2021/10/07 11:00

birch『私だけの朝』

roppenや「夢見る港」のメンバーで鍵盤奏者/ソングライターとして活動する松野寛広によるソロ・ユニット、birch。ティン・パン・アレー直系とも思える洒脱なポップ・ミュージックへのひたむきな愛を寡黙に貫く男のこの初ソロは、英国トラッドからアントニー&ザ・ジョンソンズのようなオーケストラル・ポップまでを視野に入れたすさまじい完成度の高さだ。しかも、自ら歌うことなく表情豊かな菅野みち子(元秘密のミーニーズ)に全曲ヴォーカルをまかせているのだからどこまで謙虚なのか。のみならず、それを決して高尚なものとせず、裏方的なポジションから 親しみあるポップスとしての高みを目指しているような、言わばブリル・ビルディング系プロダクツの後継者であろうとする。バカラックの曲を歌ったディオンヌ・ワーウィックのアルバムにも匹敵する深いカジュアルさに心が踊り、曲名にもそのまま現れている「ジョンヘンリー」のようなプロデューサーになっていくだろう彼の未来に気持ちが高ぶる。

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kiss the gambler 『黙想』

音楽をカジュアルに継承するという意味では、東京出身の女性シンガー・ソングライター「かなふぁん」によるこのソロ・ユニットも、birch同様にポップスを決して難しく解釈せず、あくまでわかりやすい、親しみやすいものであろうとするドレスダウン感の新たな提唱者と言っていい。ものづくりそのものへの興味と、カナダ滞在時の洋楽体験などが合流し、ソングライティングを始めたという「かなふぁん」は、しかしながらいきなりライヴハウスなどに出演することなく、アマチュアが自作の曲を持ち寄って発表する定期イベントから登場して来た変わり種。ポップすぎるほどにポップなフックを持つ彼女の曲には、この20年ほどの間に急速に変貌を遂げてきた「メロディアス」の概念を今一度揺り戻し、複雑な展開の曲を最初から放棄することの覚悟がある。USインディー好きながら、スキマスイッチやaikoらの大衆性に心を許せることの“器の大きさ”が実感できるこの稀有な音楽家に、本日休演の岩出拓十郎ら参加者たち仲間が絶大な信頼を寄せているのも納得。

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butasaku 「the city」

今年2021年を象徴する国内作品のひとつは間違いなくテレビドラマ『大豆田とわ子と三人の元夫』の音楽だろう。もちろん、STUTS、松たか子、あるいはKID FRESINOらが制作で交わった主題歌「Presence」のみならず、サントラに関わった坂東祐大の活躍も今年のクロスオーバーする動きを語るに重要な人物だ。そして、「Presence」の松たか子の歌唱パートのメロディと歌詞を書いたbutajiも今年後半の台風の目。京都在住のトラックメイカー、荒井優作と組むこのユニットの新曲は、幻想性と心地良さの隙間から覗き込んだ、個人が多数に侵食される現在の都市の風景を描いたような「アンビエントR&Bソウル」。あらゆる線引きが曖昧になっていることの是非を考えさせられる素晴らしい曲だ。10月6日にリリースされるtofubeats、STUTS、石橋英子らが参加したbutajiのニュー・ソロ・アルバム『RIGHT TIME』は間違いなく国内ポップ・ミュージックの地図をこれから時間をかけて塗り替えていくに違いない。

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岡村詩野音楽ライター講座 2021年10月期

音楽評論家として活躍する岡村詩野の指導のもと、音楽への造詣を深め「表現」の方法を学ぶ場、「岡村詩野音楽ライター講座」。

2021年の10月期では、3ヶ月に渡る全5回の講座を開催! 音楽ライティングの基礎から応用までをじっくりと丁寧に学んでいきます。

今回は、「Year In Music 2021──アーティスト、楽曲、ミュージック・ビデオの視点で考える今年のベスト」をテーマに、全5回の講座を開催。

受講生は、2021年にリリースされた作品の中から、今年何が起きたのかを振り返りながら、2021年に活躍したアーティスト、リリースされた楽曲、ミュージック・ビデオの3つの要素からそれぞれのベストを選びます。そしてアーティスト、楽曲だけでなく映像表現にも焦点をあてながら、様々な視点から2021年の音楽を文章として残すことに挑戦していきます。

また、12月4日(土)に開講される10月期の最終回では、折坂悠太をゲスト講師として迎え、岡村詩野を聞き手にオンラインでの公開インタヴューを実施。

公開インタヴューでは、前作『平成』から新作アルバム『心理』のリリースまでに起きた心境の変化や、楽曲に込めた想い、全8都市を回るホールツアー「心理ツアー」を終えた現在の様子を語っていく予定。さらには10月期のテーマである「Year In Music 2021──アーティスト、楽曲、ミュージック・ビデオの視点で考える今年のベスト」にちなんで、折坂悠太自身とともに「2021年の音楽」について振り返っていきます。

本講座は、Zoomを使用したオンライン講座なので、全国どこからでも、海外からの参加も可能です。

ライティング経験者はもちろん、初心者の方も大歓迎。この講座を通して一緒に、音楽を言葉にする「表現」の方法を学んでいきましょう!

■10月期 スケジュール
・2021年10月9日 (土) 13:00〜16:00
・2021年10月23日 (土) 13:00〜16:00
・2021年11月6日 (土) 13:00〜16:00
・2021年11月20日 (土) 13:00〜16:00
・2021年12月4日 (土) 13:00~16:00 (折坂悠太出演回)
※折坂氏の登壇は、13:00~14:30を予定。

【受講料】
事前申し込み
・全日程通し 22,000円(税込)
・単回 4,500円(税込)
・公開インタヴュー部分のみ参加 : 2,000円(税込)

※事前申し込みは、クレジットカード / 銀行振込で、講座前日までにお支払いいただきます。
※銀行振込の場合、お申し込みから3日後もお支払いが確認できない際は、お申し込みをキャンセルとさせていただきます。
※ご参加の際、Wi-fi接続を推奨しております。

■ご用意いただくもの
講座に参加いただくためのノートPC、タブレット、スマートフォンなど。

〈岡村詩野音楽ライター講座2021年10月期〉 特設ページ
https://ototoy.jp/school/event/info/268

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