鴨田潤『一』
【配信形態】
MP3
【配信価格】
単曲 205円(税込) / アルバム 2,057円(税込)
パンピーブギは終わらない
鴨田潤が2011年にリリースした『一』には、「耳」ではなく、まず「口」が覚えてしまうようなフレーズがいくつも埋めこまれている。とはいえそれは、身体感覚にべったりと張りついた音楽ではない。むしろ身体化=無意識化された音楽は、批評されるべくして提示される。それがこのアルバムを、いまもなおアクチュアルなものにしている。
重ね録りされたコーラスが象徴するのは、そんな彼の二重性だ。鴨田潤は、日常を歌うことでもって日常を批評していく。かつてのヒップホップやフォークがそうしてきたように。だからこそその歌は、2011年を忘れたことにして生きる、2017年の私たち「パンピー」にも届きうるのだ。
彼の批評精神は、先行ジャンルをマッシュアップ的に再生産する手つきにもあらわれている。16分にわたる「プロテストソング」は、「親父の一番長い日」(さだまさし)のうつくしき反復であると同時に、「Rapper's Delight」(シュガーヒル・ギャング)の自己言及性(「Now what you hear is not a test: I'm rappin' to the beat」)を含む、メタ・プロテストソングだ。この不思議とやわらかな批評性を、まずは「耳」でなく「口」で感じてほしい。(ふくちあつし)