2011/11/03 00:00

ツチヤニボンド『2』配信開始!

2011年11月4日より全曲フル試聴企画『EVERYBODY LISTEN!』にて公開していたツチヤニボンドのセカンド・アルバム『2』を、11月11日より配信開始いたします! 試聴した方々からは「はっぴいえんど×Little Creatures」「ムーンライダースの匂いがする」「音に血が通っている」「こんなに素晴らしいのになぜ今まで知らなかったのか」など、数多くの感想ツイートが寄せられました(つぶやきの内容は本ページ下部に反映されています)。07年に前作『ツチヤニボンド』をリリースし、08年にほぼ完成させたところで3年寝かされた本作。思う存分にご堪能ください!

レーベル AnalogPants  発売日 2011/11/11

※ 曲番をクリックすると試聴できます。

SPECIAL DISC REVIEW

※本頁では、岡村詩野音楽ライター講座の受講生のお二人に寄稿いただきました。

記号を剥がし残るもの

明確な怒りも切迫感も敵も存在しない。けれどパンクの本当の姿を捉えた作品だ。所謂パンクという音楽はその出生の時から明確に“敵”を想定した音楽である。それは時に政治家、前世代のバンド、労働環境、はたまた老いなどの抽象的な概念を標的にしてきた。そのため歌詞はもちろん音楽性もソリッドで、気の緩みを許すような柔らかさは一切排除されているのが一種のデフォルトになっていると言える。そうしたパンクの精神と音楽性がパンクをスタイルとして非常に分かりやすい音楽としている要因とも言え、セックス・ピストルズや、破れたジーンズ、革ジャン… そういった記号が浮かぶのが何よりの証拠であろう。

しかしその付与された記号の先にあるのもそのような分かりやすさだけなのだろうか。ツチヤニボンドのセカンド・アルバム『2』はそのような問いにノーを突きつけ、記号の先のパンクの姿を浮き彫りにするアルバムである。その姿は怒りが醸成される手前の段階、心に生じた揺らぎや、先人たちがパンクという武器をつくりあげる過程のエネルギーだ。そこにこそ記号の先のパンクの姿がある。このアルバムではツチヤニボンドというフィルターを通し様々な音楽性が渦巻いているのは前作と同じだが、フィルターを通った様々な要素は多くが浮遊感やサイケデリアといったフィーリングを醸成するために用いられている。深い井戸の底から聞こえるような歌声で歌われる、前作以上に意味をなさず、何かの比喩かとも想像つかない歌詞においてもそこに敵は存在しない。そうした11の楽曲から様々な音楽要素を抽出しツチヤニボンドというバンドをカテゴライズすることも可能かもしれない。けれどこのアルバム全体を通して感じる取っつきにくさや分かりづらさこそがツチヤニボンドなのだ。

この作品全体を覆うサイケデリアや浮遊感は怒りも切迫感も敵も必要としない、言うなればパンクとはかけ離れた音楽とも言える。パンクを分かりやすいと捉えるのなら、ツチヤニボンドの音楽は曖昧な分かりにくい音楽とも言える。しかしだからこそ彼らの音楽は記号の先にあるモノ、怒りが醸成される前の訳の分からないカオスを切り取ることができたのだ。パンクという音楽を出発点にしながら、多くのアーティストがポスト・パンクという圧倒的な自由を手にしたように、記号の先にあるパンクの姿とは訳の分からないものなのだから。

(Text by 大平 幸一)

聖母マリアのような温かさと万華鏡のような美しさと

一曲目「KUROFUNE」の打音は、足音であり、ドアをノックする音である。その先には、“今”という風景が広がっている。

ツチヤニボンドによる『2』は安易な定義をすり抜けるアルバムだ。リリースによれば「アルバムのテーマをパンク」として制作されたようだが、レーベルの代表が「それは決してフォームとしてのパンクではなく(中略)象徴としてのパンクです」と述べているとおり、そして一聴してわかるとおり、ここに思想としてのアナーキー性はない。直接的なメッセージは皆無で、むしろ、無秩序、混沌としているのは、その音楽性である。「返済」や「ふわふわ」が疾走感と焦燥感に溢れる一方、童謡の歌詞を拝借した「メタルポジション」はどこか懐かしさを漂わせ、「通りすがり」や「夜になるまでまって」にはエレガントであまりにも優しいメロディが 流れている。「ふわふわ」の歌詞を借りれば、「わたげのような」軽やかさで、このアルバムは聴く人の手から逃げていく。

ツチヤニボンド、すなわち「万年過度期、分裂症気味な音楽資質を持つ土屋貴雅という人物の音楽性変化の歴史を記録、提示する為のユニット」がデビュー作から4年、このとらえどころのないアルバムを発表したのは言わば必然である。マジョリティに共通する大きな価値観が消失した現代において、私たちが信頼すべきなのは、だからこそ生み出される曖昧さしかない。各々の世界観が極限までに多様化した今、絶対的たり得ないものに拘泥する行為の無力さと無意味さを、ツチヤニボンドは知っている。

さらに言えば、このアルバムは、曖昧模糊とした現代と、絶対的な存在や価値観が消失したがゆえに不確かとならざるを得ない人生をしなやかに肯定している。「WHISKY WOMAN & HEROIN BOY」までの11曲を貫くのは、繊細なメロディーと慈愛に満ちた歌声、歯切れよく言えば母性である。漠然とした時代的コンテキストゆえ時に行き先を見失ってしまう生き方を、聖母マリアのような温かさと万華鏡のような美しさとでツチヤニボンドの『2』は認めてくれる。

柔らかなメロディーとともに不用意な意義付けを縦横に往来するこのアルバムは、つまり、不確かで漠然な世界に生きる私たちの歌である。幕開けを告げる「KUROFUNE」の打音は、だから、“今”と、来るべき“今”を生きていく私たちの鼓動でもある。

(Text by 二本松 薫太郎)

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ツチヤニボンド LIVE SCHEDULE

2011年12月4日(日) @吉祥寺ディスクユニオン
START 21:30 入場無料

ツチヤニボンド PROFILE

『土屋貴雅による音楽プロジェクト』
2004年、Cook Friday、Penher のバンド活動停止後、土屋自身の想い描く音楽を具現化するための音楽プロジェクト、ツチヤニボンドを構想。2005年、活動に先駆けて「ツチヤニボンドvol.1」制作。2006年、ライヴ活動を通し、土方、亀坂を加えた3人でのベストな音楽的方向性を模索。ツチヤニボンド七色楽団として活動。『ツチヤニボンド七色楽団』制作。2007年、 ツチヤニボンド名義で「ツチヤニボンド」をリリース。2008年、ライヴ活動を経て、2ndアルバムの制作に着手。2009年、リリース予定のツチヤニボンド2ndアルバムをおおむね完成させたところで和歌山県高野山に移住。

この記事の筆者
岡村 詩野

音楽評論家/ 音楽メディア『TURN』(turntokyo.com)エグゼクティヴ・プロデューサー/ 京都精華大学非常勤講師/ オトトイの学校 内 音楽ライター講座(https://ototoy.jp/school/ )講師/ α-STATION(FM京都)『Imaginary Line』(日曜21時〜)パーソナリティ/ 『Helga Press』主宰/ Twitterアカウント ▶︎ @shino_okamura / Instagram ▶︎ shino_okamura

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[レヴュー] ツチヤニボンド

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