──この連載の最後に、和田さんに登場して頂いて、高音質配信のこれからについて、いろいろお聞きしようと思ったんですが、和田さんも最近はダウンロードで音楽を買うことが多いですか?

うん、オーディオ評論家という職業柄、もうダウンロードはしないわけにはいかなくなってきた。去年くらいまではまだ、ファイル・オーディオってどうなんだろう? 本当に良いのかな? と思って探っている状態だったけれど、ようやくネットワーク環境も、それを聴くシステムも整ってきたんで。

──ototoyでは去年の8月からHQDの配信を始めたんですが、海外でも高音質ファイルの配信が急に増えてきましたよね。

そう。ヨーロッパのハイエンド・オーディオ・メーカーが次々に始めている。最初のうちはクラシックやジャズが主体だったんだけれど、去年あたりからロックも増えてきている。それもメジャー・レーベルのものを24bitの高音質ファイルで出していて、どういう契約なのかは分からないけれど、少なくとも、ヨーロッパではメジャー・レーベルも要請があれば、原盤を貸し出しているんだね。あるいは、去年、話題になったビートルズのリマスターが、USBメモリーに入れた24bitのファイルでも発売になったり。

──ああ、そうですね。さっき聴かせてもらいましたけれど、素晴らしい音でした。

リマスタリングしたエンジニアのうちの二人が去年、来日した時に、将来的にはさらに高品質のフォーマットで聞けるようになると言っていたんだけれど、もっとずっと先のことかと思っていたら、半年も経たないうちに、もう出ちゃった。

──16bitでもファイル・オーディオは、CDで聞くよりも良い音ですか?

うん、CDをPCでリッピングしてファイルとして聞いた方が、回転系がないとか、いろんなメリットがある。デジタルのピット情報を光学的に読み取って、エラー補正かけてという大変なことをしながら聴いていた訳だからね。今思えば、CDというのは過度期の商品だったんだよ。

──今日はototoyで配信しているHQD音源もいろいろ聞いて頂きました。

うん、ぱっと聴いただけでも分かるね、全然良い音だって。中には、CDで聴いていた音源もあるんだけれど、これ、本当に同じ音源か! と思うくらい違った。今日はファイルをパイオニアPDX Z-10で再生して、そのライン・アウトを僕の普段のオーディオ・システムで聞いているんだけれど、ハイエンド・メーカーのン百万のCDプレイヤーでCDを聞くよりも良いんだ。十数万円の装置で高音質のファイルを再生した方が。再生系の値段ももちろん音の良さには関わるけれど、大元の音源の品質が違うと、もう劇的に違う。だから、これからはファイル・オーディオとうまく付き合えば、そんなに馬鹿高いお金を注ぎ込まなくても、良い音が聞ける。そういう時代になったんだと思う。

──USBメモリーで持ってきたファイル音源をPDX Z-10ならば、さっと聞くことができます。

iPodもデジタルで繋げるしね。iPodドックのNAS5もそうだし、パイオニアのAVセンターのアンプもそう。パイオニアって、アップルのやっていることに理解があって、対応も早い。ファイル・オーディオは今のところ、民生機が少なくて、ある程度、知識のある人がプロ用の機器を使ってやっていることが多いけれど、普通の人が使えるこういう製品がもっと出てくるといいよね。そのために音源ももっと増えて欲しい。日本ではototoyが積極果敢に始めているけれども、メジャーの音源も早くやってくれるといいね。


インタヴュー / 構成 高橋健太郎
写真 丹下仁

和田博巳 茨城県日立市生まれ。1970年、高円寺にロック喫茶「MOVIN’」をオープン。その後ロック・バンド「はちみつぱい」に参加、初レコーディングは72年あがた森魚『乙女の浪漫』。73年にアルバム・はちみつぱい『センチメンタル通り』リリース。85年細野晴臣のマネージャー。ピチカート・ファイヴのデビュー盤「オードリー・へプバーン・コンプレックス」、2nd「イン・アクション」を製作。その後、フリーの音楽プロデューサーに。87年「バンドネオンの豹」に始まるあがた森魚のコロムビア3部作をプロデュース。「バンドネオンの豹」はその年の朝日新聞とミュージック・マガジン誌の年間ベスト・アルバム2位を両誌で受賞。他ではコレクターズ、オリジナル・ラヴ、早川義男、大月ケンヂ他のアルバムをプロデュース。2009年、72年〜75年の「はちみつぱい」のライヴ音源をコンパイルしたCD9枚組みBOXセットを製作、発売。現在は主にオーディオ評論家。