2023/01/31 18:00

音楽ライターが選ぶ今月の1枚(2023年1月)──東京少年倶楽部『creature』

音楽だけでなく、幅広い分野で活躍するフリー・ライター、沖さやこが選んだ作品は、東京少年倶楽部『creature』。2019年にはロッキング・オン主催のオーディション〈RO JACK〉で優勝し、野外フェス〈ROCK IN JAPAN〉に同年出演を果たすなど、各所から注目を集めているバンドの最新EPである。オルタナティヴ・サウンドを全面に出し、各パートの個性が光る新作をレビューするとともに、“東京少年倶楽部とあわせて聴きたい”をテーマにセレクトしたプレイリストも掲載。ぜひチェックを!

音楽ライターが選ぶ今月の1枚(2023年1月)──東京少年倶楽部『creature』


文:沖さやこ

音楽に言葉を充てていく仕事をしていると、つくづく音楽とは言葉にできない感情や思考を昇華した、目に見えない、この手で掴むこともできない空気の振動だと感じる。その純度が高ければ高いほど、言葉という枠組みに閉じ込めていいのだろうかと難儀する。東京少年俱楽部の最新EP『CREATURE』もそういう作品だった。4人の20数年の人生で育まれた音楽家としての美学、今の時代を生きる若者の等身大の生き方が、このEPには克明に刻まれている。

2020年にGyary(Gt/Cho)が加入し、3ピースから4ピースになった彼らは、同年ミニ・アルバム『空の作りかた』で全国デヴュー。その翌年にリリースしたEP『自明の理』では強い希望の綴られた頼もしい歌詞、4人がひとつになった強固なグルーヴ、好奇心から生まれた広がりのあるサウンド・デザインなどがカタルシスを生んでいた。まさに「躍進」という言葉がふさわしい作品と言っていい。

その風向きが変わったのが、2022年第1弾デジタル・シングルでもある今作2曲目“I hope I die before I get old”だ。息を呑むタイトルもさることながら、ユーモラスでありながら鬼気迫る、ボトムの効いた太いロックンロールと、若さゆえの混乱や苛立ちを瑞々しくかつ荒々しく書きなぐった歌詞。そこに投影されていたのは、不安で溺れそうななか希望をなんとか見出そうともがく姿だった。

それと近い心情はリード曲“mesmerism”にも綴られている。ロマンチックな残響とメロディが包み込む、ドリーミーなミドル・ナンバー。自分自身の本心と向き合い、言い聞かせながら「壊しちゃって 泣けなくなって 枯れてしまって 見えなくなっても 未来への希望だけは取っておいてね」と締めくくるラストは、こちらの心臓を締め付けるように切実だ。そこから年齢を重ねる節目で感じる生々しい喪失感と再出発の意志が詰め込まれた“BIRTHDAY”へと向かうフローは、今作のクライマックスとも言えるだろう。切なくて晴れやかで激しい、天気雨の嵐のような同曲は、胸をかきむしる感傷的なロックナンバー。メンバー同士が信頼し合っているからこそ実現できる危うさを孕んだサウンドスケープは、あふれ出してどうにも止められなくなってしまった涙の化身のようだ。

東京少年倶楽部『BIRTHDAY』Music Video
東京少年倶楽部『BIRTHDAY』Music Video

予想だにしない展開が続くスリリングなポップソングの“Aventure”、コーラス・ワークが効果的なUSインディー/オルタナティヴ・ロック直系の痛快なサウンドで構成された“Mary”と、どの楽曲も各プレイヤーの抑えきれない人間味と衝動性が発揮されている。今やれることを搾れるだけ搾り取ったような気魄あふれる演奏が刻み付けるのは、強烈なほどの「生」。それは優しい陽だまりを彷彿とさせる“校舎の屋上で”にしたためられた「不安がない未来の方が怖いって思えた」という覚悟の念とも通ずるように思う。

東京少年倶楽部『Aventure』Lyric Video
東京少年倶楽部『Aventure』Lyric Video

今作のリリースから10日後、Gyary(Gt/Key)の脱退が発表された。生きることは不安と絶望にまみれていて、希望を抱くのはその不安を少しでも払拭するためなのかもしれない。確証のない希望を信じて、傷だらけになりながらも得体の知れない未来という場所へと足を進めていく。その生き様がどれほどまでに美しいかを、この5曲は教えてくれる。

東京少年倶楽部と一緒に聴きたいアーティスト10組

プッシュプルポット“13歳の夜”
ToyJoy“星に願いを”
鉄風東京“外灯とアパート”
WOMCADOLE“煙”
PK shampoo“京都線”
The SALOVERS“SAD GIRL”
ハヌマーン“ワンナイト・アルカホリック”
The Birthday“なぜか今日は”
とがる“誘波”
cinema staff“GATE”

自分が山に囲まれた田んぼだらけの町で暮らす学ランチャリ通帰宅部の高校2年生ならば、どんな音楽を聴きながら夕暮れの空の下、前のめりでペダルを蹴り続けただろうか、と考えながら選曲した。ひずんだギターでないと感じられないエモーション、破壊的な音色でないと満たされない、消化できない感情は存在する。時代の中心に君臨する音楽ではないかもしれない。だがどんな時代でも必要とされているのがオルタナティヴ・ロックであると思う。

WRITER PROFILE:沖さやこ

神奈川県横浜市生まれ。2009年に東放学園音響専門学校を卒業し、音楽ライターのアシスタントを務める。2010年5月よりフリーランスでライター活動を開始。主に音楽、漫画アニメ、ネットシーンなどカルチャー全般の取材と記事執筆を行う。

■Twitter:https://twitter.com/s_o_518

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