恥ずかしいですけど、一周回って、もうエモい
──『ANTI HIROINE』には、安斉さんのヴォーカリストとしての個性もよく出てますよね。メランコリーや艶もあれば、突き抜けていく爽快さもあって。自分自身のヴォーカルの個性や特徴はどういうものだと思いますか?
安斉 : 女子っぽい声をしてるかな。ちょっと変わった声をしてるかもしれないです。それがいいときもあれば、そういうのを抑えたいなというときもあるんですよ。普通に歌うとかわいくなっちゃいがちというか。だから、息をめっちゃ混ぜたりして調整します。「Secret Love」とか、そういうポップな曲には合うのかなって思うんです。「へゔん」になると、かっこよく声を変えて歌ったりして、どういう塩梅ならうまくいくのかを考えてます。一回レコーディングを止めて、「さっきの声の出し方とこっち、どっちがいいか?」って確認して、「こっちの声で録っていこうか」みたいなことはよくします。
──安斉さんのそういうミュージシャンっぽいところは、なかなか表に出てこない部分ですよね。それを人に伝えようという気持ちは特になく?
安斉 : なんかなかったですね、別に。SNSでも何を発信していいか、本当に疎くて。だから、「そういうのもあるんだな」って今気づきました。よく怒られちゃうんですよ。「Instagramをやってください」って。

──あはは。今は音楽活動について積極的に投稿していますよね。
安斉 : 自分の作品じゃなくて、自分のプライベートだったり、今言ってもらったような裏側だったりを発信するっていう頭にならないんですよ。「何で見せなきゃいけないんだ」って、恥ずかしくなっちゃったり。でも本当は裏を見せていったほうがいいですよね。「わたしだって、裏を見たほうが好きになるもんな」と思うんです。応援したくなるじゃないですか。「たしかに」と思っちゃったんで、ちょっとやります。
──突然そういう流れになりましたね(笑)。「18の東京 feat.初音ミク」で初音ミクとデュエットするのはどこから出てきたアイデアなんですか?
安斉 : ディレクターが初音ミクちゃんをfeatに迎えたいという提案をくれて、もともと私、中高のときにボカロを聴いていたので、「すごい!できるんだ、そんなこと!」って、めっちゃ嬉しかったです。
──生身の自分と初音ミクとのギャップは感じましたか?
安斉 : 感じますね。ミクちゃんはいい意味でアンドロイドな雰囲気を持ってるので。そういうのと自分の人間の声が合わさったときに、あんまりデコボコしすぎてもよくないから、「18の東京」は初音ミクちゃんとの相性を意識しながら、もう一回録り直しました。
──「私はドキンちゃん」のカヴァーのアイデアはどこからだったんですか?
安斉 : 私、ドキンちゃんに昔からずっとなりたくて。よくTwitterでも「ドキンちゃんになりたい」ってつぶやいてたりするんです。『ANTI HIROINE』というタイトルにするって決めたときに、私の中のヒロインはやっぱドキンちゃんなので、「じゃあドキンちゃんを入れたい」って思って。ドキンちゃんの良いダークさっていうのを残しつつ歌いたいなって思って、ちょっとダークポップな感じのアレンジにしてもらいました。声もかわいくなりすぎず、でもかっこよくなりすぎずというか。「ドキンドキン」っていっぱい言う場面があるんですけど、そこでファルセットを使ってみたりとか、ちっちゃくさせてみたりとか。そういう「ドキン」の一個一個のフレーズも、こだわって歌ってみました。
──安斉さんは、そういう歌い方にすごくこだわってますよね。リズムも意識しますか?
安斉 : もちろんです。最初はちゃんとクリックを聴いてます。でも、「夜は未完成」は、クリックを聴きすぎちゃうと機械的になってしまうから。クリックに合わせてやるような曲もあれば、自由に歌ったほうが成り立つ曲もあるので。「へゔん」もそっち寄りですね。感情で歌うような曲や、歌詞を大事にして歌う曲は、クリックを切ったり、ちっちゃくしたりします。

──さらにこれまでの楽曲をまとめた『僕らはきっと偽りだらけの世界で強くなる。』も同時にリリースされますね。資料には「十代だった頃の真っ直ぐで青い言葉が痛烈に刺さるメモリアルなアルバム」と書かれていますが、こういう作品を今リリースすることに照れくささもありますか?
安斉 : 照れくささというか、やっぱり歌詞を自分で書いてるからこそなんでしょうけど。「あのとき、あんなこと思ってたな」とか考えると若さ故に恥ずかしいですけど、一周回って、もうエモいですね。
──デビューしてから、何が一番変わったと思いますか?
安斉 : 自分自身は変わった感じはそんなに感じてないんです。でも曲はいろいろ挑戦してきましたね。歌詞も初期の頃は、真っすぐそのままの感情、説明不要な歌詞を書いてたんです。でも、だんだん「これってどういう意味なの?」みたいなフレーズも入れたり、造語を作って「かれん語」みたいなのを入れたり。そういう歌詞の書き方はけっこう変わったのかなと思います。
──TAKU INOUEさんプロデュースの「人生は戦場だ」の歌詞には、当時のリアルな感情がそのまま出ているんでしょうか?
安斉 : そうですね。歌詞自体はデビュー前から書いています。「人生は戦場だ」のときは、まだ実家に住んでいて、実家の藤沢からエイベックスのアカデミーまで通ってるときに、電車の中で書きました。それも15分くらいで。
──早いですね。
安斉 : 電車って、いろいろ考えるじゃないですか。そのときに、バーッって衝動で書いた歌詞です。
