2022/11/29 19:00

「あなたが音楽活動を続けている方が世の中おもしろい」代だよね ── DJ TASAKA

連載『音楽とダウンロードの現在』
第2回 ゲスト DJ TASAKA

音楽のダウンロード販売を巡って、ここ数年である意味で最も、というか唯一脚光を浴びたのはBandcampだろう。インディでDIYな活動をしているレーベル、アーティストに向けたプラットフォームとして、そして特にコロナ禍以降はその売り上げにおける手数料を1日限定(その月の最初の金曜)で撤廃し、アーティスト / レーベルへ還元したBandcamp Fridayによって大きく注目を集めた。ライヴやDJ活動などができなくなったアーティストへのサポートとして、多くの人がそこでデータ、そしてマーチャンダイズやフィジカルの音楽アイテムを「買った」。多くの日本人アーティストも例外ではなく、特に契約などで縛られていないアンダーグラウンド〜インディ系のアーティストは、自らのページを立ち上げて、エクスクルーシヴ音源などを売っていた(特にDJ、ダンス・カルチャーのフットワークの良さを感じた)。もちろん、アーティストやレーベルが自ら音源をアップロードし販売するBandcampと、一部を除いてその多くをディストリビュータ(配給、レーベルと販売店を結ぶいわゆる卸問屋)を通してデータの販売をしているOTOTOYとは別の業態ともいえるが、アーティストとユーザーを結んでデータを「買う」「売る」という体験では同じ感覚・同様の双方への影響もあるのではないかと思っている。 (実はOTOTOYもアーティスト / レーベルとの直接契約も可能です!)

『音楽とダウンロードの現在』と題した本記事シリーズのひとつの視点として、ここで「売る側」としてのアーティストの視点から話を伺おう。今回は、上記のBandcamp(Friday)でのリリースを含めて、現在はレーベル〈UpRight Rec.〉の運営やレコーディングまで自らコントロールし、活動を行っているDJ TASAKAに登場してもらおう。2000年前後にはSONYからのリリースもあり、もちろん現場でDJとしても活動するなど、その長いキャリアのなかでさまざまな経験の後に現在マイペースでありながらコンスタントにリリースを行っている彼に、DIYな活動を行うアーティストにとって、音楽を「売る」、もしくは「買われる」ことの、その活動への影響を訊いた。

シリーズ『音楽とダウンロードの現在』第1回はこちら
「音楽」を「買う」は時代遅れ? ── シリーズ『音楽とダウンロードの現在』 第1回 イントロダクション

INTERVIEW : DJ TASAKA

写真 : 沼田学
取材・文 : 河村祐介

やっぱり買われているというのはモチヴェーションとして上がるよね

──「Bandcamp Friday」がひとつの起点になって、ある意味で「買う」ということがコロナ禍でライヴやツアーにいけないアーティストやレーベルへのサポート、特にジャンルを問わず、インディー・シーンへのサポートの仕方として話題になりました。当たり前の話すぎますが、サブスクが一般化した後に、改めてフィジカルの作品、マーチャン、そしてダウンロードを買うということが文字通りサポートになるというか。それは買う側もですがアーティストの方もひとつ自覚的になったような。 手前味噌になってしまいますが、いまOTOTOYも販売、ダウンロードという配信方法にこだわってやっているわけですが、そこにはアーティストへのサポートというのがひとつテーマにはあります。ただわりと音楽ビジネスのフォーマットの話になると、なぜか配信=サブスクリプション・サービスと、例えばアナログなどのフィジカルの両極端に振れてしまって、どこかダウンロードが置き去りになってしまってという。

たしかにね。

──で、いろいろフィジカルが売れていた時代やメジャーのレコード会社も経験されていて、さらに現在において自身でインディペンデントのアーティスト、レーベル活動もされていて、というところで思いついたのが田坂さんで。なおかつ、レコードが高騰しているのもあって、DJってやっぱりいまデータを買うというのがひとつ重要な導線になっているとも思い、いろいろな方向から話がきけるなと。2021年のBandcamp Fridayのときに精力的にダウンロード・リリースしていた印象がありますが、もちろんBandcamp Fridayの手数料がないというところもあると思いますけど、なにかこれまでのリリースに比べてひとつモチヴェーションが違ったのかなといいう。

あれはふたつモチヴェーションのおもしろさがあって、ひとつはリリースと制作のタイミング感? 第1金曜で、1ヶ月に1回だったから自分のタイミングで制作の標準を合わせられるのがよかったんだよね。4曲入りのEPなら、その1ヶ月でどうにかなるかなという。もうひとつのモチヴェーションとしては、やっぱりそれがお金にもなるという。そういうタイミングのタームって、もちろんメジャー時代のCDにはなかったし、金銭的なところも含めてサブスクの感覚ともまた違うよね。EPならではだけど、ジャケットまで自分でやったからさらに機動力もまったく違うしさ。告知にはSNSがあるから、これまでの感覚とはそこもやっぱり全然違う。もちろん自分のレーベルのBandcampは自分で管理しているんだけど、売れるとメールで通知が来るのね。で、特にBandcamp Fridayのときはスタートすると集中して買ってくれるから、いつもはリアルタイムの通知は切っとくんだけど、そのときはあえてオンにして、「売れました」という通知を連続して受けて(笑)。やっぱり買われているというのはモチヴェーションとして上がるよね。

──いまってすべてひとりで制作まで?

その3連続のEPはほぼそうだけど、マスタリングまですべての制作のコントロールをするというのは本当最近で。元をたどると、SONYからのリリースは2009年の『Soul Clap』が最後で、いま状況がさらに違うと思うけど、当時の場合、アルバム出すとなると、ある程度曲を作りためて「そろそろ出したいな」っていうタイミングで、レコード会社のスタッフにきくんだけど。それはもちろん自分の音楽性とメジャーの当時の状況によると思うんだけど、2ヶ月くらいそのまま寝かされちゃって。でも作ったらからにはこっちは早めに出したいんだけど。で、その後「これは出ないかな」ぐらいまで思ってたら、結果的にはそのとき出せてよかったんだけど。制作のスタイルとしては、メジャーの場合はミックス・エンジニアなんかの制作費を捻出してくれてという感じだったから、ミックスダウンとかはエンジニアさんと同席しつつ、なにをやっているのか見ながら、基本は任せてという感じで。スタジオ作業として勉強にもなるし、そういう利点はもちろんあるんだよね。あと、もちろんいまも当時の音源がサブスクで再生されたりして印税の通知がきてて、それはそれで「ありがとうございます」って感じですけどね(笑)。で、その後は、時期的にもコンピューターとか、DAWが進化して、自分の技術も向上して、ある程度自分で作品を作れるようになって……というのが2015年の『UpRight』の頃。

──自身の〈UpRight Rec.〉レーベルも立ち上げてという。

そうそう。その時期にわりと配信とかも個人でディストリビュータとかと契約してコントロールできるようになってというのもあったのかな。で、音源的にも自分でマスタリングもふくめて、最後までコントロールできるようになったのが2020年という感じだね。それまでは過渡期という感じで、アルバムの1/3、特にヴォーカル曲なんかはエンジニアの渡部高士さんと一緒にミックスダウン作業してもらったり。だからアルバムのなかでそういう制作過程の楽曲が混在してる感じだったんだけど、ここ数年の『Goodie Bag』からは完全に自分だけ。あとは次に出すアルバムは自分の環境を整えられて、自分で最後までやれるなというところまでエンジニアリングのテクニックも身についたかなという感じ。だから、自分でやれるようになったけど、とにかく成長はゆっくり(笑)。

『UpRight』『Goodie Bag』、そして最新アルバム『FILTERMAN』もOTOTOYでも販売中






──いま昼間はいわゆる音楽系の制作の仕事やっているんですよね。

そうそう、そこでの経験も自分の音楽のレコーディングに生かされてはいるかな。

──そこに糧としての生活のベースがあって、自分の音楽制作の方はダウンロードとかCDとか作品を売ったもの、あとはDJでの活動がということですよね。

そうそう。例えばBandcampの場合は、その収益がそのまま登録したペイパルの口座に貯まっていくので、そこで得た収益を、そのままPayPalを使って、DJ用に他の人の音楽を買うとかできるんだよね。だからそこで得たお金は、すぐに音楽業界に返しているという感じ(笑)。あとはもちろん他のダウンロード・サイトとか、DAW用のプラグインとかシンセとかも買っていて。この2年くらいはダウンロードの売り上げをそういったところに回して、DJも含めて音楽活動が継続できているという感じがあって。

──サブスクよりかはダウンロード買われた方が金銭的に大きいという感じですよね。

それはやっぱりそうだたよね。「サブスク殺したいい」とは思わないけど(笑)。サブスクは新譜のチェックとか、そういう意味では自分もすごく使っていて。さらにサブスクに自分の音楽があることで聴いてもらえるうれしさはもちろんあるよ。サブスクで音楽を聴くことがいまの世の中の普通っちゃ普通だし、そういうところに自分の新しい音楽がリーチしないっていうのはもちろんもったいないしね。ただ音源を出している側からすると、そこに参加はするけど、なんというか「発売中」という感覚はないよね。前だったら、お店にいったらアナログなりCDがあって「ああ、発売している」という感じはあったけど。ダウンロードとかで買われたりして、それがわかるとやっぱり実感として大きいよね。お金の面でも、モチヴェーションの部分でも。Bandcampはさらに自分のお店を開いて商品を並べている感じだし。サブスクでももちろん結果のお知らせがくるけど、なんというか「売れた」というよりも「閲覧された」という感覚だよね。あとはDJみたいに自分で音源を所有して使うことが前提の存在においてはちょっと……というところはあるよね。でも、世の中の大多数のそうじゃない人が使うというのもそりゃ当然だとも思うしさ。

圧縮音源は自分の制作時とは違った音の聞こえ方をしてしまっているというのがある

──そうですよね。サブスクを否定するわけじゃなくて、いろいろな選択肢を使って活動できたり、サポートの仕方はいろいろ多様な販路があったほうがいいなという。ちなみにですが、ハイレゾとかロスレスを聴けるサブスクのサービスも出てきていますが、基本はやっぱり常日頃聴いているのが圧縮ヴァージョンでといくのは一般的かと思います。環境的にロスレス以上、言ってみればCD以上の音質を意識して受容している人っていま少数派ですよね。もちろん利便性が大いに勝るということなんでしょうけど。ただ、作った側からしてある意味で「コレがいい」ってジャッジした音質ではない、圧縮音源でより多く聴かれるというのも作った側はどうなのかなというか。

意識はするよね。例えば美容院とかいくと暇つぶしに雑誌のサブスクが入ったiPad渡されるじゃん。当たり前だけど、「ああ、これなんかまさしくサブスクだよな」とか思うんだけど、雑誌とかは文字を大きくできて読みやすくなるメリットもあるけど、例えば漫画の見開きとか、レイアウトの意図を考えると「こうやって読まれると思って、作者は描いていないだろう」って思う漫画もあるんだよね。あれと同じことが音でも起きてるって言えばいいかな。もちろん自分で圧縮された状態で聴くことはあるけど、聴いてて思うけど、アーティストの人たちも思っていることがあると思うな。「あれ、こんなに上の方が削れちゃうんだ」みたいなこととか。自分の制作時とは違った音の聞こえ方をしてしまっているというのが自分の曲でもやっぱりある。

──制作のジャッジのときの価値観に、いわゆる「歌」よりも、全体の音質とか音色があるようなジャンルはなおさらですよね。制作時にOKして、ジャッジしている音質ではないというのは、単純に音楽の楽しみのもったいなさってちょっとあるような気がします。必ずしもそれだけではないと思いますが、ジャンルによっては意図した気持ち良い音ってあると思いますし。

そうだよね。いまや圧縮しなきゃいけないほど、転送速度も遅くはないし、ストレージも大きいし。CDの規格がきたときに、もちろんアナログに比べるとバッサリ周波数がカットされているんだけど、iPodとかMP3プレイヤーが出た2000年代にさらにバッサリいって。でも当時はそれによってダウンロードが速くなるし、いっぱい入るからいいでしょう?っていう。当時の技術とか転送速度の基準のままいままで来ているという。で、わりとハイレゾが出てきたときの話じゃないけど、そこに対して、周波数帯域が広いものは金持ちの趣味みたいなさ(笑)。もともとCDのときはみんな圧縮されていない音質で聴いてたのに、という。

──当時の技術課題で狭められただけで、別にいまとなったらそれを許容できるテクノロジーは身近なのに(笑)。

ともすればオーディオ・マニアしかそこを気にしてないみたいな。でも、やっぱりDJの現場とかは、圧縮音源との違いは如実にわかるんだよね。例えばエフェクターかけたときとか、マスターテンポでピッチ変えたときとか、全然音質がダメになるのがわかるしさ。使えるもんじゃないって感じがする。それだけジャッジの部分で満たないというか。

──なるほど、いまCDJのファイル機能もほぼハイレゾが使えるし、ロスレス以上が基本になってきてますよね。個人的にはデジタルのオーディオとかも、イヤフォンとかも含めて、何十万という世界にいかなくても、わりとそんなにお金かけなくても、その違いがわかるくらいイヤフォンの技術とか、デジタル機器、例えば安いウォークマンみたいなものでもその音質が違うのがわかるんですが。

ハードはあるけど生かしていないというのはあるかもね。

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