
2010年6月に1stミニ・アルバム『手のなかの鳥』を全国リリースし、各地でロング・セールスを記録している女性シンガー・ソングライター、Predawn(プリドーン)。約3年振りとなるフル・アルバム『A Golden Wheel』は、前作に引き続き全曲セルフ・レコーディングにより制作された。OTOTOYでは高橋健太郎のマスタリングによるHQD(24bit/44.1kHzのwav)で配信。サウンドとインタビューで彼女の魅力に触れてみてはいかがでしょう?
Predawn / A Golden Wheel
【配信価格】
mp3 単曲 200円 まとめ購入 1,800円
HQD(24bit/44.1kHzのwav) 単曲 250円 まとめ購入 2,000円
【Track List】
01. JPS / 2. Keep Silence / 3. Tunnel Light / 04. Breakwaters / 05. Free Ride / 06. Milky Way / 07. A Song for Vectors / 08. Drowsy / 09. Over the Rainbow / 10. Sheep & Tear
※まとめ購入いただいた方には歌詞カード画像(JPGファイル)をプレゼント!
※1曲目「JPS」の冒頭のノイズは、もともとの音源の仕様になります。
INTERVIEW : Predawn
Predawnを語るにあたって、女性シンガー・ソングライターという言い方はあまりしっくりこない。言うならば、メロディを紡ぐ詩人、あるいは哲学者といったところだろうか。それは、Predawnのライヴを見るとき、彼女が歌い終わっても、言葉たちが余韻を残して空中に存在しているような、そんな印象を受けるからである。前作『手のなかの鳥』より約3年、生活の中で生まれてきた楽曲が、本作には収められている。どれもまた空気を通して、聴き手にやんわりと訴えかけてくる。その訴えかけてくるものとは一体何なのか。本作を完成させた小さな哲学者、Predawnに話を聞いた。
インタビュー & 文 : 西澤裕郎

前に作った曲を出したい、頭の中にある形を具現化して形にしたいと思った
ーーPredawnさんは、どちらのご出身なんですか。
新潟生まれで、6歳か7歳の時に東京に来て、東京の田舎のほうで育ちました。
ーー大学は信州大学に進学されたんですよね。長野出身の僕からすると、東京からわざわざ長野に来てくれてありがとうっていう気持ちがすごいあって(笑)。
いえいえ(笑)。すごく贅沢な学生時代を過ごしたなって。空気はいいし、山に囲まれているし、天気もすごくよくて。普段は長野で勉強して、たまに東京に帰るっていう、すごくいいバランスでしたね。
ーー東京から出たいって気持ちがあったんですか?
ありましたね。東京といってもけっこう田舎だったんですけど(笑)。暑いのが苦手だっていうのがあったし、生まれが新潟だったので、なんとなく涼しいところに行きたくて。高校生にして、ラッシュの電車で通学とか飽きたみたいな。でも、学校までほんの3駅だったので、お前が言うなって感じなんですけど(笑)。
ーー都会の喧噪からは離れた場所に行きたかったんですね。もともとピアノをやっていたそうですね。ちょうど昨日、小さい頃に音楽教室でピアノを習っていた人と話していたんですけど、最初の4音が鳴ると、それに合わせて頭の中で曲のラインができるらしいんですね。そういうトレーニングをしたから、いまも曲を作ろうとすると、そうした作り方になるって言っていました。
そういうのは、やらされましたね、メモを貼って即興で作るとか。私が行っていた所は、小学一年生くらいの時に曲を作っておいでって言われて。それはそれで面白かったですけど。
ーーそういう作り方は今もしますか?

その頃に、コードとか色々教え込まれたのはなんとなくあると思うんですけど、中学、高校の頃には気の合う先生が一対一で教えてくれていて。好きそうな曲を持ってきてくれたりとかしてくれたんですけど、段々自分でも好きな音楽を聴くようになってきて、ジャズが弾きたいですとか、サティが弾きたいですとか言い出して。先生がもう手に負えなくなって、楽譜だけ渡されるようになりました(笑)。
ーーあははは。ギターは中学のときに始めたとのことですが、同じ音楽でもピアノで奏でるのと、ギターで弾くのってやっぱり全然違うものでしたか?
そうですね、最初はもちろん慣れなかったんですけど、ピアノよりギターの方がメモリの占有率が低いというか、他のことを考えられる余裕があると思っていて。なので、歌おうとか曲を作ろうといった方向に行きやすかった気がします。
ーーちなみに、本作がPredawnさんの1stアルバムなんですよね。ライヴを数多くされているからびっくりしたんですよ、これがまだ1stアルバムなのか!! って。数多く曲がある中で、どういう基準で本作の10曲を選んだんですか?
とにかく、前に作った曲を出したい、頭の中にある形を具現化して形にしたいっていう思いがあって。このままだと埋もれてしまいそうな曲を入れるってころが先決でしたね。全部好きな曲なんですけど。
ーー曲作りはどういう状況でやることが多いんですか? ちゃんと机に座って、曲を書いていくとか?
それはないですね。波はあるけど、散歩してるときでも電車乗ってるときでもお風呂入ってるときでも、ふとしたときにフレーズとかメロディが沸いてきます。
ーー何気ないときに自然と浮かんでくるというか?
普通にギターで遊んでるときに出てきたりもするし。最近は、ほんとに何もないときのほうが多いですね。
語り得ない闇に包まれてるものを浮かび上がらせる
ーー今回の曲解説にはウィトゲンシュタインの一節やシャガールの絵についてのことなどが出て来るじゃないですか。音楽一辺倒というより、絵だったり哲学的なものも好きだったのかなと思ったんですけど。
そうですね、哲学は大学で勉強していたんです。ちゃんとやったって気はしないんですけど(笑)。大学の頃はよくそういうことを考えてたり本を読んでいたりしました。
ーー哲学科に行くことは、自分の意志で決めたんですか。
どこの大学に行くかっていうときに、姉とか兄とかに、こういうことがやりたいんだけどっていう話をしたら、それは哲学だって言われて。じゃあやってみようと思ったんです。
ーーそれで、静かな空気の良い長野に行って哲学をやることになったと。
なんか、暗いですね(笑)。
ーー(笑)。これは偏見かもしれませんけど、哲学科の人って割と理屈っぽい人が多くないですか?
そうですね、予想と違ったのはそこですね。すっごく理詰めで、めんどくさいこの人達みたいな(笑)。でも、やってくうちに楽しい所も見つけていきました。
ーー哲学もそうですけど、絵とかそういうものも好きだったんですか?
そうですね、自分では描かないけど、コンテンポラリーなものにグサッとくるというか。旅行に行くと割と美術館に行きますね。
ーー自分で描いたりはしないんですか?
小学校の頃に描いたくらいです。絵心がないので(笑)。
ーー見てみたいです(笑)。Predawnさんにとって思想的なものっていうのは音楽をやるにあたっても必要なのかと思っていて。他のインタビューでもパンク的なものとか、斜に構えてた部分がやっぱり好きって書いてありましたよね。
広義な意味での哲学があるものは好きですね。
ーーPredawnにおける、音楽の哲学ってどういう部分だと思いますか?
それについてはこの「語りえぬものについては沈黙しなければならない」(本人による「Keep Silence」楽曲解説)、これで答えたいと思います。
ーーここで、ヴィトゲンシュタインのフレーズを引用したのはどうしてなんですか?
ここはもう、あまり突っ込んで欲しくないっていう意図の表れです。逆に、語れる所を語ることによって、まだ明らかになってないものとか、触れちゃいけないものだったりとか、真実に近いものだったりとか、語り得ない闇に包まれてるものを浮かび上がらせるっていう。そういう感じの意味だった気がします。本質の部分は語ろうとしても無理だから、周りから炙り出していこうっていう意図も含まれていますね。
ーー「Keep Silence」に対してこの一説を持ってきたっていうのは、この作品の中でも核となってるということの表れでしょうか。
いや、こういうアルバムにしようと思って10曲を書いた感じではなくて、学生の時に書いた、自然にできていった曲を入れていったんです。だから、(哲学があるとしたら)全体的になんとなくあるかなっていうくらいですね。
とりあえず今作までは自分でやろうっていう気持ちはありました
ーー前作『手のなかの鳥』のリリースが2010年じゃないですか。そこからの3年間って東日本大震災など大きな変化があったと思うんですね。Predawnさん自身はこの3年間で自分の考えに変化を感じますか?
前から結構刹那的な感じだったから、みなさんから見たら変わらないのかもしれないです。ただ、地震の後は塞ぎ込んでいた所もあったし、抜け出してきたのはほんとに最近ですね。作っている間も塞ぎ込んでる感じだったし。
ーーそうした塞ぎ込んだ気持ちって、曲を作ることで気持ちがすっとなったりするものなんですか?
そうですね、それはすごくよくあります。浮かぶときは自然に出てくるけど、その後、詞を書くに当たってずーっと悩んでることが多いので。一曲書き終わったときにはすごくすっきりするというか。全然関係ないことについて書いてたつもりでも、自分の心象が反映されてたりするし、書き終わった後にはすっきり眠れたりします。
ーーじゃあ、今作が完成するまで、自分の一番深くにあるものは解消されない状態だったんですね。
その前からそうだったといえばそうだったんですけど、ライヴのときとか人に向かって自分を開けないというか、突き放すみたいな感情があったんです。最近は割と目を開けて歌うことが多くなって。それが先か忘れちゃったんですけど、ちょっとエモくなったって言われたりもして(笑)。表現として、開けてきたかなって気はします。
ーー確かに震災のすぐ後にライヴを拝見したときは、ステージとフロアの間に壁ではないですけど、完全にPredawnってものがあって、それがかえってミステリアスというか、魅力に見えていた部分があったんです。ただ最近はそれが変わってきたかな、という気がしています。
そうですね。静かな音楽だから、前はざわざわしてても全然気にならなかったんですけど、最近はちゃんと聞けよって思うようになってきました(笑)。
ーーあははは。自分のパーソナルな範囲っていうのがわって広がったから、お客さんからのアクションに対しても気になるようになってきたと。あと、セルフ・プロデュースをされているとのことですが、作品を全て自分で作りたいって気持ちは今も強いですか?
大変すぎて途中で何回もへこたれそうになったんですけど、とりあえず今作までは自分でやろうっていう気持ちはありましたね。次はちょっと人にふろうかなっていう。あまりに辛かったので(笑)。
ーー活動していく中で、この人に頼んでみたいとか、信頼できる人っていうのはできてきたりするんじゃないですか。
前に引き続いてなんですけど、エンジニアさんに最後のミックスを頼んだりとか。Rayonsさんに鍵盤を頼んで一緒にやったりとか、バンド編成でもやったり、ベルギーのバンドと一緒にやったりもしたし。人と一緒にやるのも悪くないなって思うようになってきました。
ーー世界が広がってきた感じはしますね。
そうですね、少し。
ーーだんだん周りを巻き込んでいったときのPredawnの作品が楽しみです。今回、この作品を出したことによって、塞ぎ込んでいた所から抜け出して気持ち的に落ち着いた感じはありますか?
はい、完成したときにはゴール! っていう感じがしましたね。
ーー中には全部出し尽くして空っぽになっちゃう人もいるかと思うんですけど、今はどういう心境ですか?
前の時はほんとにそうで、しばらく寝込んでたんですけど、今回は寝込まずに済みました。ツアー日程を見たらへこたれそうになりましたけど(笑)。あと「Tunnel Light」は、自分で素人PVを作っているので、いつ完成するか分かんないんですけど、がんばります。
ーー曲が先にあって、そこに映像をつけてみたいと思ったんですね?
この曲はほんとにモーション・ピクチャーみたいな曲で、イメージを実際にやってみたらどうなるんだろうっていうのがあったので、やってみようかなって。
ーー早く日の目を見るといいですね。
そうですね、完成するといいなあ(笑)。

ーー(笑)。哲学の話に戻りますが、大学のときはどの哲学者をメインで研究していたんですか?
特に傾倒した人とかはいなくて、全体的にバーッてやっていました。インド哲学っぽい教授とか先輩とかが多かったので、サンスクリット語を学ぶゼミとかを取っていて。インド哲学とかも中国哲学とかもやったし。「Sheep & Tear」の解説で触れてるのは大森荘蔵さんっていう哲学者で、「流れとよどみ」という本は心に残ってますね。あと卒業した後だったんですけど、メルロ=ポンティっていうフランスの哲学者の本を読んで、この人がいちばんしっくりくるかなって。
ーー東洋哲学だけでなく、西洋哲学にもしっくりくる部分があったわけですね。どういう部分がいちばんしっくりきたんですか?
なんかちょっと感覚的っていうか、詩的っていうか。
ーー僕にも哲学科の友だちが多いんですけど、自分の人生とか思想とかを深く考え分、社会に出た後のゴールがなかなか見つけづらくて悩む人も多いんですよね。
そうですね、予後があんまり良くないですね。ちゃんと就職してる人ももちろんいるんですけど。
ーーやっぱりPredawnさんも、考えて考えてって行為をすることによって、自分の中に沈み込むことってあると思うんですね。そこから浮かび上がるのに音楽を作ることは作用しますか?
音楽でバランスを取ってる気はします。友達とワイワイ騒いでる時でさえ帰りたくなっちゃう人なので、あまり普通に働けなさそうですし(笑)。歌ってるときは、すごく自分に潜っていってる感覚があるので、心地いいし許されてるっていう感覚があります。
ーーそうやって自分に潜ることによって出来上がった曲が、自分だけのものじゃなくて、他の人に届く余地があるっていうのがいいですよね。別にそういう事を意識してる訳じゃないですもんね。
そうですね、曲を書いてる段階ではほとんど意識してないですね。でもきっと好きになってくれる人も、どこかで深い絶望感とか、無力感とかがあるからこそ感じ取ってくれたりするんだろうなあって思います。なのですごくありがたいです。
ーーそれこそ、「語りえぬもの」が、リスナーに引っかかっているから、Predawnの音楽が求められているのかもしれないですね。
そういう人に寄り添える音楽であったら嬉しいですね。
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PROFILE
Predawn
Predawn(プリドーン=夜明け前)を名乗る、女性ソロ・シンガー・ソングライター。
かわいらしくも凛としたたたずまいと、天性の声に魅了されるリスナーが続出している。
UK ロック、オルタナティヴ・ロック、ルーツ・ミュージックを独自に昇華し、少々ひねくれつつもドリーミングかつヒーリング的な聴き心地が融合した音楽は、国内において類を見ない。対バンや口コミによりミュージシャンからの支持も厚く、今までに andymori、QUATTRO、Eccyの作品に参加。他にも、支持を表明しているアーティストには、ストレイテナーのホリエアツシ、ASIAN KUNG-FU GENERATIONの後藤正文、サカナクションの山口一郎、ART-SCHOOLの木下理樹、Turntable Filmsなど。
Favorite Artists
Sparklehorse, The Velvet Underground, Willy Mason, Paul Westerb erg, Miles Davis, Erik Satie, Jesse Harris, Radiohead, Death Cab for Cutie, etc...