OTOTOY EDITOR'S CHOICE Vol.183
毎週金曜日、編集部セレクトのプレイリスト&コラムをお届けする『OTOTOY EDITOR’S CHOICE』。8月恒例ゲスト月間、OTOTOY Contributorsスペシャルの最終回は、OTOTOYニュースチーム・リーダーでフリーライターの岡本貴之さんです。この夏、忘れらんねえよ〈ボッチインジャパン〉5日間、計55時間を48本のクイックレポで並走した岡本が、改めて思った “エモい” とは。胸打つ熱い10曲とともにお届けします。
2022 CONTRIBUTORS SPECIAL
この夏感じた “エモさ” の正体
「 “エモい” って他に何か良い言い回しはないだろうか」と、いろんな人と意見を交わしたことがある。結果、そのときいたすべての人が「エモいはエモいでいいんじゃないの」となった。自分もいまだにそう思っていつも原稿を書いている。
世界規模で日々いろんなことがあるように、今年の夏は個人的にもいろいろあった。どちらかというと楽しくないことが多く、なんとなく自分の周りに淀んだ空気が纏わりついていた。汚い言葉を投げかけられたりもしたし、ぞんざいな扱いを受けたりもして、惨めな思いもした。そして、そんな人たちとの関係を自ら断ち切ったりもした。それでスッキリしたかというとそうでもなくて、結構長いこともやもやしていた。
不思議なもので時の流れや運気というものは本当にあるらしい。そうしたもやもやは、やがてゆっくりと霧散していった。「捨てる神あれば拾う神あり」とばかりに、これまで培った関係の中から思いもよらない新しい出来事が始まったり、昔は接しづらかった人がやけに心を開いてくれるようになったり、疎遠になっていた人たちと再会して何かを始めたりすることなど、ポジティブに思えることが一気に押し寄せてきた。忘れらんねえよからの久々の取材オファーも、その1つだった。
忘れらんねえよとは、2013年の「この高鳴りをなんと呼ぶ」リリース時の「代々木無観客初ワンマン」のレポートに始まり、様々なバカバカしくも熱いイベントに数多く携わってきた。その全部が思い出深いものの、最近の忘れらんねえよはそうしたオモシロイベントを封印していたこともあり、あまり関わりがなくなっていた。そんな中、突然かかってきた「5日間、山に拘束したいんですけど、いいすか?」という担当マネージャー氏からの謎の電話で、ほとんど何も訊かずにスケジュールを空け、実際に5日間55時間以上にわたって密着取材、48本のレポートを書いた。当初は、昔の楽しさを懐かしむようなものになってしまったらちょっと嫌だな、とも考えていた。ところが、始まってみたら毎日が新鮮なエネルギーに満ちていた。それは柴田隆浩が歌う、何歳になっても大衆やキラキラした何かに背を向けてしまうどうしようもなく孤独な人間の叫びからも、彼を支える少数精鋭のスタッフからもひしひしと感じた。そしてそれはまさに自分がライターとして生きていく上で絶対に忘れてはならない “エモさ” が具現化した空間だった。
この10年間、いろんな記事を書いてきた中で、この夏の〈ボッチインジャパン〉クイックレポを読んだ方からの反響が一番大きかった気がした。それが素直に嬉しかったし、そのときに改めて思った。無償の気持ちを捧げて報われず、空回るような虚しさに臍(ほぞ)を嚙むよりも、本当に自分を必要としてくれる人たちに報いよう。そうした仕事をしていこうと思ったし、本当に心ある熱い音楽を聴いていこうと思った。
そんな気持ちで音楽に触れてみたら、胸を打つ楽曲にはジャンルも国も性別も、なんなら歌詞の内容すら関係ないことを、この歳になって改めて感じた。もしかしたら初めてそう思ったのかもしれない。言葉としてはいつまでも変わらずに使い続けている “エモさ” が、自分の中でアップデートされた。そんな記憶に残る夏だった。
