
マイ・ブラッディ・バレンタインの伝説の名盤『LOVELESS』の発売から20周年を記念して、エレクトロ・シューゲイザー、ポストロック、フォークトロニカ、アンビエントなど様々なサイケデリックな手法で『LOVELESS』を再構築したトリビュート・アルバムが登場。参加アーティストは韓国のシューゲイザー・バンド達。既に全米ツアーを成功させたり、アメリカやヨーロッパのメディアなどから絶賛されたアーティスト達が集結。アルバム一枚を通して今の韓国シューゲイザー・シーンがきっと見えてくる。
VA / LOVELESS-tribute-
【トラック・リスト】
01. Only Shallow(Vidulgi OoyoO) / 02. Loomer(電子羊) / 03. Touched(Sunkyeol) / 04. To Here Knows When(Sei & Swann) / 05. When You Sleep(Jowall) / 06. I only Said(Ghostmutt) / 07. Come in alone(ninaian) / 08.Sometimes(namyoon kim) / 09. Blown a wish(Soil Sugar Poco Largo) / 10. What you want(Big baby Driver) / 11. Soon(LoOm)
※アルバム購入者には、デジタル・ブックレットが特典で付いて来ます。
時間を越えても消えることなく影響を与える
先日、渋谷O-nestで行われたイベント「残響shop/残響塾presents-Girls Don' Cry-」に遊びにいってきた。そこに韓国のバンドが出ていたので何気なしに見ていたら、マイ・ブラッディ・バレンタイン(以下、マイブラ)の「only shallow」を演奏し出したもんだからビックリしてしまった。というのも、僕は『LOVELESS -tribute-』の原稿依頼を受けていたからで、まさかこのタイミングで韓国のバンドが『LOVELESS』収録の曲を演奏するなんて、不思議な縁としか言えないと思ったわけである。ちなみに、同イベントに出演していた日本のバンドも、マイブラの曲をカバーしていたと聞いた。本当にすごい影響力を持ったアルバムだなと思いながら家に帰って、『LOVELESS -tribute-』に参加しているアーティスト名を見たらまた驚いた。まさに先ほど見たバンドVidulgi OoyoOが、このトリビュートの1曲目を担当していたのであった。そう、この作品は、新進気鋭の韓国のシューゲイザー・バンドなどによって作られたトリビュート・アルバムなのである。

正直なことを言うと、僕はマイブラの『LOVELESS』をそれほど聞き込んでいない。というか、聞くことができなかった。ジーザス&ザ・メリーチェイン以降の「ノイジーなギターと甘美なメロディの融合」がマイブラの大きな特徴の1つであるけれど、そこに加わった空間を塗りつぶすようなノイズに生理的な拒否反応を示してしまったのである。まだ若かった僕は、救いようのない気持ちになってしまった。まるで、一つのキャンバスに何回も何回も白い絵の具を塗ったような、狂った執念みたいなものを覚えたのである。グランジのほうがよっぽど救いようがあるとさえ感じたことを覚えている。それ以降、折りに触れて挑戦するのだけれど、なかなか全部を聞き通すことができなかった。そういう意味では、確かに僕もこの作品に大きな影響を受けている。
『LOVELESS』は、1991年に発表されたマイブラにとっての2ndアルバムである。16人以上ものエンジニアが関わっているこの作品には、膨大な時間とコストがかかっている。公称の制作費は約25万ポンド、つまり当時のレートで約4500万円近いお金が費やされているのだ。翌1992年、アラン・マッギーの私企業だったクリエイション・レーベルが倒産の危機を迎え、その原因として『LOVELESS』があげられるくらい色々な意味で伝説として語り継がれている。もちろん『LOVELESS』が出たことによって、マイブラの影響は揺るぎないものとなった。2008年にフジロックに出演して、その影響力の大きさを思い知らせたことは記憶に新しい。何せ『LOVELESS』以降、マイブラは新作をリリースしていないのだ。それにもかかわらず、今もそれだけ多くの人たちがライヴに駆けつけるというのは、とてつもないバンドであるということを時間もまた証明していると言っていいだろう。

そんな大傑作が発表されてから、20年の時を経て韓国のバンドたちがトリビュート・アルバムをリリースするというのは実に興味深い。『LOVELESS -tribute-』に収録されているのは、いわゆるシューゲイザー的なものばかりでなく、各々のバンド解釈によるマイブラの楽曲となっている。韓国のバンドというフィルターを通すことで、どのような作品になっているのか。『LOVELESS』という作品に魅了され、未だ見ぬ新作を心待ちにしているファンにとっては、このアルバムを楽しむことは、もどかしくも嬉しいことだろう。マイブラが作りあげた執念は、時間を越えても消えることなく影響を与え続けている。そんなことが、時間が経てば経つほど鮮明になってくるのである。(text by 西澤 裕郎)
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