News

2020/02/02 17:30

 

渋⾕慶⼀郎のアンドロイド・オペラ『Scary Beauty』初のUAE公演オフィシャル・レポート

 

渋谷慶一郎によるアンドロイド・オペラ『Scary Beauty』が、2020年1月31日(金)アラブ首長国連邦(UAE)の文化都市・シャルジャに拠点を置く文化財団シャルジャ・アート・ファンデーション主催のフェスティバル「Inter-Resonance: Inter-Organics Japanese Performance and Sound Art」のトリを飾った。

そのオフィシャル・レポートが到着したので紹介しよう。

アンドロイド・オペラ『Scary Beauty』とは、人間とのコミュニケーションの可能性を探るために開発された人工生命×アンドロイド「オルタ3」が、人間のオーケストラを自ら指揮し自ら歌う世界初のアンドロイドによるオペラ作品。

本フェスティバルは、長谷川祐子氏(東京都現代美術館参事)がキュレーションを務め、自然界と物質性の新たな関係性を彷彿させるパフォーマンスアート及びサウンド・インスタレーションに焦点を当て、シャルジャの様々な場所で作品を発表し、人間と非人間の相互関係における日本ならではのアニミズムの哲学を体現している。

アンドロイド・オペラ『Scary Beauty』の中東初公演は、同フェスティバルのトリとして昨年9月に新設されたばかりのSharjah Performing Arts Academy(シャルジャ・パフォーミング・アーツ・アカデミー)にて、現地のオーケストラNSO Symphony Orchestra(UAE)とのコラボレーションによって実現した。

シャルジャ・アート・ファンデーションは、2009年にアラブ首長国連邦の最高評議会のメンバーであるスルタンビンムハンマドアルカシミ氏のご息女であられるフールアルカシミ氏によって芸術・文化支援を目的として創設された財団であり、アートフェスティバルの開催など創設以来、先鋭的な活動を行っている。

暗転したステージで「オルタ3」が青い光に照らされる中、コンピュターによる電子音と「オルタ3」の声の反復が会場に充満し、開演に近づくにつれて「オルタ3」の声の反復が増幅。ステージに渋谷慶一郎が入場すると、ピアノとコンピュータによるソロ演奏を開始された。その後、現地のオーケストラNSO Symphony Orchestra(UAE)が⼊場、各セクションのチューニングが終わると会場は暗転し、いよいよ「Scary Beauty」の本編がスタートする。初めて見るアンドロイド、通常ではありえない形式のオペラの開始にシャルジャの観客は固唾を飲んでステージを見つめており、客席のボルテージは静かに上がっていくのが見てとれた。

そんな中、突然「オルタ3」のさらに変調、歪められた声が会場に響き渡り、ウィリアム・バロウズのテクストによる1曲目、「The Third Mind」が始まる。「The Third Mind」は渋谷慶一郎とオーケストラが「オルタ3」の指揮に翻弄され、激烈な音のぶつかりが繰り広げられる作品。オーケストラとバロウズのテクストがコンピュータ変換された音の断片を用いて音楽を組み立てていくことで、2度と同じ演奏が起こりえないものとなっている。

1曲目が動的な「オルタ3」とオーケストラの協働とすれば、2曲目の「Introduction」は続く3曲目のメインタイトル「Scary Beauty」の長大なイントロダクションとも言える曲で、やはり断片化された楽譜を「オルタ3」の指示によりオーケストラが重ねていくことで、「音の海」のような状態を作り出していく。スクリーンに映し出された「オルタ3」の表情や指示する手や指の動きと音楽は呼応しあい、そのことが客席に伝わることで調和と緊張の均衡を作り出していた。

人々が驚きの表情を残すなか、演目はメインタイトル「Scary Beauty」へと移行。前半の2曲とは異なり、明確な拍節やリズム、メロディを持つこの曲でさらに客席のボルテージは上がっていく。自らが指揮するオーケストラのアンサンブルに反応し、照明が乱反射するステージで「オルタ3」は時に客席に向かい歌い、時に客席に背を向け指揮に没頭する。そして、序盤では「オルタ3」の指揮によって音楽的なカオスの海の中にいた渋⾕慶⼀郎とオーケストラの演奏が、徐々に高揚する指揮や歌と一体となり演奏を終えた瞬間、会場は最初のクライマックスを迎えた。

続く「The Decay of the Angel」と「On Certainty」でも、アンドロイドが自ら歌いながら指揮をするというこのオペラならではのパフォーマンスが展開され、途中「オルタ3」自身が観客に向けて一礼するシーンでは大きなどよめきが起きる一幕も。

本編全5曲が終わり、アンドロイドのプログラミング、演出を担当したことぶき光とオーケストラが「オルタ3」と一緒に礼をすると、立ち上がって拍手をする観客も現れ、アンコールで「オルタ 3」と渋谷慶一郎のピアノソロによる「Scary Beauty」が演奏されると、⼤きな拍⼿が巻き起こり公演は幕を閉じた。

公演後のステージやバックステージには中東諸国のフェスティバル関係者や政府関係者、プレスが押し寄せ、その場で次回公演の具体的なオファーが殺到。大きな反響を残した初のUAE公演は、今後この地域での更なる活動の発展を予感させる。

渋谷慶一郎アンドロイド・オペラ『Scary Beauty』
2020 年 1 ⽉ 31 ⽇ 16:00(現地時間)
Sharjah Performing Arts Academy(シャルジャ・パフォーミング・アーツ・アカデミー)

■プログラム
M1. The Third Mind
M2. Introduction
M3. Scary Beauty
M4. The Decay of the Angel
M5. On Certainty

概要:音楽家・渋谷慶一郎と⼈間型ロボット研究の第⼀⼈者である⽯⿊浩、人工生命の研究者である池上⾼志との協働によるプロジェクト。 AIを搭載したアンドロイドが⼈間のオーケストラ指揮し、⾃ら歌う「アンドロイド・オペラ『Scary Beauty』」は、「Inter-Resonance: Inter-Organics Japanese Performance and Sound Art」のトリとして上演された。

・ウェブサイト(英語)
http://sharjahart.org/sharjah-art-foundation/events/performance-scary-beauty

■Inter-Resonance: Inter-Organics Japanese Performance and Sound Art
主催:Sharjah Art Foundation(シャルジャ芸術財団)
期間:12月20日~2月15日まで (Scary Beautyの公演は2020年1月31日)
場所:アラブ首長国連邦 シャルジャ

概要:東京都現代美術館参事・東京藝術大学大学院教授の長谷川祐子氏のキュレーションによる、自然界と物質性の新たな関係性、過去・現在・未来における人間と非人間的なものへの領域を探求するパフォーマンスアート及びサウンド・インスタレーションに焦点を当てたフェスティバル。渋谷慶一郎、田中泯、森山未來、毛利悠子、林 英哲、トモコ・ソヴァージュが参加。

・ウェブサイト(英語)
http://www.sharjahart.org/sharjah-art-foundation/exhibitions/inter-resonance-inter-organics-japanese-performance-and-sound-art

■オルタ3
「オルタ3」は、機械が露出したむき出しの身体と性別や年齢を感じさせない顔や表情といった、極限まで削ぎ落とされたミニマルなマテリアルによって⼈の想像⼒を喚起し、これまでにない⽣命性を⽬指したヒューマンアンドロイド。アンドロイド研究において世界的な研究者である石黒浩氏(大阪大学教授)と人工生命の世界的な研究者である池上高志氏(東京大学教授)が、それぞれの研究室と共に協⼒し創り上げたこのアンドロイドで、人間との相互作用を通して⽣命感を⾃ら獲得することができるか、また⽣命とは何かといった根源的な問いへの挑戦が行われている。

■4社共同研究プロジェクト
本公演は、株式会社ミクシィ、国立大学法人大阪大学(基礎工学研究科 石黒研究室)、国立大学法人東京⼤学(総合⽂化研究科 広域科学専攻広域システム科学系 池上研究室)、株式会社ワーナーミュージック・ジャパンによる4社共同研究プロジェクト。

“コミュニケーションを通じて世界を鮮やかに変えていくこと”を事業活動のミッションに抱え、「オルタ3」のシミュレーターを提供する「ミクシィ」、世界的なアンドロイド研究のパイオニアである「大阪大学石黒研究室(アンドロイド開発:小川浩平)」、ALife(人工生命)研究のパイオニアである「東京大学池上研究室」、本プロジェクトの実証実験の場を提供する「ワーナーミュージック・ジャパン」によって発足された、⼈間とのコミュニケーションの可能性を探るために開発した人工生命×アンドロイド「オルタ3」に関する共同研究プロジェクト。


[ニュース] Keiichiro Shibuya, 渋谷慶一郎

あわせて読みたい


TOP