ただのポップスとかJ-ROCKじゃない要素が色濃くつけれるようになった
──今作で初期曲といえば2016年にリリースした"いえろう"ですね。
四方:当時は「こういうものが表現したいんだ」という意識も低かったから、感覚とかフィーリングで作ったよね。
吉見: 初期衝動で進めてた。
武志:高校生の時にコピーしていた、いろんなバンドのいい要素を合体させつつ、セッションして作った曲だよね。
吉見:しかもレコーディングしたのが、街の貸しスタジオじゃなくて、市民会館とかで貸し出してるスタジオなんですよ。あの頃は学生でお金もなかったので、安いからという理由でスタジオに入って。結構スッとできたよな? すんなりではないけど、わりかしトントン拍子でできていってメインのフレーズ作って、四方が持ってきたフレーズとかを合わせていった記憶がある。
武志:8時間パックでまとめて入ったので、やってる途中にみんながだれて使っていないピアノで適当にフレーズを弾いて、それを勝手に周りが音を合わせてできました。
吉見:そう! そこからの速さは尋常じゃなかったし、過去一くらいやったよな。それまでにもセッションっぽく作った曲はいっぱいあったんですけど、そのなかでもいちばんすごい勢いで完成した。1回のスタジオでほぼ完成まで行ったのは"いえろう"が初じゃない?
──今回ボーナストラックに"いえろう ( INC ver. )"を入れたのは、どんな思いがあったんですか?
四方:YAJICO GIRLのファースト・フル・アルバムを作る上で、"いえろう"は初期の自分たちを代表する大切な曲なので、もう一度形にしたいと前々から考えていたんです。で、タイミングとしてはここがいちばん綺麗かなと思って再録しました。
──続いて2019年のアルバム『インドア』からは、"indoor" "IMMORTAL" "NIGHTS"が収録されています。この作品から、YAJICO GIRLの曲作りがガラッと変わった印象があるんですよね。
四方:それこそメンバー皆そうやけど、中高の時に「このロック好きだ」みたいな初期衝動で「いえろう」を作ったとすると、『インドア』は第二の衝動みたいなもので。魂の濃い部分がいちばん詰まった作品だったなと思います。
──再び初期衝動が起きたのは、どうしてだと思います?
四方:音楽的な興奮ですよね。聴く音楽がガラッと変わって、リスナーとしてすごくエキサイティングしたので、それを自分でも表現してみたかったのがいちばん大きかったですね。
──おふたりは『インドア』を振り返って、どんなことを思い出します?
吉見:音楽的には、いちばん踏ん張った時期でしたね。自分のテンションが上がる音楽じゃない曲を聴いて、なんとか咀嚼してかいないとって踏ん張っていた。その頑張りが入ってるからか分かんないですけど、久々に『インドア』を聴いたら安心するというか、実家っぽいんですよね。いつでも戻れるアルバムみたいな。『インドア』がめっちゃいいアルバムやん!となるフェーズが定期的にあるんですよ。それは多分あの時の頑張りがあるからいまがある、みたいな。そんなアルバムになっていますね。
──YAJICO GIRLにとって転換期の作品ですよね。
吉見:その通りですね。
武志:僕は『インドア』に収録する曲をはじめて聴いた時は、全く理解ができなかったですね。ベースも鳴っていなければ、ギターも鳴っていないし、なんならビートすらない。そういう曲がデモ段階でいっぱいあったので、バンドに対して自分の関わり方が全く分からなくなっちゃって、すごい悩んだんです。ただ、吉見が早い段階で四方の言ってることとか、好きな音楽をどんどん噛み砕いて理解していったので、ふたりの会話を聞いてポロって出てるアーティストをひとりで調べてこっそり吸収してましたね。(笑)。
──へぇー!
武志:それを続けても「やっぱりなにがいいかわからん!」と言いながら、ずっと1年ぐらいやっていて。四方は当時のフランク・オーシャンにいちばん影響を受けてると思うんですけど、フランク・オーシャンが作ったプレイリストをチェックして。昔のR&Bとかソウルもあったので「あ、こういうベースはカッコいいやん」とわかるようになってきて。じゃあフランク・オーシャンに影響を受けてんねんから、そのベースラインを突っ込んでみたらいいんじゃない? と思って。そっちのベースラインを勉強して試したらすごいハマりがよかったので、そこで解決しましたね。その感覚を掴んだのが『アウトドア』の時期ですね。
──2021年にリリースされた"Better"や"わかったよ / PARASITE"も収録されているアルバム『アウトドア』は、『インドア』と対照的にA、B、サビという分かりやすいアプローチが増えていって。そう考えると、やっぱり『インドア』があってこその『アウトドア』だったんだなって感じがして。
四方:『インドア』の時は「こういうのがやりたい!」というエネルギーで作っていました。だけど、とは言ってもバンドだしなみたいな。バンドサウンドとして、トラップ以降みたいな音像にちゃんと寄り添えるようなサウンドメイキングを、この日本の土壌でバンドミュージックとして鳴らさなきゃいけないんだ、という自覚が芽生えはじめた時期ですね。そうやって試行錯誤した曲が並んだのが『アウトドア』でした。
──そのモードになれたのは、どうしてだったんですかね。
四方:アレですね、『インドア』の時にメンバーの辛そうな顔を見て。
──ハハハ、なるほど。
四方:そうそう(笑)。それも大きかったと思います。
──俺たちはバンドである!っていう。
四方:そうそう! バンドなんだというのを改めて感じました。
武志:四方のそういう気遣いも結構見えてたよ(笑)。先ほど言われたように、構造がA、B、サビってちゃんとある曲が多くて、アプローチがすごいしやすくなった。「いえろう」でやったような作り方もできるし、『インドア』を通ったからこそ、ただのポップスとかJ-ROCKじゃない要素が色濃くつけれるようになったのかなって。そういう手応えが『アウトドア』で感じましたね。
吉見:『インドア』って四方中心のアルバムだと思っていて。自分の意思をめっちゃ込めたというより、四方が求めてるサウンドを出しに行くイメージだったんです。もちろん、それはそれで良かったと思っていて。『アウトドア』からは自分の意思を少しずつ増やせたなと思いますし、それと『アウトドア』リリースぐらいがコロナ禍に入って。ステイホームになり、家でPC作業をはじめたのも『アウトドア』の時期から。シンセサイザーをいじったり、パソコン上で編集してみたり、そういう新しいことに手を出せて、自分のなかで新たな扉を開けたアルバムでしたね。
──ステイホームでいうと2021年に"雑談"が生まれたのは、時代性を感じるんですよね。人と対面することが難しくなったからこそ、「内容ない日々のおしゃべり」というフレーズが生まれたり、暗いムードの社会を鑑みて、振り切ったトロピカルサウンドになったのかなって。
四方:そうなんですよね。"雑談"は『アウトドア』に入れるか入れへんかぐらいのタイミングにはできていて。それこそ「内容ない~」はラインと曲が同時に出てきたので、自然と時代性を反映したのかもしれないです。
──去年1月にはEP『Retrospective EP』をリリースされています。そのなかでも"VIDEO BOY"は実験的で好きでしたね。
四方:"VIDEO BOY"は作り方が特殊でして。いつも僕がゼロイチを持って行くんですけど、この曲はアレンジで入ってくれてるTejeさんと6人でスタジオに入って。PCを使いながらセッションしていく作り方でした。その場でメロディーも考えるとか、その場で「こういうラインを入れてみたら」とか、生ものっぽい感じで作っていって。それこそ『インドア』と『アウトドア』は前編・後編みたいな感じで、コンセプトもしっかりと自分のなかにあったのを具現化しました。それが1段落して、もう少し実験というか、頭の中に溜まっていた試したいことを形にしていったEPでしたね。
──続くEP『幽霊』は、"Airride" "寝たいんだ"と浮遊感のある楽曲が続きますね。
四方:自分のなかで2020年のテーマは、ちょっと抜け感を大事にしようと思っていて。、"Airride" "寝たいんだ" "美しき街"を作って、最後にEPの表題曲となる曲を作ろうと思った時に、3曲の共通点はなにかを考えた結果、抜け感だったり浮遊感だったり、俯瞰した目線だなと。それを象徴する曲を作りたくて最後に"幽霊"を作りましたね。
──確か、間奏は映画『ファイトクラブ』がヒントになっていて。
吉見:そうそう。"幽霊"の仮タイトルが「夜明け」だったので、そこからいろいろ連想して音を作って。「自分の夜明けはなんやろう? あ、『ファイトクラブ』だ!」みたいな。で、はちゃめちゃな間奏を作ったり、"Airride"も 四方から歌詞をもらう前に、浮遊感というテーマが与えられて。そういう意味では『幽霊』EPは、自分にとってのステップアップになっていますね。