2022/08/31 12:00

Goldings, Bernstein, Stewart 『Perpetual Pendulum』

デルヴォン・ラマーやコリー・ヘンリーの登場でオルガン・ジャズが気になっている人がいるんじゃないでしょうか。BIGYUKIはオルガン・ジャズをよく聴いていたそうですし、実はドミ&JDベックのドミも明らかにオルガン・ジャズを学んでいて、足踏みベースや左手ベースに長けていたり、クリエイティブな領域でもあるんですよね。そのオルガン・ジャズを90年代以降、けん引してきたトリオがラリー・ゴールディングスのトリオ。ギタリストのピーター・バーンスタイン、ドラマーのビル・スチュワートとのトリオです。この世代はオルガンをファンキーでソウルフルな楽器って扱いだけでなく、現代的な演奏もできる楽器へとイメージを変えていった人たちで、ラリー・ゴールディングスはその代表格。ピーター・バーンスタインはブラッド・メルドーらとの共演でも知られるオーセンティック寄りのギタリストで、ビル・スチュワートはジョンスコを支える名手としても知られる90年代以降のトップ・ドラマー。このアルバムはそれこそウェスやジョージ・ベンソンのファキーなギターが好きな人がそのまま聴けるオーセンティックさを残しながら、コンテンポラリーな要素が細部にふんだんに盛り込まれていて、スリリング。ジャズ喫茶で聴きたいですね。

Sachal Vasandani & Romain Collin 『Still Life』

前作のこちらで紹介した気がしますが、あの傑作の続編です。現代ジャズシーン屈指の男性ヴォーカリストがピアニストとのデュオで紡いだ穏やかなで優しい歌。

「コロナ禍に静かで内省的でニュアンスのある音楽を作りたくなった」「隣人を起こさないような午前2時の友人とのセッションの音」「インテンシティ(強度)とムードが最も重要」

つまりとてもプライベートで親密な音楽であり、それでいて、開かれている音楽と言った感じでしょうか。カヴァー曲が多くて、ビリー・アイリッシュからサイモン&ガーファンクル、サム・スミスからピーター・ガブリエルまでと様々な佳曲がゆったりと奏でられます。僕が思い出したのはキース・ジャレットが妻のリクエストで吹き込んだピアノソロ・アルバム『Melody at Night with you』。卓越した技術を持つシンガーとピアニストがその表現をムードの醸成とそのために最適なニュアンスを奏でるために全力を注いだ贅沢な逸品。

ポストクラシカルなどのチル系の音源でよく使われるピアノのペダルやハンマーのノイズや部屋のこもったアンビエンスを封じ込めた録音も効果抜群です。

Shane Cooper & Mabuta 『Finish the Sun』

コンピレーション『Indaba is』がリリースされて、かなり浸透した南アフリカの現行ジャズ。その現在のシーンの萌芽と言いますか、アメリカ経由のトレンドや技術を身に着けた南アフリカジャズの若手が頭角を現し始めたころに注目を集めていたMABUTAというグループが久々に新作を発表。2018年の『Welcome to This World』のころからハイブリッドでエレクトリックなサウンドが魅力でしたが、その方向性をブラッシュアップしてきたようで、新作では明らかに進化していました。『Welcome to This World』では当時からシャバカ&ジ・アンセスターズの活動などで南アフリカのシーンと密に繋がっていたシャバカ・ハッチングスが参加していて、シャバカ経由のUKっぽさがあったり、カマシ・ワシントンやロバート・グラスパー的な要素があったりと、成長過程の手探り感があったのですが、その頃の技術やセンスはそのままにリズム面でアフリカ色を強めたり、エレクトリックな方向性でもフューチャリスティックでコズミックなテイストが入ったり、一気に独自性が濃ゆくなっています。そして、クラブでかけてみたくなるような音像にもなっていて、その辺りもうれしい。南アフリカのシーンにも成熟の兆しを感じます。

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