歌詞はパッチワーク的にはめこんでいくこともあります
──最新アルバム『1999』は、CMソングや映画やドラマの主題歌など、タイアップも含んでいます。タイアップの曲とそうではない曲で、制作過程に違いはありますか?
もちろんすでに作っていた曲をタイアップに、というパターンもあるんですけど、作品のテーマをいただいて書き下ろす場合もあって。そういうときは、もちろん曲単体で聞いた時と、例えば、作品の映像と併せて聴いた時に、より良さが出るようにしたいと思っています。タイアップさせていただく作品の良さも引き出せるものにしたいという気持ちが湧くので、意識するバランスが、曲を作る段階で結構違いますね。
──テーマをもらって楽曲を作るタイアップの場合、ある程度テーマが固まっていた方がスルッと書ける方なんですか?それとも全くそうじゃない方が良かったりするんですか?
今のところ、楽曲に対してすごく強い縛りみたいなものはもらったことがないんですよね。やりやすく、大きなお題をもらうことが多いです。テーマを与えられてから、自分の作りたいものが自然に出てくることもあるので、それも楽しいなと思ってます。
──普段から制作のときは、自分自身にお題を出して作っていたりするんでしょうか?
そんな気がします。自分のなかでお題を出して、そのテーマにちなんで書いている気はします。かっちりしたお題じゃなかったとしても、今回は歌詞に重きを置いてみようとか、ストロングポイントみたいなのは毎回違いますね。その時々で自分のなかで変わるものに沿って作っているような気がしますね。
──今作は、楽曲のテーマはもちろん、さまざまな方が手がけた多彩なアレンジも聴きどころだと思います。アレンジに関してはどのようにして作り上げていくんですか?
私自身がすごく音楽のことに詳しいわけじゃないので、「ここはこういう楽器を使いたい」という気持ちが言語化できない時もありますし、浮かばないこともあるので、そういうときは、アレンジを担当する方に結構お任せすることも多いですね。でも、曲に対しての世界観や感覚的な部分、例えば色だったり匂いとか湿度みたいなところは自分の中でも大切にしているので、それは余すことなくなるべく全部お伝えしています。その上でアレンジしてもらって組み立てて行くっていう感じが多いです。あとはリファレンスで、具体的に「誰々のこの曲のこういうイメージで」って伝えることもあります。今回は、色んな人に音を重ねてもらったりしたので、アレンジの幅が広がった気がしますね。
──具体的に「この曲の元ネタはこれです」みたいなものがあるんですか?
“東京マーブル”は、mihimaru GTさんの“気分上々↑↑”とJamiroquaiの“Virtual Insanity”をリファンスにしてるんですよ。仕上がりは全然違うんですけど、コード感とかそういう部分を意識して伝えました。他にも、“スローモーション”は椎名林檎さんの“ギブス”を聞いて、こういうテーマで作りたいなって言うのを思いながら書いていました。
──なるほど! そうだったんですね。アレンジを入れるまえの楽曲のベースとなる部分は、弾き語りで作ることが多いんですか?
ほとんど弾き語りで作っていますね。あ、でも「U+」は弾き語りじゃなかった気がします。もうギターも弾かずに、ほとんどアカペラで冒頭の「神か仏かそれとも己か」っていう節回しを思いついて、それをメモしてそのまま作り始めた気がします。それからメロディーラインとか他の部分を作っていきました。
──にしなさんの楽曲って、歌詞から作っているようなものもあれば、リズムを重視して作っているような曲もあって、制作方法がバラバラのような気がしたんですよね。実際は、どこから作っていくことが多いんですか?
そうですね。結構バラバラなんですよ。歌詞から書くこともありますし、ギター弾きながら歌も歌うんだけど、メロディーに重きを置いて、歌詞はそこにパッチワーク的にはめこんでいくこともあります。“FRIDAY KIDS CHINA TOWN”とか“東京マーブル”がそうですね。ざっくりテーマだけ決めて、メロディーを作って、歌詞はそこにハマるようなものをはめこんでいきました。歌詞については、メロディーではめ込んで意味付けをして行くこともありますね。なんとなく作る段階で入れた言葉って、やっぱ自分の中に残ることが多くて。意味を取るならこっちの方が良いんだけど、でも最初の方がハマっていたなみたいな感じで作っています。
──楽曲の作り方は、あえてバラバラな手法で作っているんですか。
よく言えば、あんまり作り方にこだわらないんですよね。まあ、悪く言うと飽きちゃうんですよ(笑)。今日はどうも歌詞から先に書くやり方では作れないみたいだから、メロディーから作ってみようかなみたいな感じで、そのときの何となくのモチベーションがある方向で作っていくっていう感じですね。
──途中まで作った曲をそのまま温めておくこともありますか?
断片的に作ってみたあとで、気に入るんですけど。そこから飽きちゃったり、なにも浮かばなくなって何年も置いちゃうことも割とあったりします。