2022/08/31 12:00

Arnaud Dolmen 『Adjusting』

近年はUK経由でカリブ系の音楽を楽しく聴くことができていますが、フランス語圏のカリブ系ジャズもときどきおもしろいものが見つかります。たとえば、マルチニーク出身のピアニストのグレゴリー・プリヴァは何度も来日しています。ここで紹介するのはグアドループのドラマーのアーノウ・ドルメン。グアドループの伝統的な音楽グウォッカに親しみ、グウォッカに使われる打楽器Kaを学んだとのこと。と聞くとかなりカリビアンよりかと思われがちですが、アーノウはどちらかというとかなりジャズ寄り。2017年の『Tonbe Leve』でも、新作『Adjusting』でもスウィングや現代ジャズ的なグルーヴが聴こえて、その中に巧みにグウォッカの要素も入れている、という印象。その塩梅が絶妙なのと、単純にドラマーとしてのポテンシャルが高い且つセンスがいいので、ぜひジャズ・リスナーに勧めたい。

Anteloper 『Pink Dolphins』

シカゴのインターナショナル・アンセムはピッチフォークなどの常連で日本でもそれなりに定着していると思います。こっからリリースされるものにはUSのピッチフォークだけでなく、UKのWIREなどもヴィヴィッドに反応してますが、音楽がハイブリッドになる際、とくにポストプロダクションを駆使した際にポストロックっぽさがでるのが面白いなと思っていて、90-00年代のシカゴ音響派を思い出すことも少なくない辺りが、インディーロックやエクスペリメンタルのリスナーにも自然に訴求する理由なのかもしれません。インターナショナル・アンセムの看板アーティストのひとりジェイミー・ブランチも在籍するプロジェクトのアンテローパーからもそんなシカゴ由来のサウンドを感じます。彼女のトランペットは高い技術がありますが、そこにはD.I.Y.のマインドや成熟や洗練をすり抜けようとするパンク/ハードコア的なアティテュードを感じますし、そこがフリージャズを含む即興手法との相性の良さも生んでいる気がします。と書くと、トータスのジョン・マッケンタイアの出自がハードコアだったことなどが思い起こされたりしますが、近年のジャズミュージシャンたちはアイデアをアイデアのまま出すことや即興的なひらめきが生む熱量や歪みを尊びつつ、技術や構造も愛する姿勢が特別な音楽を生んでいるのかも、とも思います。

こんな音楽を生み出していた才能が夭逝したことは大きな損失だと思います。ジェイミー・ブランチに謹んでご冥福をお祈りします。

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Mark De Clive Lowe 『Freedom』

意外と話題になってないですが、DJにもおすすめなファラオ・サンダースのオマージュ作をマーク・ド・クライブロウがリリースしてました。2018年にLAのブルー・ホエールで行ったライブ音源。ブルーホエールはLAのシーンを支えた西海岸の拠点だったので、コロナ禍に閉店してしまった名店へのオマージュの気持ちもありそうな気がします。 本作はマークがずっとサポートしている西海岸のスピリチュアルジャズのレジェンド・ヴォーカリストのドワイト・テリブルの存在が大きいかなと。ファラオ・サンダースとの共演歴もあるドワイトとファラオをオマージュするってコンセプトだと思います。このころのマークはドワイトの『Mothership』を手掛けていて、ここではサイケデリックなスピリチュアルジャズをやっていたので、その感じもありつつ、同時にマークは『Heritage』という日本をテーマにしたスピリチュアルジャズ作品もリリースしていたので、その流れもありつつ、と言った感じで、2018年ごろのマークの志向が詰まっています。その感じでファラオのインパルス~テレサ・レーベル所属期の代表曲・重要曲をやるので、ファラオ入門的にもいいアルバムだと思います。

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