上白石萌音 『あの歌 -2-』
氣志團『Oneway Generation』と並び、有名曲のカヴァーは料理のし方がメッセージであることを伝える佳作。曲のよさは1970年代編『-1-』の圧勝だが、編曲は7人のアレンジャーが匠を競う80〜90年代編のほうがカラフルで楽しい。GLIM SPANKYの亀本寛貴が手がけた“いかれたBABY”と“青空”がすばらしいが、大橋トリオが遊び心を利かせた“ブラックペッパーのたっぷりきいた私の作ったオニオンスライス”が意外性込みでもっとも印象的。上白石は原曲の音を外した箇所までなぞる音感のよさを見せつつ、発声の強弱や息遣いの微妙なコントロールで個性を刻印する稀有な歌い手。「いかにも上手」に見せない引きのうまさから、四六時中歌っている歌好きなのがわかる。
Kroi 『LENS』
この1stアルバムで初めて聴いたのだが、踊Foot WorksやyonawoやYONA YONA WEEKENDERSにも通じるちょっと古風なファンク・サウンドに一発で夢中になった。R&B、ロック、ディスコ、ハウス、ヒップホップと演奏はなんでもこい。おしゃれに仕上げるのも容易いだろうが、むしろ泥臭いファンキーさに接近していくのは“Balmy Life”や“夜明け”に顕著な通り、ラップと歌を境界線なく自在に往来する内田怜央のハスキーな高音と関係が深いだろうか。押しの強いアップ・ナンバーが持ち味だが、“Pirarucu”や“侵攻”の粘っこいビートや“NewDay”“帰路”のフレンドリーなメロディも魅力的。“selva”のアレンジにも感じ入った。曲が粒揃いで聴きごたえ十分だ。
DAOKO 『the light of other days』
アルバム単位での最新作『anima』(2020年)はメジャー以降のDAOKOのアーティスト像を確立させた名作だったが、このミックステープではLOW HIGH WHO?時代の名コンビDJ6月と組み、小文字のdaokoを思わせるスタイルでカジュアルに楽しませてくれる。とはいえ10年近く前の彼女とは当然まったく違うわけで、例えば“troche”はちょっと舌足らずなポエトリー風ラップになつかしさを覚えるが、フックでは確実に大人になったDAOKOの力強さが伝わってくる。軽快な中にも現在の空気が薄暗い影を落としており、「死ねば明後日の素敵なニュースも知れないよ」(“mercy”)や「安心しようにも 素材がない」(“fighting pose”)などドキッとさせるフレーズも。
YonYon 『The Light, The Water』
今回は4~6月の新作から9作品を選んだが、3月リリースから1作だけ推しておきたい。YouTubeのおすすめで予備知識なしに“Bridge”を聴いて、排外主義的な空気を嘆きながら「境界線なんか忘れて/みんなで踊ろう」と呼びかける軽やかさにいたく感動した。後から調べてソウル生まれ東京育ちのアーティストと知り、「なかったことにできないHistory/暗いままじゃ終われないMy story/私たち一緒に生きている/ここがMy home」の「My home」はソウルと東京の両方にあるからこそ出てきたものだと納得した。その感触は他の曲にも通じる。SIRUPの『Cure』とともに、価値観をアップデートした世代の「新しい強さ」にほれぼれするすばらしい作品。