2022/12/08 18:00

ウェストコーストを彩る女性シンガーたち

今回、進行用にふたりが用意したプレイリストはコチラ、ぜひ聴きながらお読みください

山本 : そしてプレイリストはリンダに続いて、ウェストコーストの歌姫たちが続いていきます。

高橋 : リンダの当時の音楽仲間ですね、彼女たちみんな。まずはエミルー・ハリスの初期のアルバム『Pieces of The Sky』(1975年)から1曲入れましたが、このアルバム、音がすごくいいんですよね。

山本 : 改めて聴いてビックリしました。

高橋 : エミルーはこの2枚目のアルバムのレコーディングでニューヨークから西海岸に移ってきて、というタイミングですね。そして、その次に入れたのはウェンディ・ウォルドマンの『The Main Refrain』(1976年)からタイトル曲。彼女もカーラ・ボノフ、アンディ・ゴールド、ケニー・エドワーズと一緒にバンドをやっていたんですよね。このブリンドルというバンドのメンバーたちがリンダに曲を書いたり、演奏したりして盛り立ていったということですね。ウェンディ・ウォルドマンは声もいいし、すごく才能のあるシンガー・ソングライターです。

山本 : リンダと声質が近い感じがします。サウンド・プロダクションの感覚も近いですよね。

高橋 : そうですね。周りの人たちはほとんど同じですからね。ウェンディ・ウォルドマン本人はそこまで有名じゃなかったんですが、当時はいろんな人に曲を書いていて。マリア・マルダーのデビュー・アルバム(1973年)の「Vaudeville Man」という曲もそうです。このアルバムには大ヒット曲「真夜中のオアシス」(「Midnight at the Oasis」)が入っていますが。

山本 : このエイモス・ギャレットのギター・ソロは当時大きな話題になりました。

高橋 : はい。マリア・マルダーもこのソロ・アルバムでどーんと売れて。

山本 : なるほど、そこにこのウェンディ・ウォルドマンの曲が入っていた、と。

高橋 : そのへんのつながった感じをプレイリストで表現したかったんです。

山本 : このマリア・マルダーのアルバムはリー・ハーシュバーグが録音を担当していますが、同じ頃のLAでもリンダの音の質感とだいぶ違いますね。ちょっと土くさくてナチュラルな感じ。

高橋 : 時間的にもわずか2年か3年前のアルバムなんだけど、音はそうとう違う。

山本 : 次に選曲されているのが1978年のニコレット・ラーソンのデビュー・アルバムから「Give a Little」。さらにここで劇的に音が違ってきますね。ゴージャスできらびやか。

高橋 : 世代としてもニコレットはこれまで紹介したシンガーたちよりずいぶん若いですしね。ニコレットとリンダも仲がいいんだよね。

山本 : お互いにバック・コーラスをそれぞれの作品でやっていますね。

高橋 : そうそう。この辺の時代の西海岸の女性シンガーのつながりは緊密なんです。

山本 : 当時僕はオーディオに凝り始めた時期で、オーディオのチェック・ソースといえばこのあたりのシンガーでしたね。

高橋 : なるほど。そうこうしてくると、ウェストコーストにだんだんとファンキーな音楽性が入ってきて、という時期ですね。次に入れたのが1978年のローラ・アラン「Opening up to You」。この人の知名度は低いけれど。

山本 : でもこれはとんでもない名盤ですよね。大好きです。

高橋 : 彼女がリンダと付き合いがあったかわかりませんが、このアルバムは僕も大好きです。ネッド・ドヒニーという男性シンガーの『Hard Candy』(1976年)というこの時代の大名盤があります。スティーヴ・クロッパー・プロデュースで、少しR&Bの入った音楽性ですが、その『Hard Candy』とローラ・アランのこの作品のサイド・ミュージシャンたちがかなりかぶっているんですね。曲作りもおそらくそうした影響下で行われたのではないかと。ファンキーで、アコースティックな音作りでという作品で、なかなかない感じですよ。

山本 : アコースティックでソウル・フィーリングが溢れているという、唯一無二の感じがします。ローラはこの後消えちゃった感じですが、この1枚は本当に奇跡の名盤という感じがしますね。

1970年代を通じて刻々と変化するウェストコースト・サウンド

高橋 : そして次がリッキー・リー・ジョーンズ。ファースト・アルバムの1曲目「Chuck E's in Love」を選びました。

山本 : これ、ハイレゾが出ていないのは残念ですね。

高橋 : なんで出ないんでしょうね。この曲のイントロのアコースティック・ギターのパキっとしたサウンド。バジー・フェイトンというギタリストが手がけていて。彼は一回薬物でダメになって、療養所に1回入ってようやく出てきて復活したときのセッションなんですよ。

山本 : 僕がステレオサウンド社でアルバイトを始めたのが1982年。その少し前からオーディオショーとか好きで行っていたんですけど、「恋するチャック」をどこのメーカーのブースでもかけてましたね(笑)。

高橋 : このイントロのアコースティック・ギターのプレゼンス感がどう表現されるかで、そのオーディオ機器の性格がわかるからでしょうね。このアルバムは1979年ですが、さらにもう一段階、西海岸サウンドが変わってきた感じがあります。

山本 : そうですね

高橋 : その次に、キャロル・ベイヤー・セイガーの1978年のアルバムから「 It's the Falling in Love」を入れてみました。彼女はシンガーというよりも作詞家として有名です。この頃はバート・バカラックの奥さんだったんですよ。

山本 : そうなんですね。彼女自体はニューヨーカーですよね?

高橋 : もともとはそうだけど、このアルバムはウエスト・コースト録音。僕はこの曲が大好きで。そういえば、マイケル・ジャクソンが『Off The Wall』でこの曲をカヴァーしているんですよ。

山本 : ああ、そうか。どこかで聴いた曲だなと思ったらそうなんですね。

高橋 : 作詞はキャロルで、本人ヴァージョンというか。バックはほとんどTOTOなんで、ロック寄りのファンキーな音楽性。ソフトなAORというか。これも奇跡の1曲ではないかなと。リンダ・ロンシュタットもそういうファンキー方向の楽曲も実は結構あって……どうやら当時、リトルフィートのローウェル・ジョージと付き合ってたみたいで(笑)。

山本 : あら、それは知らなかったです(笑)。リンダもジョニ・ミッチェル並にいろいろ浮名を流した人ですね。

高橋 : そんな事情もあって、リトルフィートのアルバムでフィーチャーされていて。当時のLAにおいて彼らはアンダーグラウンドな存在ですけどね。まあとにかくリンダが取り上げる曲は渋いです。数多のシンガー・ソングライターの曲も取り上げていますが、いずれも渋い曲で、元のアーティストの代表曲ではないんですよね。それを自分だけのものにしてしまうというか。いま振り返ってみると、この懐の深さはすごいと思います。

山本 : ぼくが学生時代にいちばん聴いたアルバムは『ミス・アメリカ』(『Living In The U.S.A.』)ですが、ここでもエルビス・コステロの「Alison」とか、ウォーレン・ジヴォンの「Mohammed's Radio」とか。男性シンガーの渋い曲をカヴァーしているんですが、それがすごくいいんですよ。

高橋 : そうそう、濃い感じのものを歌うんですよね、彼女は。

山本 : 1970年代のロック・スター然としたリンダのアルバムは、こうやって改めて聴き直すと「宝の山」という感じがします。

高橋 : おもしろいですよね。エミリルー・ハリスが同世代ですが、エミルーはやっている音楽は基本的に変わらない。対照的にリンダ・ロンシュタットは今回メインにあげた1970年代だけでも刻々と変わっていく面白さがある。

[連載] Linda Ronstadt

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