ロスレスとは?~聴き比べながら検証してみよう~

2021年6月にApple Musicがハイレゾとロスレスを解禁し「ロスレス」に注目が集まりましたね。このページをご覧になっているあなたは「ロスレス」という言葉の意味を正しく理解できていますか? ここでは「ロスレス」とは、なにを表しているのか。新人編集者の東原が「ロスレス」という言葉の意味や音質について疑問を持ったので徹底的に調べました。またフリーでダウンロードできる音源もご用意していますので、みなさまも聴き比べながら一緒に詳しくなりましょう。
text by : 東原春菜
〈目次〉
音質
圧縮性能
音声コーデック
音質の聴き比べ
最後に
音質
ロスレス
CD音源(16bit/44.1kHz)と同等の音源データのこと。非圧縮音源と、劣化させずに圧縮して保存ができる可逆圧縮音源がある。圧縮による「ロス」がない(レス)という意味で、一般的にCD音質のデータをこう呼んでいる。
ハイレゾ
CD音源(16bit/44.1kHz)を超える量子化ビット数/サンプリング周波数(24bit/44.1kHz以上)を持つ音源データのこと。その分、CD音質の音源データよりも容量は大きくなってしまうがより繊細な表現がデータで表現できるため、より深いサウンドを聴くことができる。
●上記より、もっと詳しいハイレゾの説明はこちらから
■音質とは
音や声の品質のこと。音には以下の3つの側面があり、音質はそれらの性質をお互いに及ぼしあいながら決まる。
1.物理信号としての側面
2.聞く人間の聴覚心理学的な側面
3.音声や音楽など音の集まりで表された表現という側面
また、音質を測る上で大切なのが、以下の3つの単位。
①bit(量子化ビット数)
音の強さ(大小)をどれだけ細かく表現できるかを示した値。数値が低いと小さな音はノイズと認識され、数値が大きいほど細部の音が再現されるようになります。
②kHz(サンプリング周波数)
原音をデジタル化するとき、1秒間に何回サンプリング(標本化)するかを示した値。サンプリングの回数が多い(値が大きい)ほど細かくデータ化できます。
③ビットレート
Bit Per Secondの略称。データを送受信する際に1秒間あたりどのくらい転送したのかを示した値。ビートレートが高いと、たくさんのデータを転送できるため滑らかなデータを受信することができ、低いと転送できるデータが少ないため途切れ途切れになってしまいます。
圧縮性能
可逆圧縮音源 ⇒ 代表的な形式 : ALAC、FLAC

※この図は、圧縮されてから解凍したときの音質を表しています。
それぞれの形式(コーデック)のルールに従って音源データの保存時の容量を少なくし(圧縮)、再生するときにはそのルールに従って展開することで、元の音質を再現するデータ形式。非圧縮形式よりも容量は少ないが、不可逆圧縮形式ほどデータ容量を削減できない。音質を劣化させずにデータ容量を少なくできるのでロスレス(CD同等音質)やハイレゾ音源を扱う場合にこの圧縮形式が使われることが多い。
非圧縮音源 ⇒ 代表的な形式 : WAV、AIFF

CD音質(16bit / 44.1kHz)やハイレゾ(24bit/44.kHz以上)のもともとのデータ形式。もちろんスペックのままの音質を聴くことができる。その昔は、圧縮音源を基準に相対的にデータの容量が大きいとされていたがそれも20年前の話。
不可逆圧縮音源 ⇒ 代表的な形式 : AAC、MP3

人間の視聴覚で聞き取りにくい音をカットし、容量を小さく圧縮する形式。その分、音質が犠牲となり劣化する。実際に情報がカットされているので、一度圧縮してしまうと例え非圧縮形式に戻してももとの音質は戻らない。
■圧縮とは
大量の情報が入ったデータを、できる限り保ったまま容量を減らすこと。
また圧縮することで端末の負担を減らすことができるが、容量が減っているため元の情報より質が落ちている。
音声コーデック
ALAC
Apple Lossless Audio Codecの略称。Appleが開発した音楽・映像配信サービス“Apple Music”や、メディアプレーヤーのiTunesで使用されている可逆圧縮の音声ファイル形式。拡張子は「.m4a」。量子化ビット数は16、20、24、32bit。サンプリング周波数は1kHz〜384kHzまで対応している。(OTOTOYでは、量子化ビット数/サンプリング周波数は32bit整数/384kHzまで対応)
ALACを手紙に例えると
新品な紙にメッセージを書き、縦に一回折り曲げて相手に渡す。手紙を受け取った人は、縦に一回折り曲げていることを知ると開くことができる。しかし一度、紙が折り曲がっているため一本のしわができ、新品な紙の状態で読むことはできないが文字はしっかりと読める。
FLAC
Free Lossless Audio Codecの略称。フリーで提供されている可逆圧縮の音声ファイル形式。拡張子は「.flac」。量子化ビット数は、4bit~32bit。サンプリング周波数は1Hz~655.3kHzまで対応している。(OTOTOYでは、量子化ビット数/サンプリング周波数は24bit/192kHzまで対応)
FLACを手紙に例えると
ALACと状況は似ている。違うところを説明するとFLACは、手紙が横に一回折られている状態。また受け取った人は横に一回折り曲げていることを知り開くことができる。
WAV
Microsoft社とIBM社により共同開発された音声ファイル形式であり、様々なデータをファイルに格納する方式を定めたフォーマット、RIFF(Resource Interchange File Format)の一種。一般的に非圧縮の音声ファイル形式だがデータ形式は自由でMP3、WMAなどの圧縮データを格納することも可能である。またRIFFだと識別子が「WAVE」であるが、拡張子は「.wav」になり、web(ウェブ)と発音の響きを区別するためWAV(ワブ)と呼ばれるようになった。
WAVを手紙に例えると
新品な紙にメッセージを書き折り目を付けず相手に渡す。手紙を受け取った人は、新品な紙の状態のまま文字が読める。
AAC
Advanced Audio Codingの略称。iTunes Storeが採用している不可逆圧縮の音声ファイル形式。拡張子は「.m4a」。音声データを圧縮する方式である、MP3(MPEG-1 Audio Layer-3)に継ぐ動画データに含まれる音声データの圧縮方式のひとつ。量子化ビット数/サンプリング周波数は、24bit/96kHzまで対応している。しかし不可逆圧縮のため非圧縮や可逆圧縮の音声ファイルより音質が劣る。また不可逆圧縮のためロスレス、ハイレゾとは呼ばない。
AACを手紙に例えると
新品な紙にメッセージを書いたが、重要なことを早く相手に知らせたかったため「はじめ・なか・おわり」の「はじめ・おわり」をハサミで切り捨て「なか」の部分だけ相手に渡すことに。手紙を受け取った人は新品の紙がどんな状態なのか、かつ「はじめ・おわり」の文章を知らないまま文字を読む。
●上記より、もっと詳しい音声コーデックの説明はこちらから
■音声コーデックとは
送られてきたデータを音声ファイルの形式に従って符号化したり、符号化されたデータを元の状態に復号したりする装置やソフトウェアなどのこと。
音質の聴き比べをしてみよう
「ロスレスのALAC」「ハイレゾのALAC」「AAC」それぞれどのような聴こえ方がするのか。今回シンガーソングライター、ぎがもえかに登場していただき音質の聴き比べを体験してもらいました。音源形式によって本当に音の聴こえ方が異なるのか、ぎがもえかのリアルな声をお届けします。

ぎがもえか PROFILE
1997年4月11日 神奈川県生まれ。3歳からピアノに触れ音楽と過ごす。19歳よりガットギターに持ち替え、都内を中心に活動を開始する。洗い立てのシーツのように透明感のある歌声と、一滴ずつハンドドリップするような温かいサウンドでライヴ感の溢れる音楽を生む。
本を読まない日はないという自身のライフスタイルならではの歌詞世界も魅力の一つ。手紙社が主催するテキスタイルと手芸の祭典「布博」など様々なイベントへの出演と同時に、自身がリスペクトするアーティストを招いてのコラボ演奏を定期収録している。
■HP
https://moekagiga.com/
https://twitter.com/moekagigastaff
■鈴木晶久“花火”
まずはぎがもえかに、この企画のために鈴木晶久にサード・アルバム『I want you』からフリーで提供していただいた“花火”を、スピーカー(ADAM AUDIO T5V)とヘッドフォン(SONY MDR-CD900ST)で試聴してもらいました。ロスレス、ハイレゾ、AACが揃っていますので、ぜひダウンロードして音質を聴き比べてみてください。
鈴木晶久 PROFILE
東京を拠点に活動するシンガーソングライター、鈴木晶久。青山陽一のバンド、ムーポンズやタマコうぉるずのメンバーたちと結成した双六亭でギタリストとしても活躍し、2021年2月にソロとして10年ぶりのサード・アルバム『I want you』をリリース。
■HP
https://www.suzukiakihisa.com/
https://twitter.com/bellwoodkun
“花火”の聴き比べ
ロスレスのALAC

ぎがもえか : スピーカーだとロスレス、ハイレゾ、AACの違いが全く分からなかったんですけど、ヘッドフォンで聴いたらロスレスがいちばん好きな聴こえ方をしていました。普段、楽器のオケをレコーディングスタジオで録って、そのあと家に持ち帰って自分の環境で聴いて聴こえすぎる部分を削っているんです。なので私は、ロスレスがいちばん聴きやすい音質だと思いました。
AAC

ぎがもえか : 普段スピーカーで音楽を聴くときは、ADAM AUDIO T5Vのような有線で繋いでいるスピーカで聴いているわけではなくて、スマホかBluetoothの小さいスピーカーで聴いているので聴き慣れている音質でした。改めて有線で繋いでいるスピーカー、かつ静かな環境でAACの音質を聴いてみると低音が前に出ていてモヤモヤした音がはっきり分かりますね。
ハイレゾのALAC

ぎがもえか : ハイレゾは音質がいいからなのか、歌が入ってきたときに身近な音に感じず遠い聴こえ方がして、音域のバランスがきちんと成り立っているなと感じました。けれど、やっぱり私は聴こえすぎちゃう部分を削りたいなと思ってしまいますね。
“敵わない”の聴き比べ
次に、ぎがもえかが作詞・作曲をし、マスタリングまで立ち合った音源だとどのように聴こえるのか。“敵わない”の音質を聴き比べて検証してみました。こちらはハイレゾがないため「ロスレスのALAC」と「AAC」での聴き比べとなります。
■ぎがもえか“敵わない”
ロスレスのALAC

ぎがもえか : ロスレスは声が立体的に聴こえるから、自分の音源も鈴木晶久さんの音源もロスレスがいちばん聴きやすかったんだなと分かりました。AACで聴くと低音が前に出てくるし、レコーディングした音源を自分の環境で聴いて聴こえすぎる部分は削って調節しているので、聴いてもらうんだったらCDと同様の音質で聴けるロスレスで聴いてほしいです。
AAC

ぎがもえか : さっきも言ったように普段AACを聴き慣れているから音質は悪くないと思います。けれど楽器の面で言えば“敵わない”をレコーディングして、MVを撮ってYouTubeにアップロードされたMVをメンバーのみんなで聴いたとき「結構ベースが出てるね」っていう話をしたんです。今回の聴き比べで分かったんですけど、低音が前に出ている原因はAACで聴いていたことも理由だったと気づかされて、私みたいにAACで聴く人もいるから今後の音作りはもっと考えて制作していかなければならないなと思いました。
音源の中身
“花火”ALACの中身


上に表示されている「ロスレスのALAC」※表1と、「ハイレゾのALAC」※表2を見るとハイレゾの量子化ビット数/サンプリング周波数は24bit/48kHzであり、ロスレスよりも音質が良いことが言えます。しかし音質の部分で説明した通り、ハイレゾは繊細な音域データが入っている分、音源ファイルのサイズとビットレートがロスレスの約2倍以上もあり容量が大きいことが分かります。※FLACの中身は、ALACとほぼ同じなので省略。
“花火”WAVの中身


ALACの中身と同じように「ロスレスのWAV」※表3と、「ハイレゾのWAV」※表4を見るとハイレゾの容量がさらに膨大になっているのが分かります。また「ロスレスのWAV」と「ハイレゾのALAC」の音源ファイルのサイズとビートレットは、ほぼ同じということも分かりました。
“花火”AACの中身

AACの中身を見ると音源ファイルのサイズが10MB以下、ビットレートが320kbpsとギュッと圧縮され最も容量が小さいことが分かります。これは音声コーデックの部分で説明した通り、不可逆圧縮のため非圧縮や可逆圧縮の音声ファイルより音質が劣っていると言えます。
試聴時に使用した機材
■パワード・スタジオ・モニター・スピーカー : ADAM AUDIO T5V
■密閉型スタジオモニター・ヘッドフォン : SONY MDR-CD900ST
■USB DAC : iFi micro iDSD
■パソコン : Surface Pro 7、Windows 10
最後に
みなさんも実際に聴き比べていかがでしたでしょうか。
私は実際に聴き比べてみて、ロスレスとハイレゾの違いを見極めることができなかったですが、音源ファイルの中身を調べてみると「量子化ビット数/サンプリング周波数」「音源ファイルのサイズ」「ビットレート」と、たくさんの違いがあることに気づくことができました。またロスレスは、いかに容量を取らずに良い音質で楽しむことができることを知れました。音楽は誰かの手で作られ、楽器の構成や音質などあらゆる時間をかけ作成されたものです。そのためにもアーティストがこだわった音質を劣化させることなく音楽を楽しみたいと思いました。