
最初に言っておくと、「パンクとは? 」という議論はあまりに不毛で答えのない問いである。定義にそって行動するのではなく、既存の価値観を揺さぶるものこそが、パンクだからである。一つの答えを出した時点で、それは塗り替えられるためのものになってしまう。パンクは、現在進行形の概念なのだ。これまでにいくつもの雑誌でパンク特集は行われてきたし、パンク本は数多く出ている。僕もいくつか読んだけれど、わかったようでよくわからなかったものが多い。ただ、それらを通じて一貫しているものは、パンクとは何でも受け付ける寛容性のあるものだということである。例えばその音楽性を指して、例えばそのD.I.Y精神を指して、はたまたファッションを指してパンクと言ったりもする。要するに、“パンクとは絶対にこれである”という堅苦しさを持っていそうで実は持っていないのである。思えば、クラッシュはレゲエやダブの要素をふんだんに取り入れていったし、セックス・ピストルズにはマルコム・マクラーレンという仕掛人がいた。パンクは自由で、時に俗っぽかったりする。そんな誰もが出来る敷居の低さがあったから、今でもパンクは存在しているし、ミュージシャンに影響を与え続けている。
今回選ばれた3人は、東京を中心に活動している20代の若いバンド・マンたちだ。音楽だけみれば、パンクというよりも、ハードコアだったりポスト・パンク期の音楽からの影響を感じる。それらはパンク以後に生まれた音楽であり、3人とも少なからずパンクの影響下にいることが伺われる。この鼎談では「パンクとは何? 」のようなことは聞いていない。ちょっとした質問を投げかけ、あとは3人の思うように語ってもらっている。結果として、とてもおもしろいものになっていると自負している。このテキストを読んで、あなたなりのパンクを考えてみてほしい。最後に、僕なりにパンクであることを付け加えておくなら、どんな形であれ行動を起こすこと。それがパンクにとって重要なことではないだろうか。前置きが長くなってしまったが、缶ビールでの乾杯とともに始まった3人の会話をお楽しみ下さい。
インタビュー&文 : 西澤裕郎(StoryWriter)

自分はパンクスだと思ってこれまでやってきました(波多野)
キシノジュンヤ(以下、キシノ) : 俺は全然パンクだと思ってないですね。ヴォーカルのポンタはずっとメロディックなバンドもやっているんだけど、俺は全然パンクを通ってないので変な感じはする。この前CDを出したんですけど、タワレコを見たら、撃鉄がJ-INDIEに置いてあってて、俺たちがJ-PUNKに置いてあったんですよ。J-INDIEって意識もないけど、音的にはむしろ逆なんじゃないかって。
――他の二人はthe morningsをどう思います?
一ノ瀬雄太(以下、一ノ瀬) : 僕は、the morningsは尖っているなって思います。パンクって、言葉の定義がふわふわしているじゃないですか。いわゆるパンクが生まれた時代に音楽をやっていた人たちの考えなんて、僕らに思いようがない。そういうところはありますよ。だから、日本でパンクって言われている人たちとかは、オリジナル・パンクとは違うんでしょうね。日本のパンクというか、別の文脈なのかも。
波多野公士(以下、波多野) : そうですね。自分たちはパンクだと思ってやっているし、自分はパンクスだと思ってこれまでやってきました。
一ノ瀬 : V/ACATIONのライヴを何回か見て、かっこいいなってすごく思いました。それって、多分演奏や曲がどうこうってところじゃなくて、4人のスタイルがすごいって感じたんです。僕らはものすごく適当にバンドやっているんですけど… 。前、打ち上げで波多野君と話したら、すごくちゃんと考えてやっているってのがわかってすごいなって。
波多野 : いやあ、どうですかね。適当ですよ(笑)。
一ノ瀬 : いい意味でですよ! いろいろ考えているんですけど、それを超えてすげえかっこいいなと熱烈に思った記憶がある。
波多野 : ありがとう。でも、パンクかどうかって訊かれたらパンクです。

――波多野君の中でのパンクって、どういうものか言葉にできる?
波多野 : 見たことのないアクションっていうか。
キシノ、一ノ瀬 : ああ。
波多野 : 突拍子のなさというか。何ですかね。予定調和じゃないものが目の前にバーっと叩き付けられたみたいな、テンション上がる感じ。
キシノ : V/ACATIONの音楽を聴いたとき、形は全然パンクとは違う感じで、ハードコアとかそういうものがベースにあるんだけど、すげえ変だなと思ったんだよね。
波多野 : クラシックじゃないよね。黒刷りのパンツをはいて、髪を立ててとかってことではない。そうなったのも、見ていた大人の影響。BREAKfAST、Struggle For PrideやU.G.MANって、普通の格好でサウンドが普通じゃない(笑)。突飛ですよね。
――突飛といえば、3組ともパンクとかハードコアって言葉では括れないと思うんですね。快速東京もハードコア・ベースな音楽ではあるけど、スタイリッシュでキャッチーで、あまり見たことない感じがする。自分たちではどう思っているの?
キシノ : ロックとパンクは違うんだ。
一ノ瀬 : そこの違いとかはよくわからないんですけど、別に僕らはパンクとか言えるほどのレベルではないってことなんですよ。
キシノ : ライヴしている時、すげえ楽しそうだよね。
一ノ瀬 : (忌野)清志郎とかTHE BLUE HEARTSのヒロトみたいな、ロックをやっているような気持ちで快速東京をやっているんです。もちろん、パンクと言われるバンドは大好きで今もすごく聴きますけど、たぶん僕らはそこじゃないんだってことは思います。
キシノ : それは音の形的な意味で?
一ノ瀬 : いや、表面的な意味じゃなくて、気持ちの部分で。何か主張をぶつけるために音楽をやっているわけじゃなくて、わかりやすく人前に出て音楽をやりたいってとこがあるかもしれないですね、うちの場合は。わいわい盛り上がって、楽しい雰囲気で帰ってもらおうって。もちろん、歌は日本語で歌うわけですから、ダサい言葉はイヤ。かっちょいいこと言いたいって気持ちはあります。

――かっちょいい言葉ってどういうものなの? 例えば、90年代後半ってハイスタ(Hi-STANDARD)を筆頭に英詞がすごく多かったじゃん。00年代半ばになると日本語詞が主流になってさ。今回の3組に関していえば、英詞でもなければ、日本語だけどわかりやすいメッセージがあるわけじゃないでしょ。その点で共通しているなと思って。言葉にそれほど重きを置いていない感じがするんだけど、歌詞についてはどう思っているの?
キシノ : これまでのバンドって、そういうメッセージ性みたいなものあったんですか?
一ノ瀬 : 多分だけど、政治的なことを歌っていたUSパンクとかNOFXとかの流れを、日本でやるときにラヴ・ソングにしちゃったのがハイスタとかの時代なんじゃないかな。だから当時はすごく面白かったと思うんだけど、そのあと模倣みたいなバンドが増えたじゃないですか。未だに日本のメロコア・ブームみたいな人気があるのはハイスタのおかげもあって、それで速くて妙にみんな演奏がうまい、ラヴ・ソングをきれいなコーラスで歌うみたいなスタイルが定着していったんでしょうね。だから、今それにむずがゆくなってきている人たちが、出てきたっていうことなんじゃないですかね。
キシノ : たしかに、GOING STEADYとか日本語で泥臭いことを歌うバンドが出てきた流れがあって、それを見て俺はメッセージ的な音楽って形だなと思うようになったんだよね。音楽は単調なのに歌詞で持っていくみたいな形は好きになれなくなったところはある気がする。だから、そういうのに対するカウンターってのはあるかもしれない。青臭いメッセージばかり強調されて音楽じゃないよねみたいな。
一ノ瀬 : 僕はわりとがっつり通ってますね。
キシノ : 俺もGOING STEADYとかはちょっと通ってます。
波多野 : 俺は遠くから見ていた感じですね、どっちかというと。
――ハイスタとかが盛り上がってたのって、波多野君が中学生くらいの頃でしょ? なんで醒めちゃったの?
波多野 : ハイスタについては、あまのじゃくな感じ。みんながわーわー言っているのが苦手だなあ、と。みんなが盛り上がりすぎると、醒めちゃうってことないすか(笑)?
――なるほどね。
波多野 : さっきの快速東京をどう見ているのかって質問に関しては、パンクとは思わないです。スタイリッシュというか、王道をいっていると思う。技術もあるし、曲もキャッチーだし、普段ライヴ・ハウスに来ているお客さんたちにもウケそう。集客のある若いバンドとも関わりがあるって感じもするし。
一ノ瀬 : ホントそうなんですよね。僕ら、変にポップ・ミュージックだと思うんですよ。ロックでポップで、パーティ・ミュージックなんですよね。
キシノ : それって、相手がいるからってことなの? お客さんありきってこと?
一ノ瀬 : 完全にそうです。曲を作る段階で、ここでこうやったらお客さんは肩すかしになるよねとか、ここで盛り上がりそうだけどいかないでおこうみたいなことは考えます。結構ポップにしようって思ってますね。っていうのは、文化祭バンドを組もうみたいなノリで始まったんですよ。だから、快速東京は短くて速い音楽ってコンセプトがあって、ライヴもいっぱいやるバンドにしようってのがあったんです。
波多野 : 一昨年くらいに、PASTAFASTAの赤石に「最近かっこいいバンドいない? 」って聞いたら、快速東京の名前が出てきたんですよね。うちらより年下だって言われて。V/ACATIONって、当時24、25歳くらいで、俺らより年下のバンドっていなかったんですね。心当たりがないレベルでいなかった。だから、それを聞いて快速東京と対バンするのを楽しみにしていたの。赤石からはSNOTTY(角張渉がやっていたバンド)っぽいって聞いていたから、ストレンジなバンドかなと思っていたんですよ。でも見たときの印象は、もっと王道だなと思った。
一ノ瀬 : それは嬉しいですね。僕はメタルとか大好きで、ヴァン・ヘイレンとかオジー・オズボーンとか大好きなんです。ギターを思う存分弾けるってことは、快速東京ではすごく意識していますね。
20年後に、毎回100人のハコが埋まるようなバンドでいれたらいい(キシノ)
波多野 : 技術的なことでいうと、the morningsも快速東京もうまいですよね。実は今回僕が呼ばれたことに、違和感を覚えていて。その違和感の原因って何だろうなって思って、来る前にそれぞれの音源を聴かせてもらって。リリースも同じ時期でしたよね。
一ノ瀬 : そう、たまたまレコ屋で一緒に並んでいる感じですよね。

波多野 : それで分かったんですけど、一般的な耳で聴くとV/ACATIONは、気分が悪くなる人がいると思うんですよ。聴きづらいというか、ノイズの感じだったり、音作りだったり。the morningsと快速東京の音はすごくクリアで、前にしっかり出ている。一般的なロックの音の作り方だと俺は感じたんです。その意味で、目の前にいるお客さんの数が違うバンドだってすごく思ったんですよ。
キシノ・一ノ瀬 : ああ。
波多野 : V/ACATIONに関していえば、100人とか200人のライヴ・ハウスでいいんです。人の顔、友達の顔が見えるっていうのがいいんです。V/ACATIONのライヴを観にきてくれた人と仲良くなれたらいいと思うし、だからお客さんの顔が覚えられないくらいの人数は入れたくないっていう部分もある。その点、快速東京はフジロックとか出てるじゃないですか。すごいなと思う。ただ、俺たちには必要ないんだよね。そういう舞台を意識的にさけるってことはないけど。
――V/ACATIONやLess Than TVのイベントって、本当にお客さん同士の社交場って感じがしますよね。どういう環境でライヴをやりたいかって部分で、ジュンヤ君はどう考えているの?
キシノ : もちろんお客さんが多ければ嬉しいけど、メンバーと話しているのは、最終的に20年後とかに毎回100人のハコが埋まるようなバンドでいれたらいいよねってことですね。いつも1000人ってのは楽しくて気持ちいいんだろうけど、その場を自分たちで作れるような嘘のない感じでやりたい。顔の見えない人たちが偶像崇拝みたいになっちゃうのはイヤなんだよね。そこは波多野君と同じような考えなのかもしれないけど、本当にうちのことを好きな人たちがいて、その人たちとやっているのが楽しい。
波多野 : そうだね。顔の見えない人とかは、極論だけどいないも同然というか。いま20年30年後っていったじゃん。その時に、今来てくれているお客さんがいてくれればいい派なんだよね。今やっている周りの友達がその時もライヴをやっていて、そいつらの子供たちもバンドをやり始めるくらいの感じでやれたらなって、そう思うよ。
キシノ : 友達とやりたいってこと?
波多野 : もちろんそれはやりたいし、それが変わらなければいいなと思う。ずっと顔見知りしか周りにいない状況でやっていても、新しい要素って加わってくるんですよ。友達の友達が友達になったり。そいつらがバンドはじめたり。年にいくつかしか増えないかもしれないけど、徐々に締まってくる感じが心地いい。大きいところでやるとか、新しいお客さんのところにセル・アウトしていくっていう考えは、あまりないかな。
一ノ瀬 : 快速東京に関しては、最初から文化祭バンドとして始まったんですよ。僕以外の3人は大学の後輩なんですけど、そいつらが6月にライヴをしなきゃいけなくて、ギターがいないから僕が弾くって言って始めたバンドなんです。だから、まさかフジロックに出るようなことが起こるとは1mmも考えてなかったですし。さらにCDも出すってことになったんですけど、その時にちょっと待てって僕はなったんです。やっぱりレーベルの人がレコーディング費用とかも出してくれるから、ここは迷惑をかけないくらいの枚数は出そうよって、メンバー・ミーティングしたんですよね。それで、さっきの音質の話がすごく印象的だったんですけど、僕らもあったんですよ、けっこう荒れた音質でローファイな感じにまとめようって意見が。正直、僕も哲丸もそういう音源で好きなものが山のようにあるし、そういう選択肢もあったんですけど、僕らのことを知らない人がたまたま試聴機で聴いて、いいねって分かる音質で出そうって決めたんです。僕らのことを知っている人なんて一般的にはほとんどいないと思ったから、音源は作品として別に考えて、これを聴いてくれる人が一人でも増えればおもしろいかなと思ったので、ああいう音質に着地したんです。

キシノ : 俺らは音質何も考えてなかったです。
波多野 : そうなんだ。
一ノ瀬 : でも、the morningsの音はすごくいいですよ。
波多野 : 快速東京は、知らない人が試聴機で聴いたときにも届くことを目指したCDだって言ったじゃん。俺はそれはまったくなくて、ゼロなんだ。友達にだけ届けたいっす。谷口さんと友達にだけ届けばいいと思って作ったCDだから、俺たちはCD売れてないけど何も気にしてない。the morningsは誰に向けて作ったの?
キシノ : それは、自分たちがよければいいってだけで(笑)。
波多野 : もっと内に向かっているんだ。
キシノ : 本当にどうでもいいの。だってレーベルも何も、ほぼ自分たちでやっているから。
波多野 : 今のことを記録したいってこと?
キシノ : うちらはもうすぐ9年目なんだけど、今までアルバムとか出したこともなかったし、曲が溜まったからアルバムを作ろうかって、それくらいのレベルで始めたことなんだよね。でも、最終的には売るものだから、買ってくれたらいいなとは思うし、聴いてくれたら嬉しいけど、自分たちが一番満足できればいいなって思う。そこしかないといってもいいかなってくらい。
波多野 : 誰に向けてとかいうことじゃないんだ。
キシノ : 最初のころはライヴとかもすごく内向きにやっていたの。それって、実は逆にお客さんをすごく意識していたんだよね。見え方を考えすぎてやっていたと思うんだけど、自分たちが楽しければいいやって吹っ切れてやるようになったら、音楽の幅もライヴの出来もよくなったってとこもあって、それで自分たちの満足のためにやるようになったから、音源制作とか曲作りではお客さんのこと絶対考えないんですよ。ライヴとかはコミュニケーションして巻き込んでいったら楽しいからそうするけどね。
波多野 : なるほど。