〈Pistachio Studio〉としては「無理をするな」
──新しいといえば、“Night Shift”みたいにトラップを崩したようなビートはいままでに無かったよね。
ryo : いや、前からもああいうのは試してたけど、納得いく曲ができなかったんだよね。段々できるようになった。
kyon : そう。トラップのほうがムズいよな。シンプルだから難しいと思う。
──他にも“slowtide”はレイドバックした西海岸サウンドをCBSらしく仕上げてて。
basho : あれは俺がああいったGファンクというか、レイドバック感あるユニゾンを作りたかったんだよね。
ryo : 歌にプリンスっぽいコーラス・エフェクトをかけたりしたけど、Quojamaのビートがワン・トラックでミックスが本当に大変だった。
kyon : こうしてインタヴューされて思うけど、俺らだけでリリース前にアルバムを振り返ることがなかったよね。山奥とかドライヴしてアルバムを聴いたりしたいよ。それが1番楽しいからさ。
ryo : 俺が「ケツを決めないとヤバい! 」ってバタバタと仕上げたから、そんな時間が無かったよね。
takaya : どうだった? 斎井的にアルバム聴いてみて。
──正直、個人的に大好きな“丘”が無かったらBandcamp行きだったと思う。“丘”は、悔しさや虚しさが入り混じったような気持ちにさせてくれるんだよね。
takaya : まじか。俺的にはファーストよりも良いなって思ったんだけど。
basho : その点“hibio”とかも同じじゃないの?
ryo : ね、ビートも新しいことをやってるし。
──言われてみるとそうだけど、俺は“hibio”にそれほど強い印象はないなぁ。
takaya : そうかぁ。なんなんだろうなぁ〜、この違いは。
ryo : 聴く人によって結構違うかもしれないよね。人によっては“丘”は前のアルバムの流れのまんまじゃんって思う人もいると思うよ。
kyon : でも、ヒップホップとして捉えたら、確かに“丘”のような曲はあんまいないかもね。あのビート感といい、俺は聴いたこと無いよ。
──情けない帰り道のような心情を、盛らずにそのまま曲にしているのが良いんだよね。「普通の生活だって十分リアルなラップは書ける」と昔からkyonは言ってたけど、そのとおりだよ。
kyon : そう。というか、どう逆立ちしても、俺にはそれしかないしね。どうにもならん。
──ただ、気になったのはbasho君以外は家族がいるのに、子供や奥さんが意外なほどラップに出てこないよね。
kyon : 確かに。無いね。
takaya : まあ、俺にその当時子供はいなかったからなぁ。
──仕事だけでなく父親でありながら音楽活動するのって大変そうだけど。
ryo : でも、それぞれの家庭までは分からないけど、〈Pistachio Studio〉としては「無理をするな」と。
basho : それこそQuojamaが書いたようにね。(「死ぬまでバンド活動を続けていくために」)
kyon : それに子供が生まれてからはあんまりryoの家には集まらなくなったしね。
──そうなんだ。とはいえ、昨年のqueticのインタヴューでryo君は、出来上がったビートを送る形から、アーティストと一緒にゼロからビートを作る仕事が多くなったと答えてるよね。
ryo : そうだね。俺はもうデモを渡すだけのことは無くなっちゃった。頼まれてから作って、言われたことを返す感じ。“MCDs”もその場でつくったもんね。“Night Shift”もそうだった気がする。
basho : “MCDs”はkyonちゃんからのプリプロ・デモが送られてきて、めちゃくちゃひどいなって爆笑したよ。
──kyonちゃんからデモが送られるって、kyonちゃんがビートも作るの?
kyon : 作りはしないよ。俺はSoundCloudラヴァーだから、仕事中にずっとタイプビートをながして、イケそうなら家で録ってtakayaとbashoに送る。ふたりがノってくれたらryoやESME(MORI)に仕上げてもらう。いままでトラックを沢山もらってもさ、何曲かしか使わないのは申し訳なかったし。その点、ESMEもryoもオーダーを受けて曲を作るなんて幾らでもやってるわけだからさ。suppleとの作りかたはそうはいかないけどね。
──suppleのビートって、よく考えるとヒップホップのビートとしては少し特殊だよね。
takaya : 音数が極端に少ないじゃん。それに普通ビートはキックが強いのに、キックが弱くてスネアが強くてさ。
ryo : 虚無いんだよね。そしてドヤ感が全く無い。
kyon : そう! それ! ドヤってない!
takaya : にしてもさ、ずっと考えてたんだけど、俺ら的にはセカンドは良かったんだけど、斎井的にはファーストのほうが良かったわけじゃん。俺らもお前にフォーカスする必要はないけど、なにがダメだったのかが気になる。
──いや、ダメではなくて、セカンドのほうが聴き応えはあると思うよ。
takaya : いいよ、もっとリアルな話しろよ。