『luminous』のテーマは「喪失」と「再生」
──楽曲作りはどういうところからスタートしたんでしょう。
木下:今回はメレンゲのクボ(ケンジ)くんと一緒に作った曲が多いんですけど、それは本当に簡単なスケッチみたいな感じなんで。そこからメンバーと一緒に仕上げていくのが楽しみでしたね。
──細かいところまで決めるのではなくて。
木下:うん、僕がそれで楽しめますから。
──じゃあその、曲に肉付けしていく過程もこれまでとは違う手応えがあった?
木下:ああ……今回音を合わせていくたびにシューゲイザーっぽいのもいいなあっていう感じになってきて。トディ(戸高)が(ギターの)ファズをめちゃめちゃいっぱい買ったらしく、それでシューゲイジングしていく曲が増えていったりもしたんです。でも、そういうのが楽しいんです。自分の作った曲がどんどん変化していくのを受け入れられるようになったし、曲が成長していくのが見えるのが楽しいんですね。それこそが僕がこのバンドでやる意味じゃないかと。
──このメンバーじゃなきゃならない理由。
木下:うん。中尾さんとか勇さんとかトディみたいな音って普通のプレイヤーじゃ出せないですよ。1曲目“Moonrise Kingdom”のいちばん最初のシューゲイジングしていくようなファズの音とか、“ブラックホール・ベイビー”の憲太郎さんのぶっといベースラインとか。このメンバーじゃないと出せない。
──シューゲイザーっぽい分厚いギターの音はするんだけど、重苦しくなくて透明感がある。それがすごくポジティヴで開けた印象に繋がってる気がします。歌詞は決してポジティヴとは言えないかもしれないけど。
木下:(笑)。あははは。小野島さんがレビュー書いてくれたじゃないですか。「亡くしちまった痛みと悲しみが降り積もり透明になったようなアルバム」って。確かにそういうイメージはありますよ。それぐらい僕が体験したことってめちゃくちゃヘヴィなものだったから。……それって過ぎてしまったらなんか凄く透明に近いものになっていくのかなというのを考えてしまいます。
──前回のEPも喪失というか失うことの痛みや悲しみ、孤独が歌われていましたけど、そうしたテーマはART-SCHOOLとして常に抱えているものなんでしょうか。
木下:どんな音楽でも、うっすらどこかに悲しみがある音楽が好きだし、そういう好みというのはあると思うんですけど、喪失と再生みたいなものは実際に自分自身が体験したことだし、それにもうちょっと……ギリシャ神話的なものとか、いままで自分が見てきた映画のイメージとか、そういうのがうまく混じればいいなと思いました。
──喪失と再生というテーマは──こういう言い方をしたら乱暴だけど──歌や、歌に限らずアートとして表現しやすいような気がします。
木下:そうなんですよ。そうなんですけど、実際に体験するとあの時の喪失というのは……本当になにもかもなくなったという感じで。なにもかもなくなって、自分はこれからどう人生を生きていこうかっていう、そんな時期でしたからね、うん…………まあでも、ちゃんと復活して客観的に歌にできて良かったと思うし。風通しのいい感じに。
──あまりにも辛くて生々しい体験だと言語化も作品化もできないけど。
木下:そうなんですよ。だからそこと距離を取って書けるようになるまでが大変だった。
──でも、やっぱりそれをテーマにせずにはいられないわけですね。
木下:うん、自分のなかから自ずとにじみ出てくるものだから。そこでなんか瑞々しい瞬間とかを切り取っていければいいなと思ってはいるんですけどね。でも、ART-SCHOOLの作る音楽ってどこか悲しみはあるというか。ポップなんだけど。
──そうですね。今回戸高さんの曲が2曲も入ってて、しかも歌までうたってますね。どういう経緯でしょう。
戸高:彼が様々な経験をして生還するまでのプロセスみたいなのを見てるから、アルバムを作るとなった時に自分ができることはなんでもやろうと思ってたんですよ。こんな曲がありますっていうアルバムの青写真みたいなデモが送られてきて、足りない部分をちょっと補うようなものだったら作れるかなと思って、書きおろしたって感じでした。
──なにが足りないと感じたんですか。
戸高:この2曲みたいな曲なんですけど……もしかしたら自分の声が入ることでアルバムのエッセンスになる、いまのART-SCHOOLのなかでのエッセンスになるのかなっていうことを、無自覚だけどなにか気付いてたのかもしれないですね。ライヴで何年ぶりなのかわかんないんですけど、自分のヴォーカルの曲をやったらお客さんにすごい喜んでもらえて。リッキー(木下)もすごく喜んでくれて、楽しいよねって。それでもしかしたら、ちょっとやってみてもいいのかなっていう風に思ったのかもしれない。
──長い間歌わなかったのはどうしてなんですか。
戸高:歌う必要がないなと思ってたのがいちばんデカいかな。別に自分の声は(ART-SHOOLに)いらないと思ってましたし。
──それが今回2曲も歌う気になった。
戸高:1曲はリッキーに歌ってもらおうと思っていたんですよ。でも「自分で歌った方がいいよ」って言われて2曲歌うことに。
木下:俺がリクエストしたのかもしれない。作ってきてって。せっかくのアルバムだし、トディの曲が入ってもいいんじゃないかって。
戸高:俺が曲のネタを持っていて、それをバンドで広げていって、歌詞とかはリッキーに書いてもらって、というのはいままでもあったんですよ。
──それは普通にありましたけど、詞も書いて歌もうたうのは、またちょっと違う。
木下:『Flora』をアップデートしたようなアルバム、という構想があったことは言いましたけど、『Flora』にはトディの歌ってる曲も入ってるんですよ。だから(今回戸高の歌が入るのは)違和感とかなかったんですよ。ていうかむしろ、あったらいいなあと。
──今回のアルバムだからこそ戸高さんの声と詞があう。
木下:そうそう。こういう作品だからこそ彼の作品が必要だった。
──彼の声は優しいしメロディーもポップだし、歌詞も素直でキレイだし。
戸高:ありがとうございます(笑)。このアルバムでコーラスをほとんど俺がやっているんですけれども、意外と木下理樹の声と親和性が高いということが発覚しまして。(声が)似てるらしくて、コーラスとか。
──加入して20年たった、いまになって気付いたんですか(笑)。
戸高:そうなんですよね(笑)。
木下:中尾さんが言ってたよね。
戸高:そう。それは俺も思った。
──このアルバムのレビューで、この「最高純度のART-SCHOOLの世界を完成させるためにトディの音と声が必要だったのだろう」ということを書いたんですが、あながち的外れでもなかったんですね。
木下:そうですね。この作品の世界観のピースを埋めるには必要だったということですね。
──歌詞を書く時はどういうことを考えましたか。
戸高:心象風景だったりとか、絵として見えたものを引っ張ってきて。自分の記憶とごっちゃにコラージュして持ってくるみたいな感じです。解釈は聞き手に委ねればいいと思っているので、こうだ! っていうことを言いたいわけじゃなくて、好きに受け取ってもらえばいいし。
──「喪失と再生」がアルバム全体のテーマだとしたら、どちらかといえば「再生」の方を主に戸高さんの曲が担ってる気がしました。
戸高:例えばギターのフレージングだったりとか、そういうものはやっぱり切なさのなかに希望が感じられるようなものを聞きたいし、そういうフレーズをいつも考えたいと思っていたりします。