キセル『magic hour』

キセル / magic hour

01. マジックアワー 02. 手紙 03. 春の背中 04. 枯れ木に花 05. サマーサン 06. 君の犬 07. 窓辺 08. 眠る人 09. ビューティフル デイ 10. 同じ夢 11. 緑の日 12. 写真


※こちらOTOTOYでは配信がございません。

あの頃の音、今ここに

街を歩けば、昔に比べてイヤホンをしている人はずいぶん多くなった。けれど、周囲の音を遮断し、互いの空間を共有しなくなった今こそ、向かいのおばあちゃんが作る夕飯の支度の物音や、隣のお母さんの子守歌が聞こえてきたあの頃の良さを実感すべきではないか。そう、このアルバムは教えてくれる。

例えば、収録されているリード曲「手紙」。この曲では、ひとつひとつの音が際立って聞こえず、同じ空間ですべての楽器が演奏されているように感じる。ヴォーカル、ギター、ベース、ドラム、ピアノ、それぞれがお互いの良さをつぶさない程度に、仲良く一緒に寄り添っている。また「君の犬」では、まるですぐ側で演奏しているかのように聞こえ、それだけでなく亡くなったはずの君の犬が、舌を出して荒く呼吸している音まで聞こえてきそうだ。つまりそれらは、どこか遠くのスタジオで録音された音というよりも、街中で聞こえてくる雑踏と同じように感じるのだ。だからこそ聴き手との距離が近く、忘れかけていた懐かしい気持ちが胸の内でじんわりと広がる。

カクバリズム移籍後初めてのリリース、キセル５枚目のアルバム。楽器だけで音楽を作るのではなく、周りの音までも音楽にしてしまう、まさにマジックな1枚。(熊谷にどね)