを5枚売るとしたら、5+5+5+5… が積み重なって、この規模になってたってことだから。
ーー尊敬しているとともに、そこは真剣勝負みたいなのがあるんですね。
柴田 : そうですね。グドモって真摯な感じがすげーするんですよ。チームもすごい素敵で。たなしんくんってライヴのときもムードメーカーだし、お客さんをどんどん煽る存在なんだけど、北海道のライヴ後の反省会でメンバーから詰められてるところを見て。「まじか!? 全然いいんだけどな、なにがまずいの?」って感じで見ていたんですけど、たなしんくんも、そうかもしれないみたいに議論してるときがあって。それを観て、いいチームだなと思って。
ーーへえ。グドモのメンバー間でのバランス感覚って、どういうふうになっているんですか?
たなしん : ぼくは、熱血っていうか、すごく感情的になっちゃうんですよ。だから、そっちにより過ぎるとコントロールが効かなくなっちゃうんですよね。会場が広くなればなるほどそうで。だから、メンバーは引き戻してくれる存在です。3人とも、音楽的な部分だったり、客観的な部分だったりで、引き戻してくれる存在なんですよね。
柴田 : 一般的なたなしんくんのイメージって、「ファイヤー!!」っていいながら大胆にベースを弾いてそうなイメージだけど、よーく見るとめっちゃ丁寧に弾いているんですよ。冷静と情熱の間なんだよね。だから、冷静さを必死に取り戻してやってるたなしんくんの姿とか、もうひとつの魅力というか見どころだと思うんだよな。
ーーそれに対して、忘れらんねえよの3人のチーム・バランスってどういう感じなんですか?
柴田 : 俺はバンドとしての見え方とかを考える部分が強くて、梅津くんは音楽的な良心なんですよね。酒田はバカキャラというか、マスコットキャラ的な存在で。だから、いい役割分担はできてると思うんです。そのうえで、最近俺の指針を作る能力みたいなところが足りてないなと思うこともあって。いまやっぱりいろいろ考えてるし、今日の話とかすげーためになってます。
たなしん : でも僕は曲を書いてないですから。柴田さんは、曲も書いてて、バンドの先頭にもたっていて。そのバランスが形になったときに、すごい化けるんだろうなって勝手に思ってます。
大の大人が人生を賭けてやるのに値するんだよ
ーーたなしんさんからみて、忘れらんねえよの武器ってどういうところだと思いますか?
たなしん : やっぱり「CからはじまるABC」ですね。あそこでみんなおもしろいと思って好きになってますから。
ーーたなしんさんにはエモ座談会という企画で対談をしていただいたことがあるんですけど、めっちゃエモいエピソードをもっていて。そういうエピソードがあるから「CからはじまるABC」とかにグッとくるんだろうなって思ったんですけど。
たなしん : いや、それでグッときてるわけじゃないですよ。世間が求めてるからだと思います。
柴田 : たしかに、あそこは他とかぶってないんだよね。
たなしん : 柴田さんには、赤裸々でもセンスよく伝えられる能力があるんですよね。曲は全部いいんだから、まじめに歌わなくてもいいんですよ。いい曲にいい歌詞を載せるのはアルバムの最後でいいと思う。6曲あるとしたら1曲だけでも。
柴田 : … 新曲「ばかばっか」の歌詞、変えよっかな(笑)。ひどい下ネタの歌に。あと「コンビニでTカードあるかって何回も聞かれる」って歌詞にしようと思ってて。
たなしん : いいと思いますよ。
柴田 : 今日きてよかった…。ちょっと、たなしんくん、うちらのバンド入ってよ。ナタリーとかのニュースでかなりリツイートつくと思うよ。「忘れらんねえよ新メンバー加入、たなしん」って。
一同 : (笑)。
ーーちなみに、たなしんさんは、なんでここまで柴田さんに自分の分析を惜しげなく伝えられるんでしょう? 言ってみれば、グッドモーニングアメリカのお客さんをかっさらっう可能性を秘めてるライバルじゃないですか。
たなしん : それは、忘れらんねえよが大好きだからですよ。もっというとバンド業界が好きなんです。いや、バンドじゃなくても、バンドに派生するアーティスト、たとえばアイドルでも、自分の周りに関ってる動きはすごく考えちゃうし、空気感を感じているんですよ。それはつまり、バランスだと思うんですよ。そのなかで自分たちはどうするかをやっていくことが、最終的に自分たちにもつながってくるんじゃないかなと思っている。
柴田 : こうやって話しているなかでアイデアがいっぱい出てきたし、やっぱりバンドっていいなって思うんですよ。そういうのが「バンドやろうぜ」って新曲にはのっけられたから、出し切った感はあります。
たなしん : そういう感じはバンドみんなありますよ。じゃないと対バン・ツアーとかできないと思いますし。結局、対バンのみんなのこと好きになるんですよ。じゃないとあんなに毎回打ち上げしないです。そうやって成長していっている。どんなに売れているバンドも結果そうなっていると思うんですよ、きっと。そこがバンドの魅力だと思ってますし。
ーーそんな名古屋でのツレ伝、すでにソールドアウトしてるんですよね。ツレションはなにをやるんですか?
柴田 : グドモとのツレションは、小芝居をしたいなと思っています。ちょっとした台本を書くつもりです。
ーーどんな芝居ですか?
柴田 : 本当に小芝居ですね。ライヴの導入につながるような、ほっこりする感じですかね。でも、たぶん俺らっぽいものにはなると思う。そのバランス感覚でおもろいもの作れたらいいですよね。というか作るつもりでいます!!
たなしん : 例えば、最初はおもしろいなと思って見ていたんだけど最終的に感動して帰るとか、そういう方向性で裏切るみたいなことができたらいいかもしれないですね。
柴田 : いま思い浮かんだのが、たなしん子ちゃんが、「忘れらんねえよの曲っておっさんくさいのよ、もっと四つ打ちのズチズチって曲が聴きたいの!」 みたいな感じで 「じゃあやってやるよ!」って言って、ズチズチの曲に繋ぐとかね。
たなしん : それもいいですね。最終的には、グドモも楽しかったけど、忘れの最後の曲がすげえよかったってなればいいですよね。さっきのバンド論ですけど、出し惜しみにしないでやりたいです。今日グドモのために来ましたって人に対しても、忘れらんねえよが最高のライヴをして、受け取ってもらいたいと思うし。それは結局バンド全体に返ってくるんですよね。その感じがすごく健全だなって思うし。なんでバンドのがいいかっていうと、そういうところがぐっとくるというか、そういうパワーがあると思うからなんですよね。
柴田 : そうなんだよね。大の大人が、人生を賭けてやるのに値するのってそういうところなんだよね。
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PROFILE
グッドモーニングアメリカ
東京都八王子市にて高校の同級生で前身バンドfor better,for worseを結成。同じ大学高校の同級生でもあり、ライバルでもあるTOTALFATや、後輩であるBIGMAMAと共に活動を開始する。エモ / メロディックを母体とする音楽性と、自由なサウンドアプローチと向き合うことで獲得したポップさを融合し2007年「グッドモーニングアメリカ」へと改名。 エモーショナルな歌や歌詞の世界観には、自分の中で抱える不安や心の葛藤、悲しいことが起きている現実と向き合い、それを乗り越えられるように進んでいきたいと願う気持ちが切に訴えられている。 彼らは自分たちの成功を目指すだけでなく周りのバンドとともに音楽シーンを活性化させるというスタンスを常に持っており、自らが企画・制作したコンピレーション・アルバムV.A.『あっ、良い音楽ここにあります。』をすでに3枚リリース。同時に自主企画のフェス『あっ、良いライブここにあります。』も主催し、大規模ライヴ・ハウスにて3days全日SOLD OUTを果たす。 また、お世話になった吉祥寺WARP、八王子RIPS、八王子matchboxでの原点回帰イベントも行うなど、様々な意欲的な活動にグッドモーニングアメリカの「シーンへの熱い思い」が窺える。 今年の5月には初のフル・アルバム「未来へのスパイラル」でメジャー・デビューを果たし、オリコン・ウィークリー初登場11位と、今最も勢いのあるバンドとして認知され続けている。