2022/12/02 19:00

音楽ライターが選ぶ今月の1枚(2022年11月)──ポニーテールスクライム『PNSC FOREVER』

CINRAや音楽ナタリーなど多方面で執筆するフリーライター、天野史彬が選んだ作品は、ポニーテールスクライム『PNSC FOREVER』。無期限活動休止期間を経て、6年ぶりにリリースされた待望の新作である。「純粋に音楽を楽しむこと」をモットーに制作された本作のレビューとともに、“ポニーテールスクライムとあわせて聴きたい”をテーマにセレクトしたプレイリストも掲載。ぜひチェックを!

ポニーテールスクライム『PNSC FOREVER』


文:天野史彬

「きっとこのままがいいや/でも何か足りないや」――4ピースバンド、ポニーテールスクライムのミニ・アルバム『PNSC FOREVER』は、いまこの瞬間に生まれる幸福感も、そこに水を差すよう湧き上がり続ける飢餓感も、全てを抱えて疾走する鮮やかなギター・ロック“きっとこのまま”で幕を開ける。俺たちはどうしてこんなに幸福なのに、どうしてこんなに満たされないのか?……愚かな私たちの解決されない想いを、このロックンロールは解決しないまま、未来へと運んでいく。

ポニーテールスクライム / SCHOOL SWEATER (Official Music Video)
ポニーテールスクライム / SCHOOL SWEATER (Official Music Video)

ポニーテールスクライムは、加藤綾太を中心として結成されたバンドである。私が加藤陵太の存在を知ったのは、彼がギタリストとして銀杏BOYZのサポートをやっていたことがきっかけだった。そのあと、彼が元The SALOVERの古舘佑太郎がフロントマンを務めるバンド・2(現・THE 2)のギタリストであることを知った。その時点で、加藤は素晴らしいロック・バンドの、素晴らしいシンガー・ソング・ライターたちに信頼されるギタリストなのだと理解していた。そして最後に、そもそも彼はポニーテールスクライムというバンドでギター・ボーカルを担当していたことを知った。

ポニーテールスクライムの新作『PNSC FOREVER』は、活動休止期間を経てリリースされた約6年ぶりの作品となる。恐らく銀杏BOYZでの活動からの影響も大きいであろう重層的で色彩豊かなギター・サウンドや、“誰”や“ZOO”といった楽曲の独特なポップ・センスなど、音楽的に豊かなアルバムだが、なにより本作を聴けば、加藤にはギターだけでなく「歌」という表現手段もまた大切なものであることが伝わってくる。大切であるということは人気のシンガーたちのように上手く歌えるということではない。歌を作り、歌う動機が、彼の中にハッキリあるということだ。1曲目“きっとこのまま”では「あなたの色で あなたのままで 彼は歌になる」と歌われ、音が光のように溢れる5曲目の“シンガーソングライター”では、「歌になって生きる君のこと探し出すよ」と歌われる。きっと、加藤にとって歌とは大切な記憶を永遠に残すための装置のようなものなのだろう。何故、その装置を必要とするのかと言えば、彼が全てのものは変わりゆくことを知り、全てのものは失われていくことを知るからだろう。

ポニーテールスクライム / シンガーソングライター(Official Music Video)
ポニーテールスクライム / シンガーソングライター(Official Music Video)

音楽は「時間」に不思議な作用をもたらすものだ。チクタクと均一に動き続ける時計の針が指し示す時間とは違う時間の流れがあることを、音楽は教えてくれる。ポニーテールスクライムは、「いま」という軋みの中から「永遠」を生み出そうとする。その姿はとてもロマンティックである。

ポニーテールスクライムと一緒に聴きたいアーティスト10組

銀杏BOYZ「アーメン・ザーメン・メリーチェイン」
The Stone Roses「Elephant Stone」
Teenage Fanclub「The Concept」
ASIAN KUNG-FU GENERATION「海岸通り」
Oasis「Live Forever」
andymori「CITY LIGHTS」
THE 2「ルシファー」
The Birthday「なぜか今日は」
The Only Ones「Another girl, Another planet」
THE BLUE HEARTS「1000のバイオリン」

ポニーテールスクライムと一緒に聴きたいタイトルをセレクトしろ」というお達しのもと、まず1曲目の銀杏BOYZを選んでからぼんやりと連想ゲームのように曲を並べていったが、結果的に美しいロックソング達が並んだと思う。瞬間と永遠を反復横飛びしながら聴いてほしい。

WRITER PROFILE:天野史彬

1987年生まれのライター。東京都在住。雑誌編集を経て、2012年よりフリーランスでの活動を開始。音楽関係の記事を中心に多方面で執筆中。

■Twitter:https://twitter.com/fumiaki_amano

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