2022/02/18 19:00

REVIEWS : 040 国内オルタナティヴ×ポップ(2022年2月)──那須凪瑳

"REVIEWS"は「ココに来ればなにかしらおもしろい新譜に出会える」をモットーに、さまざまな書き手がここ数ヶ月の新譜から9枚(+α)の作品を厳選し、紹介するコーナーです(ときに旧譜も)。今回はライター、那須凪瑳による9枚。

OTOTOY REVIEWS 040
『国内オルタナティヴ×ポップ新譜(2022年2月)』
文 : 那須凪瑳

東郷 清丸 『ラバ区(EP)』

まず、哀愁と奥行きがあってずっと遠くまで続いていきそうな彼の歌声を初めて聴いたとき、いつかどこかで感じたことのある、強い懐かしさを覚えた。思わず脱力してしまうのだけど、それがすっかり許されていて、そして基本的には楽しさで満ちているのだけど、たまに情緒的にもなってしまう。大人になるとなかなか味わえないその感覚は、私にとって「夏休み」に感じていたものだった。今作5曲入りの『ラバ区(EP)』は、終始静かなトーンで奏でられ、より彼の歌声が際立つ1枚となっている。特に、そんな彼によって歌われる3曲目の“仕事”は、よくありがちな「好きなことを仕事に!」と叫ばれるよりもずっと、悩める大人の背中を押してくれるはず。 ちなみに、2017年にリリースされた、なんと1時間50分にもわたる60曲入りのアルバム『2兆円』は、その長さと後半につれてメロウな雰囲気になっていく構成ゆえに、あなたも"夏休み感"を味わえるはずなので、あわせてぜひ。

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JIJI 『Memories - Single』

ファッションアイコンとして、感度の高い若者から人気を集める、ファッションモデル・JIJI。そんな彼女が2021年に音楽活動をスタート。彼女のファッションといえば、今の時代に逆らい、「シンプルイズベスト」に牙をむくような独自のセンスが魅力的だが、マスに迎合せずに自分の良いと思ったものを貫き通す彼女の姿勢は、音楽にも色濃く現れている。昨年12月にリリースされた本作は、ローファイなサウンドに彼女のスモーキーな歌声がのる、アンダーグランドな雰囲気をプンプン感じる楽曲だ。そこには、大衆ウケを狙わず自分を貫き通す、彼女の「オルタナティヴ精神」を感じずにはいられない。オルタナティヴ・ミュージック好きにはそれだけでたまらないわけだが、さらに心地いいのが彼女のささやくような歌い方。ステラ・ドネリーを彷彿とさせるそれが、心地よいバランスを生み、気が付くと聴き入っている。これはヘビロテ必至の楽曲だ。

スカート 『海岸線再訪』

スカートが昨年リリースした『海岸線再訪』のフレッシュさと潔さは、彼が悶々としたどこかから抜け切ったのだ、という宣言に感じた。特に1曲目の“海岸線再訪”は、澤部渡の高音の伸びが気持ちよく、よく晴れた日に車でぐんぐん南へ向かい、視界が開けた時に広がる美しい海を思い浮かばせるような楽曲だ。2曲目の“背を撃つ風”は、メッセージ性の強い歌詞がポップなサウンドにのって真っ直ぐに響いてくるし、かと思えば3曲目の“この夜に向け”は、色を変えて落ち着いたトーンで描かれ、奥行きのある歌詞が気持ちを落ち着かせ、頭に空白をつくってくれる。曲順にも目をむけてみると、朝から夜に移行していくような流れになっており、気持ちよく晴れた日の『海外線再訪』の1日を思わせる。粒揃いの本作。ぜひ3曲続けて聴いてほしい。

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CHAI 「まるごと」

世の中の美の基準に対し、歌を通して「change!」を発信し続けてきた4人組バンド・CHAI。そんな彼女たちが世界中から支持されていることはもはや言うまでもないが、活動の場を広げると共に、彼女たちの視点や発信するメッセージも、より広く遠くなってきたように思う。それは2021年にリリースされた3作目のアルバム『WINK』の、まるで誰をも包み込むような優しさを持った11曲目“Wish Upon Star”で具現化されていたが、今年1月に彼女たちが放ったニューソング“まるごと”で、さらなる意識の広がりを見せつけられた。 今作は窮屈な社会からの解放を促し、自分を“まるごと愛す”ことの大切さを歌い上げた楽曲。特に楽曲の後半に出てくる歌詞「Dance to live」は、コロナ禍でのライブ規制に苦しんできたアーティストやリスナーはもちろん、人間の根源的な欲求を代弁してくれているかのようだ。 また、なんと今年2月から5月にかけて行われるアメリカ・ニューヨークを拠点に活動する人気SSW・Mitskiの、北米&ヨーロッパ・ツアーのオープニングアクトを務めることも発表されている。今後彼女たちは、世界中にはびこる「既成概念」をどれほど壊していってくれるだろうか。

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この記事の筆者
那須 凪瑳 (Nagisa)

誕生日は森高千里、加山雄三、武田鉄矢、そして金子みすゞなどと一緒。現在はフリーライター、ときどき編集者としても活動しています。

OTOTOY EDITOR'S CHOICE Vol.181 CONTRIBUTORS SPECIAL : レコ屋時代、ジャンルも時代も、まあまあバラバラ

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REVIEWS : 040 国内オルタナティヴ×ポップ(2022年2月)──那須凪瑳

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