“私”という存在に向けた曲を作る
──今回、音作りがより細かくなったというか、立体的な音作りだったり生っぽい印象を受けました。コーラスやテクニカルな装飾的な音作りも強く感じたんですけど、録音作品としてどういうことを意識して作られたんでしょう。
だいじろー:いつも通り僕が打ち込んだデモをメンバーに投げて、それぞれアレンジして議論しながら進めていきました。いままでとレコーディングで変わった点でいうと、ドラムをスタジオのブースで録ったんです。普通エンジニア室があって、もうひとつある大きいルームでドラムセットを録るんですけど、今回はいつもお世話になっているスタジオのエンジニア室側で録ったら意外とよくて。なのでドラムの音色はいつもとは違うなと思います。あと、ギターに関してはマイキングを完全に変えました。ギターの音もいつもとは全然違うかもしれません。あと、アレンジ面に関して装飾って言ってくれはったんですけど、「文明開化の模様」はちょっと沈んだアナログチックなシンセをプログラミングで入れていたり、サビ前にフィルをエフェクトチックに入れたり挑戦しましたね。いままではライヴを想定してバンドサウンドを主軸にして作っていたんですけど、今回はよりよい音源を作るために必要な音を入れていったんです。
──その考え方の変化には、どういう理由があったんでしょう?
だいじろー:前から入れてもいいかなと思っていたんですけど、ライヴをやっていくうちに、いい意味でなんとでもなるなと思えたんです。パッドを使っていろいろな音を鳴らせるし、とりあえず作ってからライヴのことを考えた方がおもしろいかなって。これまでは逆算して慎重に考えていたけど、作ってから、いけるのかいけへんのか考えていけばいいやって。
──ギターのマイクを変えたのは、いい機材が見つかったからということなんでしょうか?
だいじろー:エンジニアさんが「だいじろーのためにええギターのマイク買っておいたわ」って用意してくれていて、それを試したらめっちゃよかったんです。
──マイク1本でもだいぶ変わるんですね。
だいじろー:全然違いましたね。自分で宅録していたら、ああいうマイクは使えないですし、機材の世界はすごいなって思いました。
──音作りで比較しやすいのが4曲目の“366”ですが、これはファーストミニアルバム『祈りでは届かない距離』収録曲“365"の再アレンジ曲です。聴き比べると全然違うなと思うんですけど、どうしてこの曲を再アレンジして収録しようと思ったんでしょう。
だいじろー:個人的にすごく好きな曲だっていうのと、ライヴではこのアレンジでやっているんですよ。ライヴアレンジを音源化しようと思ったのが漠然とした1つの理由です。ライヴに来てくれている人も喜んでくれるかなという思いがあって作りました。
──音源で聴くとアレンジが全然違いますよね。ライヴ主軸で物事を考えてらっしゃるところがあるんですか。
だいじろー:この曲に関してはライヴでやっていて、音が上がるところは上がって、静かなところから始まったりするような差がある曲で。ライヴをやっていてメンバー一同楽しくて気持ちいい曲なんです。
──3曲目の“黙祷“は、最初に擦れる音のようなものが聞こえますが、何の音なんですか?
だいじろー:鳥の鳴き声みたいなものをピッチを落とした気がします。あまり制作中の記憶がなくて……。
──タイトルが意味深ですが、どんなテーマで作ったんでしょう。
だいじろー:これは自分に向けての黙祷で。自分が死ぬ前の曲です。よくないですか(笑)?
──自分に黙祷をするというのは考えたこともなかったです。どうしてそういう発想が出てきたんでしょう?
だいじろー:死ぬ前に自分が死ぬって分かっていたら、いろいろ考えるだろうなと思って。その時の感情を表現したかったんです。僕は制作中、自分のなかに深く入っていくタイプなので、“私”という存在に向けた曲を作る傾向があるというか。
──以前、曲を作りはじめたら完成するまで寝ないで作り切るとおっしゃっていたじゃないですか? それはいまも変わらずですか?
だいじろー:そうですね。短期間でガッツリ作っちゃいますね。前も言ったと思うんですけど、あまり時間をかけたくなくて。それは継続していますね。この曲に関しては音がいろいろ混ざっていて、歩く音と人の息遣いと動物の鳴き声みたいな音のピッチを落としていますね。
──どうしてその音を冒頭に持ってきたんでしょう。
だいじろー:この世界とあの世の間の音ってなんだろう?と思ってイメージしたんです。
──途中でドラムもかなり激しくなるじゃないですか。それも境界線のイメージ?
だいじろー:そうですね。結構そのイメージで作っています。
──どちらかというといまを生きていこうって感じの曲だと思っていたのでびっくりしました。
だいじろー:基本的にこの世界って繋がっていくじゃないですか? 情報を次に繋いでいくみたいなイメージというか。私はもう失礼します、だけどこれだけ残していくのでみなさん参考にしてください、みたいなイメージですね。
──JYOCHOは一貫して循環をテーマにしています。そう考えると2曲目の“文明開化の模様“も生命の循環を感じますが、どのように作ったんでしょう。
だいじろー:これも時代の移り変わりと人の変化にフォーカスして作った曲で。人間が存在しはじめてから現在に至るまでの移り変わりを表現してみたかったんです。
──冒頭に逆再生のような音が入っていますけど、これはどういう効果を狙ったんでしょう。
だいじろー:これは猫田さんと自分の声の逆再生ですね。なんで逆再生にしたのかは覚えていないんですけど、デモは「さみしくなんかないよ」というワードを逆再生していてイントロに持ってきたんです。響き的にあまりよくなかったので、同じくらい大切な言葉で音がいいみたいなものに変えたんです。逆再生して確認したらなにを言っているか分かると思います(笑)。
──逆再生をしようと思った意図は?
だいじろー:環境も人の考え方もいろいろ変わってきたと思うんですけど、変わってないこともあると思っていて。マクロな見方にすると考え方が変わっているだけで人間の素質とかはあまり変わってない。なので、時間軸的にはじめに逆再生を持ってきたらおもしろいかなと思ったんです。曲の流れ的には過去からいまに向かっていくんですけど、逆再生でいまから昔にして、イコールみたいなイメージで作ってみました。
──終わり方に関してはどのように考えたんでしょう。
だいじろー:爆発をイメージしています。これから時代が進むうえで、どんな進化の仕方をするか誰も予想はできへんなと思って。200年前の人が、いまこうなるって予想できてないじゃないですか? 誰も予想できひんイメージを最後音で表現した感じです。