2023/12/01 12:00

どこまでも漂い、つながっていく──〈odol ONE-MAN LIVE 2023 -1st.show-〉

odol

odolがアルバム『DISTANCES』をリリースしてから約2週間後。11月28日(火)に丸の内のライヴ・レストラン、COTTON CLUBにて、2部制での公演が行われた。ライヴというよりもショウという言葉が似合う、このロマンチックなひとときをライターの小野島大がレポート。ライヴハウスではなく、なぜCOTTON CLUBを会場に選んだのか。その真意を探るとともに、開放感と余白たっぷりのパフォーマンスについて記録している。東京の中心地にひっそりと佇んでいた、シックで美しいこの夜を想像しながら読んでいただきたい。

odol『DISTANCES』をハイレゾで


LIVE REPORT : 〈odol ONE-MAN LIVE 2023 -1st.show-〉

文:小野島大
カメラマン:山川哲矢

ニュー・アルバム『DISTANCES』を発表したばかりのodolのライヴを見た。2023年11月28日、1日2回おこなわれたショウのうち1回目である。

会場が東京駅近くの丸の内COTTON CLUBと聞いて少し驚いた。COTTON CLUBと言えば、全席着席で見る高級ヴェニューで、「ライヴ・レストラン」という触れ込み通り、着席したテーブルでドリンクだけでなく料理も楽しめるライヴ・スペースだ。豪華な内装や都心のビジネス街という土地柄もあって、仕事帰りのビジネスパーソンが主に訪れるような大人向けのクラブで、出演するアーティストもアダルトなポップスやジャズ、クラシック、洋楽などが多い。要はodolのような若いロック・バンドが出演するイメージはあまりない店であり、スタンディングのライヴハウスや大型フェスといったロック・バンドの主戦場とはかけ離れた場所である。

これまでも着席のホールでライヴをやることの多かったodolだが、新作発表直後という、ある意味でもっとも注目されるタイミングで、あえてこういう場所をライヴ会場に選んだことに彼らの強い意志を感じた。彼らは一年中ツアーで全国を飛び回るようなタイプのバンドではなく、決して数は多くないライヴの1本1本に意味とモチベーションを求めるアーティストだ。ミソベリョウ(Vo / Gt)はSNSで今回のライヴについて「集大成を見せる」と述べていたが、つまり自分たちの十全な姿を見せる場所としてCOTTON CLUBがもっとも相応しく、またニュー・アルバムの楽曲を披露する舞台としてもここが適している、ということなのだろう。結論から言ってしまえばそれが現在のodolのいる場所であり、彼らが目指す表現であって、この日のライヴはそれを余すところなく示していた。

ミソベリョウ(Vo / Gt)

とはいえ今回の公演はいわゆるレコ発ライヴとは銘打たれていない。森山公稀(Pf / Syn)によれば「○○ライヴ」というような冠のつかない普通のライヴをやりたかったということだ。もちろん新作からの曲はいちばん数多く演奏されたが、過去のレパートリーからもまんべんなく選曲された。その意味では確かにミソベの言う「集大成ライヴ」ではあったが、そんなおおげさなイベント感はなく、もっとさりげなくodolというバンドのありようをカジュアルに見せた「普通のライヴ」だった。昔の曲であっても、いまの時代に相応しい曲が選ばれ、いまの音楽としての意匠が施されて、集大成であると同時に現在のodolの等身大の姿を見せる。一昨年ギターとドラムが「卒業」して、ミソベ(Vo / Gt)、森山(Pf / Syn)、Shaikh Sofian(Ba)とういうメンバーに加え、西田修大 (Gt / 君島大空、中村佳穂など)、大井一彌 (Dr / DATS、yahyel、THE SPELLBOUNDなど)という腕利きふたりをサポートに迎え、さらにここ数年、odolの多くのレコーディング作品に参加している須原杏(Vn、ASA-CHANG&巡礼など)を加えた6人編成のバンド。アンコールも含め13曲(1st、2ndセットとも本編は同じ、2ndはアンコールで2曲披露したため全14曲)、1時間少しという短い時間だったが、odolのodolらしさ、のようなものはストレートに伝わってきた。

森山公稀(Pf / Syn)

Shaikh Sofian(Ba)

アルバムを象徴する楽曲であり、いまの時代にふさわしいメッセージ性をもった新作のオープナー“望み“がこの日の皮切りに演奏された。出音が抜群にいい。音量は意外に大きかったしハイもローもよく出ていたが、決して耳障りでない。普通のライヴハウスや音響条件の悪い会場が多いフェスではなかなか求められないクリアでバランスの良い、しかも柔らかく優しい音だ。だからバンドの繊細なアレンジと美しい音色、丁寧な演奏が際立ち、ミソベの甘さを含んだ声が放つ歌心と真摯なメッセージがよく伝わってきた。音数は多いが余白も多い。余白があるからイマジネーションを膨らませるスペースがある。なるほど、この音を表現したいから、どうしてもこの音響でなくては、この会場でなくてはならなかったことが非常によくわかった。音楽を楽しみ、その本質に迫るためにできるだけ良い音で聴くことはとても大事なことだと痛感した。特にodolのような内省的でデリケートな音楽はなおさらだ。エンジニアがコツを掴んだのか演奏が進むにつれ音のバランスがどんどん良くなっていたから、おそらく2ndセットは最初からかなり良い音で聴けたはずだ。

着席のヴェニューだから、“four eyes”のような、フェスなら大盛り上がり必至のダンス・ナンバーは演奏されず、じっくり聴かせる曲が多いのは予想通りだが、リズムがしっかりしているから、音が弱くならず力強い。odolの歌の大きなテーマは「つながり」ということだと理解しているが、それはこのパワフルなリズムが支えているからこそなのだとよくわかった。たとえ“遠い街“のような切ない別れを歌っていても、どこかできっとつながっている。そう思わせてくれる現在のodolはバンドとして過去最良の状態にある。そう確信した。

ライヴ中に、来年3月に東阪で『DISTANCES』ツアーがおこなわれることがアナウンスされた。今度はスタンディングのライヴハウスでの開催だ。きっと今日とは違う姿を見せてくれるに違いない。彼らの旅はまだまだ続く。
 

西田修大 (Gt)

大井一彌 (Dr)

須原杏(Vn)

odol ONE-MAN LIVE 2023

公演詳細
2023年11月28日(火)

[1st.show] open 5:00pm / start 6:00pm
[2nd.show] open 7:30pm / start 8:30pm

場所:東京・COTTON CLUB

〈メンバー〉
ミゾベリョウ (Vo / Gt)
Shaikh Sofian(Ba)
森山公稀 (Pf / Syn)
西田修大 (Gt)
大井一彌 (Dr)
須原杏 (Vln)

SETLIST

1. 望み
2. 幸せ?
3. 今日も僕らは忙しい
4. 未来
5. reverie
6. GREEN
7. 時間と距離と僕らの旅 (Rearrange)
8. 夜を抜ければ
9. 三月
10. 幽霊
11. 小さなことをひとつ
12. 遠い街

[1st show Encore]
13. 逃げてしまおう

[2nd show Encore]
13. 飾りすぎていた
14. 虹の端 (Rearrange)

■プレイリスト:https://odol.lnk.to/20231128

odol『はためき』インタヴュー

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LIVE INFORMATION

〈odol ONE-MAN LIVE 2024 “DISTANCES”〉

2024年3月31日(日)
場所:大阪・心斎橋LIVEHOUSE ANIMA

2024年4月20日(土)
東京・下北沢ADRIFT
OPEN 17 : 30 / START 18 : 00

チケット料金 : 前売 ¥5,500 / 学割 ¥4,500(全自由 / ドリンク代別)

■オフィシャル先行予約
受付期間 : 2023年11月28日(⽕)22:00〜12月3日(⽇)23:59
受付URL : https://eplus.jp/odol/

RELEASE

odol『DISTANCES』
2023年11月15日(水)リリース

収録曲
1. 望み
2. 幸せ?
3. 本当の顔
4. 今日も僕らは忙しい
5. reverie
6. 君を思い出してしまうよ
7. 遠い街
8. 泳ぎだしたら
9. 幽霊
10. 三月
11. Distances
12. 時間と距離と僕らの旅(Rearrange)

OTOTOY配信URL(ロスレス) : https://ototoy.jp/_/default/p/1841404
OTOTOY配信URL(ハイレゾ) : https://ototoy.jp/_/default/p/1841415

PROFILE : odol

福岡出身のミゾベリョウ(Vo)、森山公稀(Pf./Syn.)を中心に2014年東京にて結成。ジャンルを意識せず、自由にアレンジされる楽曲には独自の先進性とポピュラリティが混在し、新しい楽曲をリリースする度にodolらしさを更新している。近年は、アース製薬「温泡」、映画「サヨナラまでの30分」、UCC BLACK無糖、radiko、JR東海など、様々な企業やクリエイターからオファーを受け、立て続けに書き下ろし楽曲を提供している。東京藝術大学出身の森山公稀が全楽曲の作曲を担当。ソロ名義でも舞台や映像作品の劇伴、また他アーティストへの楽曲提供、プロデュースなども行なっている。

■公式X:https://twitter.com/odol_jpn
■公式HP:https://odol.jp/

この記事の筆者
小野島 大

 主に音楽関係の文筆業をやっています。オーディオ、映画方面も少し。 https://www.facebook.com/dai.onojima

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