
鴨田潤名義での待望の1stフル・アルバム!
鴨田潤 / 一
イルリメ本来のスタイルとは異なる「歌とギターの弾き語り」での楽曲群は、情景を切り取るような歌詞、味のある歌声とメロディーで、鴨田潤という形でなければ表現出来ない歌が詰まっている。
【Track List】
1. Magic Number / 2. 昨日は、 / 3. パンピーブギ / 4. 無理問答 / 5. 女のおっさん / 6. 報告 / 7. はるいちばん / 8. ハローグッバイ / 9. 空部屋 / 10. プロテストソング
INTERVIEW
個人的な話で恐縮なのだけれど、イルリメこと鴨田潤と僕との付き合いは1年半くらいになる。初めて話したのは『StoryWriter』という僕が主催しているファンジンの取材だった。まだ僕がインタビュアーの駆け出しだったことや、作品のリリース期でなかったこともあって、会話のキャッチボールがあまりうまくできなかったことを覚えている。それ以降、ライヴで口を交わすようになり、別のミュージシャンのライヴでたまたま会ったりして、少しずつ会話を重ねながら冗談も言えるようになっていった。彼は面白可笑しくその場を盛り上げようとしてくれる一方で、さりげなく気をつかってくれたりセンシティヴな一面も持っている。そんな性格が反映されているから、イルリメのトラックは幸福感と哀愁が同居したセンチメンタルな音楽になっていると僕は思っている。今回はイルリメではなく、鴨田潤としてギター1本とわずかな楽器だけでアルバムを作り上げた。よりパーソナルになるのかと思いきや、そこで歌われているのはイルリメとはまた違ったものだった。夕暮れにかけて行われた、鴨田潤の言葉に耳を傾けてほしい。
インタヴュー & 文 : 西澤 裕郎
鴨田潤で一番聴かせたいのは、歌詞
——以前のインタビューで、イルリメはトラックを聴かせたいとおっしゃっていましたよね。鴨田潤で1番聴かせたい部分はどこですか?
鴨田潤(以下、K) : 歌詞ですよね。
——2009年にリリースされたイルリメの『メイド イン ジャパニーズ』は、どちらかというと歌詞に重きがあって、「さよならに飛び乗れ」と「たれそかれ」は特にそういう曲だったと思うんです。
K : そうですね。(少し考える)。いや、あれはちょっと違うかな。音も聴かせたい。でも、歌詞は聴かせたいのはありますよね。うん。
——その後リリースされた『360°SOUNDS』は、明確にトラックを聴かせたいというのがありましたよね。
K : そうそう。そういう曲もあります。
——今回はそれに続くリリースということで、歌詞を重視しているのがその対比としてもよくわかります。歌詞は書き留めているんですか?
K : いえ。フレーズは書き留めたりしますけど、実際使うかといえば殆ど採用しないし。日々貯めておいて頭動かしておくアイドリングみたいなもんですから。
——歌詞を聴かせたいとおっしゃっていたから、てっきり歌詞は独立して作っているのかと思ってました。
K : それは自信の割合ですね。歌詞を見せたいのが80だったら、ギターは20とかなんだよね。コードもGだけだったりワン・コードしか使ってなかったりするんで、それを見せたいかって訊かれたらそうでもないっていう感じです。歌詞については、いろんな人から評価をもらったんやけど、もともとラップをやってたからそっちのほうが作りやすいですかね。使い慣れてるし考え慣れてますし。
——物語風の曲も多い中で、「報告」はラップの考え方で作った曲なのかなと思ったんですけど。
K : そうです。これは昔作った曲です。7年前くらいですかね。
——イルリメを想定して作った曲を、弾き語りで入れたのはなぜですか?
K : 最初にギターのループだけで作ったから、構造は弾き語りと一緒なんですよ。ビートも入ってないしさ。ギターの「タタタ、タタタ、タタタ、タタタ」ってループの上にラップを考えてたんで、デモの段階でもう弾き語りみたいな感じでしたね。
——鴨田さんは、音楽だけじゃなくてイラストを書いたり、twitterも活用していらっしゃいますよね。プロモーション活動もある程度自分でやっていこうと思っているんですか?
K : やっていこうっていうより、やらざるをえなかったからですね。自分が(音楽を)始めた90年代の終わりは、ちょうど自分でホームページを作って自分で簡単に宣伝出来るっていう。それが出来たし、当たり前ですが自分でやらないと動いていかないんですよ。元々、デビューさせてあげるって言われて拾われた人間じゃなくて、自分でCDを作って売り始めた人間なので、自分で宣伝していかなきゃダメっていう気持ちは今もありますね。でも、本当は人が宣伝してくれて、自分は制作に集中する方がどっしり構えること出来ますけど。なんか自画自賛とか、自分のことを宣伝するのって心が折れて痛んでいくんですよ(笑)。でも、それしかないっていうのも、最初の自主制作の自分で宣伝していくガッツも忘れたくないから、そこで何度も揺れますね(笑)。
——(笑)。やらざるを得ない状況から始まったと。
K : そう。だから、いまもやってます(笑)。
——あははは。
K : 本当は自分じゃなく誰かが宣伝していった方が、押し付けがましくなくていいですよね(笑)。それをかっこいいと思うのはどういうことなんでしょうね?
——第三者が言ったことのほうが説得力とか信頼感があるからじゃないですか?
K : たしかに、そのほうが信憑性がありますよね。
——自分だけだと限界があるけど、第三者を通すことで知らないところまで広まっていくってこともありますしね。
K : でも、その第三者が本当に善意でやっているのかは疑わしいってこともありますよね? そこは政治的や縦社会の人間関係もあると思うし。

——たしかに「いいね」と言いながら実はプロモーションだったりすることもありますしね。
K : 大きいものに巻かれようとするのは、人間の常と思うんですよね。もうそれは普通のあるべき姿で。自分にもそういうの無いとも言いきれないし。いや、あると断言出来ますね。
——そういう力ってありますよね。みんながいいいい言ってたら聴いちゃうとか。
K : あと、多くの人が良いと言ってるのを、後で知った人がその現象をみて「よくない」みたいなこと言ったりさ。だいたい批評や意見って、自分の立ち位置を証明するためだったり、嫉妬だったりする方が多いですよね。あいつはこういうこと言っているけど、俺は負けたくないから意見を認めないとか。自分の正当化が言いたいだけか、嫉妬。本当に透明度のある意見や判断は少ないです。でも、それがワイドショーって感じで、人間らしくて好きですけどね。
——それは「パンピーブギ」にも通じるテーマですね。
K : そうですね。
——そういう人間の下世話な部分も、受け入れて生きているってところが哀愁があっていいですよね。
K : それとあるべき姿にどう向かいあっていきましょうかと。ワイドショーを見ている人もいれば、ワイドショーとかテレビを嫌いな人とかもいるやんか。テレビ嫌いな人に1回「何でテレビ観いひんの?」って訊いたら、「なんで知らん人の話を聴かなあかんの」って言われて、えっ、すごいなと思って。
——それは驚きの意見ですね。
K : でも、そういう意見もわかるんですよね。自分は会社で働いてないから、別に嫌いな人にはそんなに会わなくていいんですよ。でも、働いている人は、会社に行って嫌いな人と接しなきゃいけなくて疲れる。それで家に帰ってきてまで、知らん人のどうでもいい意見なんて、聞きたくないってのはわかるんですよね。自分がストレスたまってる時、そういう立場に置き換えてみれば。でもワイドショーも需要があるから存在しているわけで、それを欲している人がいる。それを見てストレスを発散している部分もある。それにマスコミが真実を伝えきれているかって言えば、皆そうじゃない裏があることもわかっているし。宮崎哲弥さんが言っていたんですが、マスコミは現象だと。事実を伝えるとこじゃなくて現象だと。
——現象?
K : つまり、誤報もするし、圧力で言えないことも多いし。合っていることも、言うかもしれないということ。ゆらゆら動いてどっちかに動くんだけど、それは現象... 俺もね(笑)、こういうことをしゃべっていくと、意見もまとまってないし、段々自分の許容を超えて無理してるのが分かるから、だんだん声がちっちゃくなっていくという(笑)。
——あははは。
K : すごい知識を入れようとするんですけど、分かったつもりが感覚だけで分かってる様な気になってる自分がいる。いざ説明すると実はちゃんと分かってなくて、だんだん声がちっちゃくなってくる。それがすごい見出しだけ見て、あれこれ騒いで生きてるって感じですよね(笑)。情けない(笑)。
理想はある程度”うた”にしたほうがいい
——今のもまさに「パンピーブギ」の歌詞に表れていますよね。
K : 人のイヤな部分をいろいろ見て、一喜一憂し、自らと照らし合わせながら、自分の汚い部分と向き合ってますよって歌ですね。
——人間ってキレイな部分だけで出来ているわけではないということですよね。
K : それは当たり前でしょう。
——たしかにそうですけど、トップ10とかチャートに入るような曲は、肯定感が強いようなイメージがありますけどね。
K : そういう固定観念はあるけど、実際のところ知らないよね。トップ10の音楽聞いたことないから。あと、理想は"うた"にした方がいいです。そうしないと気持ちがそっちに行かない。
——後ろばっかり見ていても仕方ないですしね。
K : そうそう。「殺そうぜ」とかいうのが、チャートの1位から10位まで入るって状態は怖くて外歩けないでしょ? 理想はあった方がいい。そっちに近づいていくから、言うべきなんですよ。だから、それをキレイゴトキレイゴトって、言うのもねって思います。
——理想について、もう少し話してもらえますか。
K : 「無理問答」の理想に関していうと、やさしく受け止める気持ちはあるけど、実際うっとしいときは会いたくもないこともありますよね。でも、本来はこういう風に思いたいっていう理想にゆっくりでも迎えるでしょ。だから、そうやって曲にしとくべきだと思います。
——男女の微妙なすれ違いを描いた「昨日は、」も、理想的ですよね。
K : 男の人はいいなと思いますよね(笑)。
——そうですね(笑)。
K : 向こう(彼女)が気づいてくれましたからね(笑)。自分の気持ちをわかってくれたみたいで、こっちとしては全然嬉しいですよね。実際はそんなことないから(笑)。いや、あったりなかったりですから。
——じゃあ、歌詞にリアルな生活が反映されているわけじゃないんですね。
K : 実際経験した部分もあるし、そこから膨らませて作ったのもありますね。そんなに自分の生活にあった事ばかりでもないです
——そうはいっても、日常で感じることが歌詞に反映されている部分もあると思うんです。「プロテストソング」も、実家にいる父親と息子の照れくさそうな描写がとてもうまいんですよね。
K : 自分の考えとかがベースになるんで心境は出ます。これに関していうと、話すべきか話さないべきかちょっと悩むんですが。それはなんでかというと、これをノンフィクションと思う人がライヴでやった時に、まぁ、そうかと思ったんですけど... フィクションって言うとすごいショック受けるみたいなんです。一人称がおれですからね。でもそこまで思ってもらえれば嬉しいですよ。ちゃんと物語が描けているという証拠ですから。だいたい歌詞を書くときは映像が多く浮かぶんです。それを動かして、その動きを歌詞にするから、こういう風になるんですよね。
——『ゼロマガジン』のインタビューを読めば、鴨田さんにはお姉さんがいるからフィクションかなって思いますよ。
K : でもこの曲に関しては、一人称を使ってるのでおれ=鴨田潤になりますよね。でも伝えたいのはおれ=聞いた人で、親父=聞いた人(おれ)なんですよ。その母親の立場でもいいですけど。それはその人の年齢、性別にもよります。自分が親父になった時、こういう子供に育ってくれれば嬉しいとかそういう理想も入ってます。
——お父さんが歌うプロテストソングの部分もフィクションですか?
K : そうですね。フィクションっていうか自分が書いた歌詞です。うちの親父はベンチャーズのコピーとかやってましたから。でも、親父は親の会社が倒産して大学中退しているから、ちょっとそういう感じのことは入ってきてますけどね。
——弾き語りをやるからには、いろいろな曲を作りたいとおっしゃっていましたが、プロテストソングの部分だけ独立させなかったのはなぜですか?
K : 最初は反戦ソングを作ろうと思って考え始めたんですけど、反戦ソングについて調べてたら、自分の親の世代の上の世代のことを考えるようになって... で、そういう図で考えていくうちに、これが出来たという。
——ただ、内容がフィクションだとしても、お父さんと息子の照れくさい関係性はリアルな感情なのかなと思ったんですけど。
K : そうですよね。肉親ってだいたいそうですよね。ちょっと恥ずかしいと思う人たちの方が多いんで。あと、久しぶりに家に帰ったら部屋がないとかね(笑)。よくある話で(笑)。
——(笑)。これまで、鴨田さんは歌詞についてあまり語りたくないのかなと思ってました。だから、とくに15分に渡る長編の「プロテストソング」は内容について聞くべきか悩んだんです。
K : これに関しては難しいですよね。自分は頭に浮かべた映像から曲を作るので。これこれこうって言う前に聴いてほしいんで。どういう曲かって説明しても、それが全部歌詞になっているんでね。

——DOMMUNEにイルリメで出たとき、「元気でやってるのかい」の曲について語ってらっしゃったじゃないですか。それってインタビューとかで読んだことなかったことなので、曲を聞いていろいろ感じとればいいのかなって。
K : そうですね。毎日この曲はこういう風にってあまり覚えてないんですよね。現時点で作業してるものは憶えてますけど。覚えてないのは、1曲全部自分でやってると歌詞を書くだけじゃなく、ギターもミックスもいろんなことをやっているから、情報が多すぎて、どっからしゃべっていいかわかんなくなっていくんですよ(笑)。
——鴨田さんの歌詞には、日常に含まれる微妙な違和感が切り取られていると思うんですよ。
K : はい。
——普通にしてたら見逃しそうなことも歌詞になってますよね。「はるいちばん」なんてとくにそうで、季節感をみごとに捉えている。
K : こういう曲を作ったから、3月に出したいっていうのはありました。
——現行でリリースされたもの意外の作品を参考にしたりしましたか?
K : 最近、鈴木茂さんのCDを買いました。山下達郎さんのラジオ「サンデーソングブック」聴いてたら、新春放談っていう毎年大滝詠一さんと対談する企画があってそこで鈴木さんの「砂の女」をかけていて、その曲がすごくかっこよかったから買ったんです。歌詞がめっちゃいいから歌詞をケータイに入れてひらがなの部分を漢字に変えてみたり、改行して遊ぶくらいははまりました。それくらい好きだったんです。
——タイトルは、どのようにしてつけられたんですか?
K : 1枚目だから『一』。だから、次出したら『二』です。これはもし何時かイルリメと違うかたちでアルバムを出していくならそうしたいと思ってました。シンプルで良いでしょう(笑)?
RECOMMEND
ECD / TEN YEARS AFTER
もはやジャパニーズ・クラッシックスとも呼ぶべき「Homesick」(95) 以来、実に15年ぶりのヒップ・ホップ(!?) アルバムの完成! 前作の「天国よりマシなパンの耳」よりも更にラディカルなECD節を堪能出来る決定盤!!
SHINGO★西成 / I.N.G
こんなん聴いたことない... やろ!? B-Boy限定とかちゃうねん。じいちゃん、ばあちゃん、おっちゃん、おばちゃん、ちびっ子たちも寄っといで! 常に進化する大阪名物=SHINGO★西成、渾身の2ndフル・アルバムにして初の「独演会」(ゲストなしのマイク1本勝負)が始まる!
Triune Gods / Seven Days Six Nights
志人from 降神(日本)、Bleubird(アメリカ)、Scott Da Ros(カナダ)から成るグループ。08年のBleubird来日ツアーで3人は出会う。互いの音楽のファンになった彼らは唯のコラボではないグループを計画する。そして2010年、彼らはモントリオールで再会した。Triune Gods (三位一体の神)となる為に。
LIVE information
HOMESICK5 cero & 鴨田潤レコ発!
3/26(土)@京都 Club METRO
OPEN : START / 16:00
TICKET : 前売 2000円 / 当日 2500円(ドリンク別)
LIVE : 鴨田潤、cero、VIDEOTAPEMUSIC、Turntable Films
KAKUBARHYTHM presents cero & 鴨田潤レコ発記念
~ceroと鴨田潤とVIDEOTAPEMUSICで行くワイワイツアー in 名古屋~
3/27(日)@名古屋 K.D JAPAN
OPEN : 18:30 / START : 19:00
TICKET : 前売 2000円 / 当日 2500円(ドリンク別)
LIVE : 鴨田潤、cero、VIDEOTAPEMUSIC
KAKUBARHYTHM presents 鴨田潤『一』レコ発ワンマン!
4/10(日)@三軒茶屋 Grapefruit Moon
OPEN : 18:30 / START : 19:00
TICKET : 前売 2300円 / 当日 2800円(ドリンク別)
LIVE : 鴨田潤
PROFILE
イルリメ(鴨田潤)。ラッパー、トラック・メイカー、DJ、作詞家、プロデューサー。
2000年、1stアルバム『イるreメ短編座』を発表。自主リリースにもかかわらず音楽ファンの間で急速に広まり、各誌で特集が組まれるほどに。唯一無二の声、独特のセンスで切り込まれる言葉とともに、先鋭的な音作りはひとつのジャンルではとらえきれない魅力をもち、その柔軟な音楽性から、精力的に行われる多彩なコラボレーションの中でも突出した才能を発揮する。またヘッド・セット・マイクとサンプラー、ドラム等によるライヴ・パフォーマンスは鮮烈でヒップ・ホップ・ファンのみならず様々なシーンで絶賛をさらっている。speedometer.やECDとの競作アルバムなど、多数のコラボレーションを行なう。07年、カクバリズム移籍後初となるフル・アルバム『イルリメ・ア・ゴーゴー』をリリースし、「FUJIROCK '07」にも出演、爆発的な盛り上がりを見せた。08年に入り、以前より親交があったベルギーのトラック・メイカー、SUN OK PAPI K.O.のアルバムへの客演をきっかけに、フランス、ドイツ、ベルギーなどを回る、初のヨーロッパ・ツアーを敢行。その他にもショート・フィルムのサントラ、WEB TV番組のOP、他アーティストのREMIX制作などを手掛ける傍ら、10月には自身初となる短編小説を『真夜中』(リトルモア)にて本名で発表し、好評を博す。そして、これまでの活動と創作により引き出された才能を充分に注いだ、集大成的な作品『メイド イン ジャパニーズ』を2009年2月4日に発表する。