2023/12/14 17:00

“うしろから”ライナーノーツ Vol.3 : YOSSY LITTLE NOISE WEAVER 『WOVEN』(2007年10月9日リリース)

「OTOTOY うしろからライナーノーツ」は、その名の通り、リリースしてから時間を経た作品に、さまざまな角度からスポットを当て、リリース当時にあまり語られていない、もしくはいまだからこそ語ることが新たにある、そんな、新譜ではないけど、ひとつ記事を残しておきたい、そんな作品にOTOTOYが“うしろから”ライナーノーツ的な記事をはさみ込んでいく、そんな連載です。

今回は2007年リリースのYOSSY LITTLE NOISE WEAVER 『WOVEN』をフィーチャー。伝説的なスカ・バンド、Determinationsや、オリジナリティ溢れるダブ・サウンドを奏でたBUSH OF GHOSTSを経て、YOSSY(キーボード・ヴォーカル)とicchie(トランペット・トロンボーン)が2005年に始動したユニット、本作はそのセカンド・アルバム。リリースから16年を経た本作を、今回は松永良平による新たな取材を元に「“うしろから”ライナーノーツ」として本作を解説します。本文内のふたりの発現はすべて今回の取材によるものです。

OTOTOY “うしろから”ライナーノーツ 003

YOSSY LITTLE NOISE WEAVER 『WOVEN』

2007年10月9日リリース
レーベル : Farlove
取材・文 : 松永良平
ライヴ写真 : 奥村達也

今回の作品 : 2007年リリースのセカンド・アルバム

ふたりだけで作りあげたスタジオ、そして作品

YOSSY、『WOVEN』リリース当時のライヴ写真(写真、奥村達也)

 ひとりぼっちのふたり。あるいは、オールトゥギャザー・アローン。このアルバムを聴くと、いつでもそんな言葉が頭のなかをふわふわと浮遊する。
 YOSSY LITTLE NOISE WEAVER(以下、YLNW)のセカンド・アルバム『WOVEN』(2007年)は、失礼な言い方ながら、長い間見過ごされていた作品だった。Determinationsの活動後期に、バンド・メンバーであり、公私にわたるパートナーでもあったYOSSYとicchieが結成したデュオ・ユニット。本人たちの言葉を借りれば、それはバンドというより「自分たちが表に出るんじゃなくて、ゲスト・ヴォーカルを呼んで作品を作る、プロデュース集団みたいな形」(YOSSY)だった。確かに、2006年にリリースされたファースト・アルバム『Precious Feel』を今聴くと、EGO-WRAPPIN'の中納良恵のゲスト参加などもあり、彼ら自身の主役としての存在感も、作品を包むムードもずいぶんと異なる。
 当時はまだDeterminationsや、icchieが参加していたBush Of Ghostなど帰るべき場所がふたりにはあり、YLNWというユニットはその周縁に見つけたちょっとしたエクステンションというか、気の許せる遊び場を持つような感覚だったのだろう。そうした理想と期待は作品にも淡い心地よさを持つグルーヴとなって表れていた。そこには、これまでバンドでダンス・ミュージックを作ってきたことへの反動のような感覚もあったという。「(バンドでは)“男臭い”“人間臭い”“部室”みたいにやっていたので、それの反動で、YLNWは密室で作り込んでコントロールする音楽の方向に向かった。それなりにリズムは効いてるんですけど、そんなにダンスじゃなくていいじゃないかというのはあった」(icchie)
 だが、翌07年リリースの『WOVEN』で、彼らの音楽はさらに変化する。いや、その変化は当時はまだはっきりとは認識されずにいたのかもしれない。今なら、音楽を聴いてもらえたら違いがよくわかるだろう。この音楽はとても孤独で、身近で、せつなく、あたたかい。
 「真っ暗ななかでぽつんと作ってた覚えがありますね。ジャケットの宇宙っぽい感じとかとも通じるものもある」(icchie)
 icchieは制作当時をそう振り返った。ファーストをリリース後、DeterminationsとBush Of Ghostは解散。新たな活動の拠点を求めて、ふたりが向かったのは東京の調布だった。周囲にGOMAや松永孝義、森俊也らが住む郊外のエリアで一軒家を借りたふたりは、その家の2階に防音資材を運び込み、自宅スタジオを作った。スタジオ設営と並行して制作されたicchieのファースト・ソロ『The Black Box』(2006年)での「スタジオとして使えるぞ」という手応えを、さらに具体的に推し進めたのが、この『WOVEN』だった。なので、最初にあった世界観は「孤独」などではなく、むしろ自分たちの好きなように音楽を作れる楽しさだったという。
 デスクトップ上のソフトを駆使した宅録の面白さはありつつ、そこが自由に音を出せるスタジオでもあったことで、YOSSYの弾くハモンドオルガンやフェンダーローズ、JUNOといった数種のキーボード、icchieが吹くトランペットやトロンボーン(「FLAMINGO」での演奏は絶品!)など実器の音色の良さも活かされている。
 「ローズとか生の楽器でレコーディングしはじめて、それがすごい楽しくて、調子にのっていろいろ作り出した」(icchie)
 「アルバムの1曲目(「COLORS DROP」)は、単純にローズのフレーズを重ねた音が気持ちいいから、それだけで曲をやりたいと思って作った感じ。あとオルガンは目黒のマッドスタジオ(2020年閉店)にハモンド・オルガンがあったのを借りてきて」(YOSSY)
 「(ヴィンテージの)レスリー・スピーカーもあるというのを聞きつけて、それも持ち込んで、ふたりでスタジオにセッティングして録ったんですよ。本物は、むちゃくちゃええ音やな、って思った」(icchie)
 「そういう感動、ええ音やなという気持ちが動機になって録ってたところもある」(YOSSY)
 「だから、サン・ラーのカヴァー「LOVE IN OUTER SPACE」とか、ちょっとしつこいんですよね(笑)。そんなに長いフレーズいるんかな?って今聴くと思うんですけど、当時はすごい楽しんで作ってました」(icchie)
 こうやって話を聞くと、あらゆる作業をふたりだけで音を組み立てながらやっていた様子がすごくよくわかる。あくまで宅録で、集団での生演奏という意味でのバンド感はないのだが、アイデアをアクティヴにぶつけ合って音を構成している感覚は確かにあって、だから音楽が単なる孤独感に寄り添うだけではなく、外にこぼれ出す感情みたいなものともリンクしていくのだろう。
 「改めて聴くと、全体的には地味なアルバムやなって感じました。ただ、なにかすごいことをやろうとはしていたかな。あと、誰も気づかへん細かいことをたくさんやってましたね(笑)。たとえば「November」は、当時、ビョークのバックを作っていたマトモスってエレクトロニカのユニットがいて、コップとかをカチャカチャってやった音でリズム作ったりしていて、そういうのに影響を受けて作った曲です。だから、なにか鳴らした音を録ってリズムを作りました」(YOSSY)
 「ペイントマーカーを振ったやつがスネアの代わりになってたりな。そういう小さい音集めて作ってた。いろいろこすったりとか」(icchie)
 「爪とか、トコトコやったり。もう完全に密室な感じ」(YOSSY)
 ふたりは笑い話のように当時を振り返る。だが、そんな誰にも理解されないような小さな小さなこだわりのひとつひとつが、誰かにとっての瓶に入れて海に流した孤独のメッセージというか、遠い宇宙から本棚の本を落として信号を伝えるインターステラーというか、忘れ去っていたささいな記憶や感情を呼び覚ますものになっているのではないか。スタンダードソング「I'm In The Mood For Love」を下敷きにした「MOOD FOR LOVE」や、永遠に続くのではないかと思えるほどのループ感が最高に心地よい「LOVE IN OUTER SPACE」が伝えているのは、広い宇宙のなかに自分にだけわかる星を見つけたような感覚だろう。メロディや音色の織りなすこの音楽はやさしく温かくスペーシーに心を覆うが、その細部はどこまでも細かく織り込まれているのだ(まさに“woven”されている!)。

icchie、『WOVEN』リリース当時のライヴ写真(写真、奥村達也)

[連載] YOSSY LITTLE NOISE WEAVER

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