限界に気づいてしまった、頑張れない大人へ──シンガー、Sean Oshimaが見つけた数々の対処法とは

シンガー・ソング・ライター、Sean Oshima。彼を知ったきっかけは、ファースト・シングル「疲れた日の夜に -Hard Day’s Night-」のMVだった。白い背景に赤いカーペット。真ん中にはSean Oshimaがいて、その一歩後ろには様々な楽器を演奏している人たち。そんなシンプルな映像とともに流れる、ブラスをふんだんに使った華やかでキャッチーなサウンド。だけど歌詞には世の中への皮肉もたっぷり入っている。おもしろいアーティストに出会ったと真っ先に思った。その後も彼は作品をコンスタントにリリースし、ついに今回初のアルバムを完成。大人になって厳しい現実とぶつかった時、私たちはどう向かうべきか。今作には「頑張ること」に疲れた大人のための数々の対処法が描かれている。なんともSean Oshimaらしい、紛れもない傑作である。
限界に気づいた大人のための教科書
INTERVIEW : Sean Oshima

"回せ回せよ哲学を -Imagine-"、"強くてニューゲーム -The New Game-"と、冒頭から続くリバーブのかかったドラムの音を中心としたサウンドとキャッチーなメロディは、まるで80年代のMTVから飛び出してきたような躍動感たっぷりの爽やかな"うきうきポップス感"。だけど歌ってるのは「その夢はきっと叶わない 頑張るほど叶わない」("きれいごと -Fine-Sounding Talk-")なんて、ちょっと引っかかる言葉が多い。かといって、すっかり冷めきっているのかというとそうじゃなくて、モヤモヤの奥に垣間見える熱さも確かにある。ニュー・アルバム『夢が叶わなかったときの10の対処法-10 ways to deal with a broken dream-』は、24歳のシンガー・ソング・ライター、Sean Oshimaが綴った現代を生きる若者のすべてなのか? まずは気になるアルバムタイトルから訊いてみた。
取材・文:岡本貴之
写真:梁瀬玉実
「もう頑張るのはやめようかな」という人たちのための教科書
──アルバムタイトル『夢が叶わなかったときの10の対処法-10 ways to deal with a broken dream-』のことから訊かせてください。「夢を叶えるための~」じゃなくて、「夢が叶わなかったときの~」というのはどうしてなんですか。
Sean:成功体験とか武勇伝、シンデレラストーリー的なお話って結構あると思うんですけど、とはいえ夢って叶わない人がほとんどじゃないですか? みんなどこかうまく折り合いをつけてやっていかなきゃいけない人がほとんどだと思うんです。僕の年齢になってきて周りを見てみると、みんなちょっと気付きはじめるような気がするんですよね。
──Seanさんは、いまおいくつですか?
Sean:24歳です。この年になってくると、「これってもしかしてこんなものでは?」みたいにみんな思ってるじゃないかなと。特に今年のはじめに地元に帰ったときに思ったんですけど、東京の友だちよりも地元のやつの方が達観してるというか、ちょっと大人びて老けてるような感じがしていて。そうなっちゃったときに、そういう「人生の限界」に気づいちゃった人をはどうすりゃいいんだろう? って思ったんです。夢を追いかけてる人たちのための目標みたいなものは世の中にいっぱいあるけど、「ちょっと行き詰まったぞ」っていう人たち、「もう頑張るのはやめようかな」っていう人たちのための教科書みたいなものがあってもいいんじゃないのかなと思って、こういうタイトルにしました。だから曲もそういう感じの内容になってます。
──そう感じたのって、なにか最近の心境の変化があったわけですか。
Sean:ガラッと心境が変わったというよりは、結構、じわじわきた感じです。僕はソロをやる前にバンドをやっていたんですけど、そのとき自分が「こんぐらいになってやるぜ!」って思っていた500分の1ぐらいの結果しか出なかったんです。ちょっとネガティヴな発言になっちゃいますけど、ソロになってからも正直言うと、「もっと行ってもいいじゃん」みたいに思ってるんです。そういうのが積み重なり積み重なり、「もしかしてこんなもんじゃないか」ってじわじわ思ってきたような感じですね。
──そういう気持ちを「だけど明日は頑張ろう」って無理にポジティヴにしようとしている感じでもないですよね。
Sean:今回のアルバムには、曲によっていろんなメッセージがあるんですよ。ですけど、行き詰まったときに、「もういいよ、あきらめていまを楽しく生きようぜ」っていう曲もあるし、「いやいや、まだ俺らが頑張ろうぜ」っていうのもあるし。そこはなにか偉そうに、「俺はこう思うからおまえらもこうしたら」っていうんじゃなくて、聴いた人が「いろんなルートがあると思うし、結局この人もわかってないんだろうな」みたいに感じてもらえたらいいなと思ってます。
──だから「対処法」なんですね。
Sean:そうなんですよ。「とりあえず一旦、いまどうする?」というか(笑)。

──人生終わった、とかじゃなくて(笑)。それを耳馴染みの良いポップスにしているのが今作の特徴ですが、自分が思ってることをどうやってメロディーやアレンジに結びつけましたか?
Sean:サウンドと歌詞のメッセージはあんまりリンクはしてないんですよ。曲は曲で作って、まだ歌詞のない曲をパッと聴いて、言葉にならないけど「なんかこの曲はメッセージがありそう」とか、後から言葉をくっつけていく感じです。
──じゃあ、ネガティヴなことを敢えてポップスと結びつけて表現しようっていうわけでなく?
Sean:そういうわけでもなくて、そこはもっとナチュラルにやってますね。
──アルバムを聴くと、音楽がすごく好きだということが伝わってきました。以前のメールインタヴューでは、中学生に頃にONE OK ROCKに衝撃を受けたのが最初の音楽体験だとおっしゃっていましたが、今作はポップス、ブラック・ミュージックからの影響が感じられます。いまはどんな音楽をよく聴いているんですか。
Sean:いまはもっぱらゴスペルですね。今作でも何曲かキーボードを弾いているキム君(Kim Yugi YJ)が、「ゴスペルの権化」みたいな人で(笑)。僕は彼のピアノがすごく好きで、ゴスペルに詳しいし、そういうフレーズも得意なんです。彼におすすめのゴスペルを教えてもらって、ロサンゼルスのThe City Of Refuge bandっていうゴスペルグループにハマっちゃって、今度観に行くんですよ。
──ゴスペル好きは "うまいことできてる -Thatʼs How it Works" に色濃く出てますね。
Sean:おっしゃる通りです。この曲は結構前から作っていて、ラスサビですごく声が重なるんですけど、あれは完成直前に出てきたアイディアで、最近「ゴスペル、やっぱいいよな」ってなってきたときに、入れるだけ入れようと思って後づけにはなったんですけど、うまくハマってくれたかなと思います。
──これは打ち込みですよね?
Sean:そうです。僕はシガー・ロスがすごく好きで、ヴォーカルのヨンシーのソロも好きなんですけど、結構エグいことをしているんですよ。シガー・ロスって、元々すごく壮大で華やかで、でもオーガニックで。ヨンシーのソロにもそういう音像はあるんですけど、ソロだとそういうなかにどぎついノイズとか入れたりしていて、そういう音像的なカオスもかっこいいなと思って、触発されてやってみた感じはありました。
──なるほど、だからゴスペルで大団円っていう感じになるのに、最後にノイズが入っているんですね。次の "笑い話 –A Funny Story–" が最後の曲ですが、"うまいことできてる -Thatʼs How it Works"と連作になっているんですか。
Sean:連作というより、 "うまいことできてる -Thatʼs How it Works" でアルバム本編が1回終わってるイメージです。"笑い話 –A Funny Story–" は映画でいうエンドロールみたいな存在で。だからマスタリングのときに7、曲8目だけちょっと曲間空けてください」ってお願いしました。

