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2021/02/17 14:45

 

真のポジティブさが紡いだ10年8か月──「でんぱ組.incの太陽」成瀬瑛美卒業公演レポート

 

でんぱ組.incが2021年2月15日、16日にチームスマイル豊洲PITにて〈ウルトラ☆マキシマム☆ポジティブ☆ストーリー!! 〜バビュッといくよ未来にね☆〜〉を開催。2日目の2月16日は豊洲PITの観客に加え、CSテレ朝チャンネル1での生中継やネットで生配信され、成瀬瑛美の卒業を多くのファンが見守った。先日、成瀬瑛美と根本凪の対談をインタヴューした宗像明将が卒業公演の模様をレポートする。

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「置き土産ですね。でんぱの伝統なので。 跡部みぅちゃんを思い出してください。私も曲を置き土産にしようと」 (https://ototoy.jp/feature/202102033/)

これは2021年2月3日にOTOTOYで公開された、でんぱ組.incの成瀬瑛美と根本凪の対談記事での、成瀬瑛美の発言だ。卒業をひかえた成瀬瑛美がここで「置き土産」と言っているのは、彼女が作詞した新曲「ポジティブ☆ストーリー」のことだが、今となってはそれ以外の意味も感じずにはいられない。「跡部みぅちゃんを思い出してください」と言われたとき、彼女の卒業時の「置き土産」として思いだしたのは、箱から出てきた最上もがと藤咲彩音という新メンバーだったからだ。

2021年2月15日〜16日、成瀬瑛美の卒業公演〈ウルトラ☆マキシマム☆ポジティブ☆ストーリー!! 〜バビュッといくよ未来にね☆〜〉がチームスマイル豊洲PITで開催された。そして、でんぱ組.incは5人の新メンバーを迎えることを発表した。まさかのメンバー倍増である。

〈ウルトラ☆マキシマム☆ポジティブ☆ストーリー!! 〜バビュッといくよ未来にね☆〜〉は、複雑な構成による卒業ライヴだった。2021年1月25日にでんぱ組.incの公式Twitterで成瀬瑛美による漫画が公開されたが、実はその漫画をベースにして彼女の卒業公演は進行されたのだ。「#えいたそ卒マンガ」で、ファンにも漫画の投稿を呼びかけ、でんぱ組.incがインターネット・ミームとなり、それが卒業公演のオープニング映像に使われてスタートした。成瀬瑛美が漫画で描いたパジャマパーティーが、そのままチームスマイル豊洲PITで繰り広げられていく。メンバーが着ているのは、パジャマをモチーフにした新衣装。成瀬瑛美が在籍するでんぱ組.incの最後のパーティーである。

成瀬瑛美こと「えいたそ」が「でんぱ組.incの太陽」であり、陽光性の象徴であったことは今さら説明不要だろう。初のベスト10入りを果たしてターニングポイントになった2013年の「W.W.D」以降、でんぱ組.incは自分たち自身のことを表現していくことになるが、陰があれば陽もまた必要であり、成瀬瑛美の明るさは大きな役割を果たしていた。

8曲目の「あした地球がこなごなになっても」が描くのは、日常で夢想する甘いカタストロフィーである。しかし、コロナ禍の日々において改めて聴くと、異様なほどに現状にシンクロしてしまい、切実な意味を持ちだしてしまう。そんな状況下においても、成瀬瑛美は常にポジティヴであることの重圧を感じさせなかった。コロナ禍のために当初よりも卒業のタイミングが延びてしまう状況の中でも、彼女の発信はポジティヴさを堅持していた。

そして、約10年ぶりに成瀬瑛美が作詞した「ポジティブ☆ストーリー」は13曲目に披露された。この楽曲の「人生は百年登り坂」という歌詞は、地元・福島県で彼女の祖母が生前によく言っていた言葉だという。それに触れて、彼女はこう表現した。

「一家の血もはいっている曲」(https://ototoy.jp/feature/202102033/)

インタビュー中にその言葉を聞いたとき、私は少なからず涙腺を刺激されそうになり、悟られないように慌てた。2020年8月には、父親の急逝を成瀬瑛美がファンに報告していたからだ。振り返れば、彼女のでんぱ組.inc在籍期間は10年8か月にも及んだ。地元が東日本大震災に襲われたときも、成瀬瑛美は歌い続けていた。そして、「ポジティブ☆ストーリー」の間奏で彼女はファンにこう呼びかけた。

「人生この先いろいろあると思うけど大丈夫、私たちなら大丈夫! 笑顔を忘れないでね!」

綺麗ごとではない。綺麗ごとのはずがない。本人には一度も直接言うことができなかったが、私の成瀬瑛美という人物に対する敬意、背筋が伸びる思いの理由は、彼女の見せてきた姿勢そのものにある。

ライヴが進行するなかで、古川未鈴は盟友を送り出すために妊娠中とは思えないほど踊っていたし、2017年12月30日に加入した鹿目凛と根本凪の成長によって、でんぱ組.incが充分な声量を誇るグループになっていることも実感した。あまり触れられない部分だが、成瀬瑛美はソウルフルな歌唱も得意なシンガーだ。それは、第1期BiSのカヴァーである「IDOL」での彼女のパートを聴けば明らかだ。

5曲目の「バリ3共和国」や9曲目の「強い気持ち・強い愛」、14曲目の「でんでんぱっしょん」での成瀬瑛美のラップも冴えわたっており、特に「強い気持ち・強い愛」では、オリジナルにはないラップが冒頭に追加されていた。また、「強い気持ち・強い愛」は小沢健二がディスコへ大胆に接近した楽曲であり、根底にあるブラック・ミュージックの要素と成瀬瑛美の親和性の高さも感じさせた。ソロとなっても、この部分は大きな武器として活用してほしい。





「でんでんぱっしょん」で本編が終わると、アンコールを求める拍手のなか、メンバーの会話が流れた。いわく、楽屋に5個の箱があるというのだ。誰もが跡部みぅの「置き土産」を思いだしたとき、前山田健一作詞作曲による新曲「プリンセスでんぱパワー!シャインオン!」とともに新メンバーの5人が登場した。元ENGAG.INGの愛川こずえと小鳩りあ、meme tokyo.の「RITO」こと天沢璃人、ARCANA PROJECTの空野青空、虹のファンタジスタの高咲陽菜だ。成瀬瑛美が卒業して5人になるかと思いきや倍増するという混沌は、これまでにない展開であると同時に、実にでんぱ組.incらしいとも感じる。成瀬瑛美の陽光性を、空野青空に継承してほしいと願わずにいられない。「プリンセスでんぱパワー!シャインオン!」の歌いだしを担当したのは空野青空だった。

そして、12曲目に歌われたばかりの「Future Diver」が、16曲目として再び新体制の10人で歌われた。落ちサビでの根本凪の「先輩感」が頼もしい。

そして、新体制のお披露目が済んでもアンコールの拍手が鳴りやまないなか、成瀬瑛美を含む旧体制のメンバー6人が再登場し、17曲目に「オレンジリウム」、18曲目に「キラキラチューン」、最後の最後の19曲目に「STAR☆ットしちゃうぜ春だしね」と3曲も歌った。成瀬瑛美と新メンバーは同時にステージに立つことはなく、別の世界線を歩んでいたが、それはネガティヴな意味を感じさせず、「でんぱ組.inc」という概念が一個にとどまらずにトライブ化していくかのようだった。

成瀬瑛美には、なんと胸像が贈られた。藤咲彩音の父親が2週間で作ったものだという。そして、卒業証書も受け取るなかで、「ポジティブ☆ストーリー」でも泣かなかった成瀬瑛美が涙を流した。「ポジティブ☆ストーリー」で古川未鈴と藤咲彩音が泣いても、成瀬瑛美は涙を見せまいとしていたのに。そして、初期メンバーながら凛とした姿を見せ続けようとしていた相沢梨紗の姿にもまた静かに感動してしまった。

この日、不思議なほど胸に響いたのは7曲目の「檸檬色」だった。エヴァーグリーンな魅力を放つ金字塔のような楽曲だ。そこには絶え間なく変化していく日々の中での一瞬と永遠が宿っている。成瀬瑛美の透き通った歌声に聴き入ってしまった。

成瀬瑛美は、コロナ禍で日常が壊れていくなかでもファンに肯定を与え続けた。彼女の卒業もまた、困難な時代でもそれぞれの道を生きるべきだ——という強いメッセージを放つ。新メンバーを迎え、古川未鈴の産休も迎えるであろうでんぱ組.incは、これからも変わり続けるだろう。そこには形こそ変えても、秋葉原の文化の血が脈々と流れているはずだ。アニソン、ゲーム、漫画、アイドルなど、秋葉原に根づくポップ・カルチャーを背負い続けた「ハイテンションA-POPガール」こと成瀬瑛美の生きざまは、凡百の言葉を遥かにしのぐ説得力を持ち、彼女の卒業公演を見た者は誰もがその生き証人なのだから。

文:宗像明将
写真:チェリーマン


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【対談】私達の「ポジティブ☆ストーリー」、そして未来へ──でんぱ組.inc 根本凪×成瀬瑛美 対談
https://ototoy.jp/feature/202102033

【配信】ポジティブ☆ストーリー
https://ototoy.jp/_/default/p/636579

<ライヴ配信アーカイブ>
でんぱ組.inc「ウルトラ☆マキシマム☆ポジティブ☆ストーリー!! 〜バビュッといくよ未来にね☆〜」
≪受付期間≫2021年1月29日(金) 18:00 〜 2月22日(月) 22:00まで購入可能
(※アーカイブは2/22(月)23:59までご視聴いただけます。)
≪受付URL≫
Streaming+: https://eplus.jp/dempagumi-st/
ZAIKO:https://dearstage.zaiko.io/buy/1ppM:bnG:c70bd

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[ニュース] でんぱ組.inc, でんぱ組.inc VS フランシュシュ

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