岡村靖幸 『ぐーぐーちょきちょき』
『NHKみんなのうた』にフィーチャーされ、3月にCDとアナログ7インチを先行リリースしていたシングル曲が5月から配信開始。ビートを抑えたファンクに沖縄島唄とザディコをトッピングしたような面妖なサウンドから、例によって暑苦しいヴォーカルと歌詞まで、変に「子供向け」に調整をしない真剣勝負。それでいて「ぐーぐーちょきちょき」の語感のキュートさでしっかり心弾ませてくれる。近年の岡村作品でも出色の好曲だ。“ステップアップLOVE”(2017年)と同様に、原風景としてのバスケへのこだわりを貫いた“俺だけのバッシュー”、“ぶーしゃかLOOP”のリミックスともども、55歳にして衰えを知らない禍々しさと純真さに背筋が伸びる。
あっこゴリラ 『NINGEN GOKAKU』
あっこゴリラ初のミックステープ。彼女自身もメンバーであるZoomgalsの諸作と同様に、人権といういつの世もアクチュアルかつラディカルな主題と真正面から取っ組み合っている(松島諒『おっさん恐怖症』もこれと共通する手触りが印象的だった)。その姿を成功も失敗も誇りも劣等感も隠すことなく率直にドキュメントし、馬力のあるラップでエンパワメントにつなげていくのは彼女ならではのスタイルだ。マスターベーション賛歌“神器dig it”が話題だが、女性の立場からこのテーマをこんなに明快かつエネルギッシュに歌った曲は日本語では初めて聴いた気がする。「自分に恋する/ウチらの体験/Let's今日も自家発電」のウィットに拍手。
STUTS & 松たか子 (with 3 exes) 『Presence』
取り上げる気はなかったのだが、なんとなく聴いてみたらはまってしまった。インタールードはあるものの基本的には同じ曲の連発。それでもドラマを見なかった僕が十二分に楽しめたのは、KID FRESINO、NENE、T-Pablow、Daichi Yamamotoとそれぞれのラッパーがのびのびと個性を発揮しているのに加え、butajiのメロディのよさ、それを見事に表現する松たか子の歌唱力と、ビートだけでなく音楽全体のプロダクションを采配したSTUTSのセンスの賜物か。甲乙つけがたいが、あくまで趣味で「III」と「V」、あとbutajiが歌う「Reprise」が好き。ふだんこの手の音楽を聴かない中高年の知人がラップやサンプリングをアツく語っていて、本プロジェクト自体の力に感服した。