成山剛(sleepy.ab)に札幌密着取材ーー映像作家・外山光男と語る、少年時代の記憶と芸術作品

北海道が誇る3ピース・バンド、sleepy.abが、2016年、3部作をリリースする。第1弾としてリリースされるのが、ギター・ヴォーカル、成山剛による初のソロ・アルバム『novelette』だ。sleepy.abの初期音源をリリースしてきたカメレオンレーベルのオーナー、Shizuka Kanataがサウンド・プロデュースとして全面参加。山内憲介(sleepy.ab)がギター、カリンバ、シンセなどで参加し、成山の繊細で美しい歌声と世界観を立体的に表現している。OTOTOYでは、同作収録の「ladifone」のMVを手がけた注目の映像作家、外山光男と成山の対談を札幌で敢行。それぞれの芸術への向かい方、そして札幌という土地の魅力について語り合ってもらった。美しき世界観をハイレゾでご堪能いただきたい。
sleepy.ab、成山剛による初のソロ・アルバムをハイレゾ配信
成山剛 / novelette
【Track List】 1. ヒトリキリギリス
2. ladifone
3. コペルニクスの夢
4. エトピリカ
5. ピエロ
6. high-low
7. 街路樹
8. in the pool
【配信形態】
24bit/48kHz(WAV / FLAC / ALAC) / AAC
【配信価格】
単曲 216円 / アルバム 2,160円(税込)
※アルバムのまとめ購入で、歌詞PDFがついてきます。
INTERVIEW : 成山剛 × 外山光男
その日の札幌は大雪だった。地元の人たちも驚くほどの大雪で、朝から学校は休みになり、飛行機も欠航していた。そんな日に、運よく、僕は札幌の地に足を運ぶことができた。2016年3月1日、19時前に新千歳空港に着き、成山剛の初ソロ・アルバム『novelette』をイヤホンで聴きながら、札幌市内へ向かう電車の窓からしんしんと降る雪を眺めていると、まるで自分がドラマの登場人物になったような気持ちになった。
今回、成山のリリースに際して札幌まで取材に行こうと思ったのは、成山が札幌に住んでいることに加え、本作収録の「ladifone」のMVを制作している外山光男が札幌に住居を移して映像制作をしているからだった。シンガー・ソングライターの吉澤嘉代子が大ファンであると公言するなど、外山はミュージシャンのファンも多い新進気鋭の映像作家である。そのほんのり温かみのあるアニメーションは、どこか懐かしく実に独創的だ。成山もその魅力に惚れ込んだ1人である。
以下の対談で語っているが、2人ともお互いの作品から似たものを感じている。それは、少年時代の記憶だったり、全く逆に経験したことのない「死」だという。アウトプットの形は違えど、そこに至るには必然性があったことが見えてくる対談となった。本アルバムとMVが産まれた土地で成山と外山が語り合うことはとても意義のあることであり、その場に立ち会えたことは非常に光栄なことだ。その内容を少しでもお伝えするべく、以下に彼らの声をお届けする。
インタヴュー&文 : 西澤裕郎
写真 : 清水隆利
ノスタルジックな部分があって、少年時代に帰っている感じがする(成山)
ーーsleepy.abはプロフィールに「札幌在住の3ピース・バンド」と記載していますけど、成山さん自身は北海道のどちら出身なんですか?
成山剛(以下、成山) : 僕は根室出身です。同じ北海道といっても、札幌から車で9時間くらいかかるのでけっこう遠いんですよ。そこまで雪は多くなくて、気温がすごく低い。流氷が来たりするから、氷の世界みたいになります。風もすごいし海の近くなので厳しい環境です。あと、全然晴れないんですよ。あまり空が青くなることもなく霧もすごいので「ロンドンみたいだね」って言う人もいるくらいで。

ーー対照的に、外山さんは福岡出身なんですよね? なぜ、北海道に住まいを移すことにしたんでしょう?
外山光男(以下、外山) : 福岡は年に1回くらいしか雪が降らないので、雪へのあこがれが異常に強くて。自分のアニメーション作品で雪が降ったり、四角い切り紙が降ったりするのは、空から降ってくるものへの憧れからなんですよ。それで、東京で十数年暮らしたあとに思い切って北海道に来てみることにしたんです。自分にとって雪に包まれた街は、わくわくし続けられる場所ですね。ただ、札幌に暮らしてる方にとって、雪かき、転倒など大変なものなので、自分だけ浮かれてられないと思ってしまいます。こちらに住んでわかったんですけど、雪が積もっていると空に反射して赤いときがあって、それがちょっと幻想的な怖さがあるんですよ。昨夜もなっていたので、今夜もなると思います。
ーーそもそも、成山さんと外山さんは、どういうきっかけで知り合ったんですか?
成山 : 2015年7月に、外山さんの上映会で直接お会いしたんです。もともと、外山さんの作品とsleepy.abの音楽は合うんじゃない? ってことを別の方に言われていて、たまたま持っていた外山さんのポストカードを見たら、翌日まで個展をやっていたので行ってみたんです。そしたら、ガツンとやられてしまって。
ーー成山さんは、外山さんの作品のどういう部分にガツンとやられたんでしょう?
成山 : 似ている感覚がしたんです。すごくさみしくて、ポツンとしていて、けど悲しさがそこにない。その感じがたまらなくよくて、狭間な感じがしたんです。外山さんの作品を観ているとノスタルジックな部分があって、少年時代に帰っている感じがする。同時に、死をすごく感じたんですよ。雪がばーっと降ってるシーンとかが多かったんですけど、そこに死を感じたというか。
「自分って何者なんだろう?」って思いを昔から持っていたんです(外山)
ーー外山さんは、もともと実写の映画監督になりたかったそうですが、絵を描くことは小さい頃からしていたんでしょうか。
外山 : 小学生の時に引っ越しが多かったんですけど、転校するたびに友だちが0からのスタートになるんですよね。転校した学校で、休み時間に漫画を描いていたんですけど、それを見た同級生たちが「外山くん何してるの?」って話しかけてくれて、すぐ友だちができて。それで味をしめたのもあって、漫画をずっと描いていたんです。
成山 : 絵を描くことが、外山さんにとってのコミュニケーションだったんだ。
外山 : そうですね。自分にとって、ものすごく強いものでした。
ーー絵のタッチは今と近いものだったんですか?
外山 : 昔はドラゴンボールの絵とかをコピーする感じだったんですけど、谷内六郎さんという画家の作品に出会ったとき、ぱっと「これだ!!」と思う瞬間があって。そういう「これだ!」という作家、作品との出会いが何度もあり、それらが混ざりあうなかで研ぎすまされて、自分の本当に描きたい絵に向かっていったんです。

ーーそんなお2人が芸術活動にのめり込んでいったのは、なんでだったんでしょう。
外山 : 「自分って何者なんだろう?」って思いを昔から持っていたんです。それは息苦しさみたいなものもあるんですけど、自分の作品ができたとき、やっと水面で息ができたみたいな感じがしたんですよね。他の人から与えられているものじゃ、水面で息をすることにつながらない。僕も自分で映像用の音楽を作るんですけど、いいコードに当たった瞬間に、はーって息をするような感じになるんです。
成山 : 僕も自分に自信がないところがあって、1人の人間として、自分だけのものものを探さないといけないなっていう気持ちがあったんだと思います。
ステンド・グラスを通った柔らかい光の感じがしたんです(外山)
ーー今回外山さんは、成山さんの「ladifone」のMVを制作されていますが、吉澤嘉代子さんやカフカのMVも作られたりしていますよね。MVを制作する際、そのアーティストの楽曲自体には、どれくらい寄り添って作られるんでしょう。
外山 : そもそもMVでも作れないものもあるんですよ。音楽を聴かせていただいて、イメージが浮かんだら作らせてもらっています。僕は、成山さんのお声がすごく好きなんですよね。sleepy.abの楽曲を聴いたときに、ステンド・グラスを通った柔らかい光の感じがしたんです。成山さんの声って祈りのような感じに聴こえるんですけど、決して強要しないんですよ。ささやかに、風みたいにふわーっと祈る感じ。自分はそこをMVで出したいなと思ったんです。

ーー「ladifone」のMVに登場している動物は、オオカミですか?
外山 : あ、あれは、その世界の成山さんなんです。「ladifone」を聴いたときの、古いようで未来的な、祈るようでちょっと危うい結果が描かれるように物語を組み立てていて、そういう印象が最後にふわっと残るように組んでいったんです。僕は、言葉にならない感じの楽曲に憧れがあるというか、自分で作りたかったけど到底作れるものではないので、「ladifone」を聴いたときに本当に憧れたんです。こんな曲を自分が作れたらいいなって。どこにも属さない曲なのに、ものすごく懐かしい。それが、自分の大好きなすべての作品の1番の答えなんじゃないかなと思って。
ーー吉澤嘉代子さんは、小さいころ、魔女修行をしていたらしいんですね。その少女時代が、楽曲を作るための梯子になっているっていうことを言っていて。お2人にとっても懐かしさ、つまり少年時代はキーになっているんじゃないかと思うんですよ。
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成山 : 外山さんの作品って、虫がいっぱい出てくるんですよ。僕は、すごい虫が嫌いなので「なんでこんなに虫ばっかり出てるんですか?」って訊いたことがあって(笑)。そしたら、転校する日に友だちが虫をもらったことがあるって話をしてくれて。
外山 : そうなんです(笑)。小学校2年生くらいなんですけど、引っ越しがあって、トラックに家の荷物を全部詰め込んで動き出した時、大谷くんっていう友だちが 走ってきたんですよ。「みっちゃん!! これやるばい!!」って言って、黄色と黒色のしましまのしっぽがあるオニヤンマっていう珍しいトンボをサランラップにぐるぐるぐるって巻いて箱に入れてくれて。オニヤンマって、その頃の僕らにはクワガタとかカブトムシに並ぶ地位で、男子の中ではものすごいものだったんですよ(笑)。そういうことがあって、僕のなかで虫が優しいものになってるんですね。
成山 : それを訊いて、なるほどなと思って。
ーーそれはおもしろいですね。成山さんは、少年時代の何かが今の作品に反映されていると思いますか。
成山 : 多分あるんでしょうけど、形を探している感じがあって、抽象的なんです。だから、外山さんと一緒に作品を作れば、そういうものが形として出るかなという気持ちもあって。音楽だと、具体的な言葉が出るようにしているわけでもないから、映像の力があるともっとよくなるなと思って頼んだ部分もあります。
外山 : 実は今日、原画を持ってきていて。

成山 : これ、1個ずつ描いているんですよね?
外山 : 1個ずつ描きますね。
成山 : ワンカットで何枚くらい描くんですか?
外山 : 例えば、歩くシーンだと12枚くらい書いて、それをぐるぐるループさせるんですよ。
ーー今回はトータルで何枚くらい描かれているんですか?
外山 : 全部で1200枚くらいですかね…。
成山 : おお!! 鉛筆で書く理由ってあるんですか?
外山 : 1番自分の手に合うんですよね。ペンで描いていた頃もあったんですけど、ペンで描くと固くなっちゃうんですよ。かっちりしたものになっちゃう。
バンドではワルツ、3連禁止令みたいなものがあって(笑)(成山)
ーーMVとして制作された「ladifone」が収録されている『novelette』は、成山さんにとって初のソロ・アルバムですけど、どういう構想で作った作品なんでしょう。
成山 : これまでに作った曲がすでに40曲くらいあったので、それを(田中)一志さんと一緒に聴いて選んでいったんです。そしたら自然と懐かしさというか、ノスタルジックなものが僕の世界観なんだなってことに気づいて、形になっていきました。聴いてもらったらわかると思うんですけど、僕はワルツが好きなんですよね。バンドではワルツ、3連禁止令みたいなものがあって(笑)。

ーー禁止令(笑)?
成山 : というもの、あまりにも僕がワルツばっかり作るからなんですよ。そういう曲はいつでもできるからってことで禁止していたんです。だから、ソロではそれをがっつりやろうと思って、ほとんどの曲が3連なんですよ。実際、自分以外の作品でも、聴いていていいなと思う曲は、やっぱり3連なんです。タンゴとかフランスの曲とかがすごく好きで、妙に惹かれるものがあるんですよね。
ーー田中さんは、sleepy.abが活動初期にリリースしていたカメレオンレーベルのオーナーでもありますよね。なんで、このタイミングでまた一緒に制作をすることにしたんでしょう。
成山 : 田中さんがShizuka Kanata名義で制作したソロ・アルバムで歌ったんですけど、その曲がかっこよすぎたんですよ。sleepy.abがメジャーで活動している時、一志さん抜きで自分たちで楽曲制作をしていたんですけど、苦労したり迷ったりすることが多くて、そのたびに一志さんのすごさを見せつけられてきたというか。昔はカメレオンレーベルにいたとはいえ、先生と生徒みたいな形で、音楽を習いながら一緒にやるって感じだったんですけど、自分たちも少しずつ成長して、今やれればいいものができるなと思って一緒にやらせてもらうことにしたんです。もともと、僕の通っていた音楽の専門学校の先生が、田中さんの奥さんである下川佳代さんで。学生のころ、下川さんに曲を聴いてもらったら「あんた変わってるね」って感じでいいねって言ってくれて(笑)。学校を卒業した後もライヴに来てくれて、そのままレーベルに入って一緒にやっていたんです。
Shizuka kanataが2013年にリリースした2部作をハイレゾ配信
ーー2016年は、3部作という形で、成山さんのソロに続き、山内憲介さんのソロ、そしてsleepy.abのアルバムが続いていくそうですね。
成山 : そうですね。山内は6月、バンドは10〜12月くらいのリリースを予定しています。山内のアルバムに入る曲は、全部、都市の名前がついているみたいで、そこを旅するってコンセプトみたいです。ラトビアとかイスタンブールとか書いてましたね(笑)。それが最終的に曲名になるのかわからないんですけど、アンビエント・テクノっぽい作品になりそうです。
その時に、ぶわーって鳥肌がたったのを覚えていて(成山)

ーーせっかくの機会ですし、外山さんから成山さんに聞きたいこととかあったりしますか?
外山 : 僕は成山さんの声がすごく好きなんですけど、声変わりっていつくらいにしたんですか?
一同 : (笑)。
成山 : 僕は、声変わりがしたくなくて、小学校から中学生にかけて毎日歌をうたっていたんですよ。歌っていないと、ある日起きたら声変わりしちゃうんじゃないかって不安に襲われて。ずっと歌っていた記憶があります。そのころは別に歌手を目指していたわけじゃなかったんですけどね。
ーー自分を失う怖さみたいなものがあったんですかね。
成山 : しゃべっている声が低くなるのが嫌だったんです。大人になるのが怖い、そういう感じがありました。なので、近所の人とかから「また歌ってるな、あの家の息子は…」って思われていたみたいで(笑)。
ーーそのときは、何を歌っていたんですか?
成山 : 安全地帯とかを歌っていました(笑)。あと、お母さんが持っていたテープに洋楽がいっぱい入っていたんですよ。ポリスの「見つめていたい」とかデビッド・ボウイとか、好きな曲ばかり入っていて、それを歌ってました。歌詞を耳で聴いてカタカナに書いて、それを見て歌っていて。ライオネル・リッチーの「セイユー・セイミー」とか、本当に寄せ集めたものが入っていたんですよ。

ーーそう考えると、2人とも少年時代というのは、今の作品に影響を与えている部分が多いのかもしれないですね。
成山 : そこから全部リンクしているって言ってもおかしくないと思います。「さとうきび畑」っていう曲があるじゃないですか? 小学生の時、学校を休んでいる間に、それを歌う役にいつの間にか決まっていたんですよ。人前でしゃべったり、歌ったりするのが苦手だったので、毎日泣いていたんです。仕方ないから毎日泣きながら練習していて、それを学校祭で歌ったらスタンディング・オベーションになって。すごかったんですよ。あれが僕のピークだなって(笑)。
ーーそれは何年生の頃の話ですか?
成山 : 小学校6年生のときですね。今考えたら、いじめみたいなものですけどね。先生も、いない人に決めるってどういうことだって(笑)。でもその時に、ぶわーって鳥肌がたったのを覚えていて。うー!! って震える感じ。高校を卒業して進路を決めなきゃいけないってとき、それまで事務員になりたいと思ってたんですけど、人よりも何かよかったことなかったかな? ということを思い起こしたら、その出来事がリンクして、音楽学校に行ってみたいと思ったんです。それで、いまに至るんです。未だに、ばっていうあのシーンは原体験としてあるんですよね。
レーベル Nem Records / Chameleon Label 発売日 2016/03/23
01. 02. 03. 04. 05. 06. 07. 08.
※ 曲名をクリックすると試聴できます。
成山剛 / ladifone成山剛 / ladifone
sleepy.abの過去音源はこちら
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LIVE SCHEDULE
“成山剛ソロ・アルバム”novelette” release party” 「宵レフェクトワール東京編」
2016年3月27日(日)@レフェクトワール明治神宮前
出演 : 成山剛(sleepy.ab) × 松井省悟(空中ループ)
時間 : 開場 18:30 / 開演 19:00
料金 : 3,000円(+ 1drink)
※サンドイッチ付き
予約 : sleepy.res@gmail.comまで
お名前、枚数メールください。
限定枚数のためお早めに予約お願いします。
PROFILE
sleepy.ab(スリーピー)
札幌在住の3ピース・バンド。
接尾語の"ab"が示す通りabstract=抽象的で曖昧な世界がトラック、リリックに浮遊している。シンプルに美しいメロディ、声、内に向かったリリック、空間を飛び交うサウンド・スケープが3人の"absolute" な音世界をすでに確立している。
FUJI ROCK FES.、SUMMER SONIC、ROCK IN JAPAN、ARABAKI ROCK FES、RISING SUN ROCK FES、RUSH BALL、JOIN ALIVEなどの大型フェスにも出演。
成山 剛 : Tsuyoshi Nariyama / Vocal, Guitar
山内憲介 : Kensuke Yamauchi / Guitar
田中秀幸 : Hideyuki Tanaka / Bass
外山光男
フリーランスの映像作家。
オリジナル短篇アニメーションや、ミュージックビ・デオを多数手掛ける。
2012年、作品集DVD『珈琲の晩』をリリース。