樋口 楓 『i^x=K』
最初になんて読めばいいんだ、から始まった樋口楓の1stミニアルバム『i^x=K(いこーるわたし)』。彼女のアーティストとしての魅力を発揮する上で、クールなバンドサウンドが1番マッチしているだろうし、今までの活動を振り返るとそんな印象が強かった。このアルバムを聞いた時に「なんでも歌えるだろうとは思ったけど本当になんでも歌えるんだ」が最初に浮かんだ感想だった。いろんな意味で樋口楓の新たな側面が見られた新境地的なアルバムとなっている。それもそのはずで、クリエイター陣には佐伯youthKや在日ファンクなど、新たな樋口楓を彩るにふさわしい人たちが勢揃いしている。それでも彼女が持つパワフルで繊細な表現力はどの曲も遺憾無く発揮されており、”アーティスト樋口楓”としての期待値は余裕で超えていると言っても過言ではない。
アザミ 『バーチャル・マッチング』
様々なアーティストへの楽曲提供も積極的に行なっており、いろんな場面で作曲家としての印象も強くなったアザミの新EP『バーチャル・マッチング』。このEPを語る上で絶対に外せないのがリードトラックである「アンチポップ」の強烈さだろう。フレーズの気持ちよさ、耳に残るストレートなメロディが歌い出しから、とにかく印象的で、繰り返し何度も聞いてしまう中毒性がある。タイトルはエッジが効いているが、直接的なポップに対する対立命題というわけではない。「アンチポップ」という命題でハチャメチャポップに歌い上げている皮肉さはあっても、ジャンルに対する反立ではないだろう。他にも妖艶に歌い上げる「テンプレコウハイチュウ」やエレクトロ・ポップっぽい「noble fake」など多彩なジャンルをEPを通して楽しむことができる傑作だ。
浮遊信号 『生活と胎動』
業界では珍しい男女デュオで、生身の姿でライブを行うリアルとバーチャルの垣根を前線から覆す立役者となりつつある浮遊信号。新EP『生活と胎動』では、タイトル通り”生活”にフォーカスを置いた楽曲が並んでいる。よくあるアーヴァンで、リッチに焦がれた生活を連想したものではなく、もどかしいどこにでも誰にでも経験しうる若さゆえの青臭さと、2人が奏でる圧倒的優しさが滲み出たハーモニーとのギャップがこのEP最大の魅力。リード曲である「ビイドロヨマのつかいかた」の軽快なギターサウンドは、どこか2010年代の邦ロックを彷彿とさせる懐かしさがあったり、個人的には「ただ 生きていたいのになぁ」と歌う「えすいすとぐーとRe」のちくっと刺さるような葛藤が綴られた楽曲がお気に入りだ。肩の力が抜けたような歌詞ときっちり練り上げられたギターサウンド、そして2人の心地よいユニゾンが光る1枚となっている。