2022/08/31 12:00

Gilad Hekselman 『Far Star』

イスラエル出身でNY在住のギラッド・ヘクセルマンは世界屈指のテクニックをもつコンテンポラリージャズ系のギタリストですが、ライブができなかったパンデミック中に自宅にこもって作った異色作。これまでの自身の作品や、インディーロック志向のJohn Raymond & Real Feelsではエフェクトを効果的に使ったエレクトリックな演奏もしてきた彼ですが、自身でベースや鍵盤などの様々な楽器を演奏して、多重録音して、エディットして、アルバム1枚作るのはさすがに初めてで驚きました。何曲かでゲストにも演奏してもらって、おそらくそのデータを送ってもらって重ねたりもしているんですが、基本は自分の演奏がメイン。コロナ禍の内省も含めて様々なフィーリングが聴こえるのと、そのために様々なスタイルで演奏しているので、これまでには見られなかったギラッドが引き出されているのが聴きどころ。エリック・ハーランドやシャイ・マエストロも参加。

Mark Turner 『Return from the stars』

現代ジャズ・サックスの最高峰マーク・ターナーは〈ECM〉との良好な関係を築いたことで、彼の録音がコンスタントにリリースされていて、本当に素晴らしい。ヨーロッパのレーベルだからこそのジャズへの貢献ってこういうところだと思っています。今回はトランペットとサックスをフロントにドラムとベースのリズムセクションのカルテット。ということはオーネット・コールマン&ドン・チェリーのカルテットが思い出される編成。とはいえ、 マーク・ターナーはひと味違います。マーク・ターナーのアルティッシモと、トランペットのジェイソン・パルマ―の滑らか且つエアリーな音色が溶け合って、異なる管がふたつという印象があまり感じられない瞬間もあるのが面白く、もちろん〈ECM〉だからってのもあるとは思うが、ひたすら調和していて、その調和の中でいろんなことが起きている慎ましさもマーク・ターナーっぽい。実はリズムセクションはすごく動いているんですが、それも調和の範囲内で静かに起きていると感じられるのが面白いです。コンポジションへの比重大きめのオーネット編成へのチャレンジだったのかもしれませんね。そういえば、2018年にジョシュア・レッドマンが同じ編成で、ロン・マイルス、スコット・コリー、ブライアン・ブレイドで『Still Dreaming』ってのを出しているんですが、あまりに違うのでぜひ聴き比べてみてください。こういうところにジョシュアとマークの志向の違いがよく表れているのかもしれません。

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Jason Palmer 『Con Alma』

今年のオーセンティックなジャズのベストのひとつかもと思えるのが、前述のマーク・ターナー『Return from the stars』にも参加していたトランペット奏者ジェイソン・パルマ―。この人は演奏、作曲共に超高度で実力はすさまじいのは誰もがわかっていて、それゆえに名門ステープルチェイスがずっと契約し続けてリリースし続けていたんですが、何か足りないって感じでした。ただ、本作はスタンダード中心のわかりやすい選曲だってのもありますが、いきなりグッと掴まれました。レオ・ジェネヴェーゼ、ジョー・マーティン、ケンドリック・スコットの組み合わせはおそらく彼のグループというよりは実力者を揃えたセッションに近いのかなとも思いますが、それでも個々の演奏が刺激的なのに加え、メロディアスでシンプルなジェイソンの演奏をバンドが引き立てているのもわかるし、ジェイソンがバンドの自由度を担保しているのも感じる。均整の取れたカルテットの演奏は何度聴いても飽きません。そして、レオ・ジェネヴェーゼが相変わらず個性的すぎてしびれます。

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