真正面から熱意を届けるバンド、Atomic Skipper──これまでの“軌道”を記録したデビュー・アルバム完成

『Orbital』と名付けられた、Atomic Skippeのデビュー・アルバムにはバンドが歩んできた道筋、そしてこれから向かうべき進路が示されている。──2014年、静岡で結成。2019年に現体制となり、翌年には初の全国流通盤をリリース。そして2023年5月、ついにメジャー・ファースト・アルバム完成という、この1本の“軌道”の先にはどんな景色が待っているのだろう。神門弘也(Gt)が手がけるロック・バンド然としたパワフルな楽曲が収録されている今作だが、なかでも中野未悠(Vo)の圧倒的なヴォーカリゼーションはバンド最大の魅力だ。中野の歌声には、瞬発力と説得力がある。Atomic Skipperが進む先にある景色は絶対に輝かしいものであると確信できるデビュー作について語ってもらった。
Atomic Skipperのメジャー・デビュー作!
※5月24日(水)0時より配信開始します。
INTERVIEW : Atomic Skipper
静岡出身の4人組ロック・バンド、Atomic Skipperがメジャー・ファースト・アルバム『Orbital』をリリースする。配信シングル"tender" "ブルー・シー・ブルー" "アンセムソング" "ウォールフラワー" "アンセムソング"のほか、アルバムのリード曲"ココロ"をはじめとする新曲、さらに"ディアマイフレンド""ロックバンドなら"の再録ヴァージョンなどを収録した本作。「軌道」を意味するアルバム・タイトル通り、これまでの軌跡とこの先の未来が生々しく描かれた作品となった。その根底にあるのは、リスナーと正面から向き合う、真っ向勝負なロック・バンドとしての在りかただ。
取材・文 : 森朋之
写真 : MASANORI FUJIKAWA / TakagiYusuke
のびのび作れたし、すごく楽しい制作でした
──メジャー・ファースト・アルバム『Orbital』、きわめて真っ当なロック・アルバムだと思います。10代が聴けば、バンドやりたくなりそうだなと。
神門弘也(Gt / Cho)(以下、神門):ありがとうございます。いちばん嬉しいです。
──今年2月に東京のLIQUIDROOMで行われた主催フェス〈閃曲万頼FESTIVAL〉でメジャー・デビューを発表。バンド活動に対して、心境やスタンスの変化はありましたか?
久米利弥(Ba / Cho)(以下、久米):自分たちの軸は変わってないですけど、周りから期待の目を感じるというか。プレッシャーとは思ってないけど、「頑張らなきゃ」ってケツを叩かれてるような気持ちにはなりますね。
中野未悠(Vo)(以下、中野):たしかになにかが劇的に変わったかと言われると、全然そんなことはなくて。いままでやってきたことを変えるつもりもないんですけど、「さらに届くように」という意識は強くなってますね。ライヴを見てくれたら好きになってもらえる自信はあるけど、「まず知ってもらう」という壁はかなり高いと思っているので。
神門:女性ピンヴォーカルというスタイルのバンドは、いまは少ないと思うんですよ。馴染みがない人もいるかもしれないし、カテゴライズしづらい音楽なのかなと。もちろん「いい音楽をやっている」という自信はあるし、これまで自分たちが培ってきた力を基盤にしながら、(メジャー・デビューによって)新たな風を入れてくれる人たちと手を取り合って活動できるのはいいことだなと思ってます。

松本和希(Dr)(以下、松本):メジャー・デビューをファンのみなさんの前で発表したんですけど、僕らよりもむしろお客さんのほうが喜んでくれて。それがめっちゃ嬉しかったです。仲間のバンドマンもたくさん連絡をくれて。
神門:ちょっと天邪鬼が入ってたんですよ。「メジャー・デビューしても変わらないぜ」のスタンスでいすぎたというか。
中野:たしかに(笑)。
神門:周りの人が喜んでくれているのを見て、「あ、喜んでいいんだ」と思えて。もっと喜ぶべきだし、自分たちから言うべきだなって。
──バンドのキャリアにおいては、間違いなく大きなポイントですからね。アルバムの制作についてはどうですか?
神門:EP『KAIJÛ』(2022)からいまのチームで制作がはじまって。今回のアルバムもしっかり段階を踏んで、環境を整えたうえで制作に入れたんですよね。もちろん、いろいろ大変でしたけど(笑)、のびのび作れたし、すごく楽しい制作でした。
──作詞作曲を担う立場として悩むことはなかった?
神門:ずっと悩み続けてます。リード曲"ココロ"もですけど、曲を書きなおすという行為をはじめて経験して。「サビのメロディをさらに頭ひとつ抜けたものにしたい」とか「歌詞もっと伝わりやすく」みたいなハードルはいままでなかったし、そういうチューニングが精神的にめっちゃつらかったんですよ。でも、そのおかげでもっといい曲になったという実感があるし、これまでのAtomic Skipperがやってきたことと、これからやりたいことをいい意味で融合できたのかなと。
久米:転換期というか、メジャー・デビューを発表したあとの制作だったんですよね。レコーディングだけに集中するのではなくて、ライヴだったり、その他いろいろとやるべきことがあって、それを同時に進めていて。
神門:3月も10本以上ライヴがあったからね。
久米:きついこともあったけど、メンバーとの連帯感も自然と強くなって、「マジで頑張ろう」っていうグルーヴが出てきて。すり減らすのではなくて、研ぎ澄まされた感じがあったんですよね。ライヴで感じたことを翌日のレコーディングに活かせることもあったし、ドラムとベースで地盤を作れたという手応えもありました。
中野:もちろんピリつく瞬間もあったんですけど、それさえも楽しめるというか、「だよね」みたいな感じでやれたのかなと。最初は「ライヴはライヴでしっかりやる。(レコ—ディグする)曲にもちゃんと向き合う」というふうに分けてたんですけど、途中から「全部一緒だな」と気付きはじめて。すごく充実した期間でしたね。
松本:個人的には"ウォールフラワー" "スタンドバイミー"から制作の仕方が変わったんですよ。スタジオに入ってベースとドラムで合わせるスタイルだけではなくて、ひとりで打ち込みで作ることも加わって。アルバムの制作では両方をハイブリッドできたし、ドラマーとしても自信を持てる作品になりましたね。
神門:曲を作る立場としても、そこはすごく楽でしたね。既存の曲も収録してるんですけど、それと同じか、それ以上の数の新曲を入れたくて、自分の首を絞めてしまって(笑)。メンバーにデモ音源を投げてアレンジも任せた状態で、自分は次の曲を作るという感じだったんですよ。メンバーが、ライヴでやったらどうなるかもスタジオで確認してくれて。そのおかげで楽曲の鮮度を保ったままパッケージできたんじゃないかなと。アルバムを通して聴くと、既存の曲の聴こえかたも変わってくると思うので、そこも楽しんでほしいです。