シューゲイザー、オルタナティブの入り口になる曲を作っていくべき
──なるほど。では、ルーツの話を改めて伺えればと思いますが、今回のアルバムの曲も含め、クレナズムの曲は「あ、シューゲイザーが根底にあるバンドなんだな」というのが表出する瞬間がありますよね。そして過去のインタビューによると、この4人のなかでも特にシューゲイザーにどっぷり浸かっていたのは、けんじろうさんだったと。
けんじろう:そうですね。最初にハマったのがきのこ帝国だったんですけど、「めちゃくちゃカッコイイな」と思いながら聴いていたら、友達から「きのこ帝国がこの曲をオマージュしてるのは知ってる?」とMy Bloody Valentineのことを教えてもらったんです。そこからマイブラのことも好きになって、シューゲイザーというジャンルをどんどん掘り下げていきましたね。
──ベースのまことさんはELLEGARDENやSCANDAL、Jamiroquaiをフェイバリットに挙げていますね。
まこと(Ba):はい。けんじろうとは大学の時に同じサークルだったんですけど、僕は当時シューゲイザーを深くは知らなかったんですよ。
けんじろう:そんな彼の横で僕はELLEGARDENをシューゲイザー風にコピーしたりして(笑)。そしたらそういう音をまことが気に入ってくれて、バンドに誘ってくれたんです。
まこと:自分にとっては音色とかが新鮮で、新しいなと思ったんですよね。けんじろうの作る音と萌映ちゃんの歌声があれば、自分たちだけの音楽になるんじゃないかと思いました。
──萌映さんは宇多田ヒカルや徳永英明がルーツなんですよね。クレナズムの音楽に対してはどのような想いを持っていますか?
萌映:シューゲイザー・サウンドなのにメロディがキャッチーだから、ヴォーカルが前に出ていくようなバランスになっていて。それが自分たちらしさだと思いますね。
──しゅうたさんは元々EDMが好きだったそうですが、シューゲイザーのどのようなところに惹かれましたか?
しゅうた:ノイジーなところですかね。僕はEDMのなかでもノイジーなサウンドが特に好きだったんですけど、やっぱり爆音ってカッコイイじゃないですか。シューゲイザーのサウンドのあの感じが自分にとって心地よかったんだと思います。
──シューゲイザーを軸にしつつ、ルーツの違う4人の感性を混ぜ合わせながら、様々なジャンルの音楽にトライして、フル・アルバムも作れるほど曲数が増えて……というのがいまのクレナズムの状態で。
しゅうた:「全員、10日間で1曲ずつ作ってこよう」というノルマを課して曲作りをしていた時期もあったんですよ。
──すごい。大変だったでしょう?
しゅうた:大変だったけど、勉強になりましたね。力もついたし。
萌映:ストックもできたし(笑)。
──様々なジャンルの楽曲を制作してみて、なにか感じたことはありましたか?
萌映:今年は特にいろいろな経験をさせていただいたんですよ。宇多田ヒカルさんの“SAKURAドロップス”をカヴァーさせていただきましたし、タイアップの機会もいただきましたし(“明日には振り向いてよ”がフジテレビ系『めざまし8』のエンディング・ソングに)。あとは、今回のアルバムには入っていませんが、来年公開予定の映画『ふたりの傷跡』の主題歌も制作させていただきました。
しゅうた:これまでいろいろなジャンルをやってきたからこそ、いろいろなところからお声掛けいただけたのかなと思いました。
まこと:あと、意外と抵抗なく、いろいろなジャンルに挑戦できたなと思っていて。
──意外と、ですか。
まこと:いや、僕らがというよりも、「ファンの人たちはどう思うかな?」という気持ちがあったんですよ。だけど自分たちでも気づかないうちにクレナズムにも芯ができていたみたいで、そのおかげでブレずにいられたのかなと思いました。
──リスナーの反応はやっぱり気になりますか?
けんじろう:SNSとかでファンの方々の反応を見て、「じゃあ次はこういう曲を作ろうかな」「次のレコーディングではこんな音にしてみよう」と考えたりしますね。“明日には振り向いてよ”をリリースした時もいろいろな声があったんですよ。「ポップでいいな」とか「いままでのクレナズムとはちょっと違うぞ」とか。そういうものを判断材料にさせてもらっていて……まあ、そういう声を気にしちゃう自分のことがちょっと嫌なんですけど。
──葛藤が垣間見えますね(笑)。どうしてリスナーの声を拾いに行くのも必要だと思うんですか?
しゅうた:自分たちだけが楽しい曲を作るんじゃなくて、いろいろな人に聴いてもらえる曲を作りたいからですかね。
萌映:自己満足じゃなくてね。
しゅうた:そうそう。
けんじろう:僕たちはシューゲイザーが好きで、みんなにもシューゲイザーを聴いてほしいという気持ちがあるんですけど、そのためにはまず自分たちが一歩飛び出すべきだと思ったんですよ。僕たちの深い部分にあるシューゲイザー、オルタナティブの入り口になるような曲たちを作っていくべきなんじゃないかと。そういう話を2~3年前くらいにメンバーとして、そこからバンドとして方向転換をして。それ以降の曲たちがこのアルバムには収録されているんです。
──このアルバムは冒頭2曲が特にキャッチーですが、クボタカイさんとコラボしたダンスミュージック“二人の答え”も、80’sポップ的な“明日には振り向いてよ”もシューゲイザーへの入り口だと。
しゅうた:そうですね。例えば“明日には振り向いてよ”は全体的に明るくて軽い印象を受けると思うんですけど、ギターのエフェクター・ボードはいつも使っているものだし、シューゲイザーの楽曲で使っているのと同じ音色で、いつも通りレコーディングしているんですよ。そういうこだわりがどの曲にも入っていて、そのうえでアレンジャーさんにポップに仕上げてもらっているので……だからTikTokでいろいろな人がこの曲に合わせて踊っているのも見た時、「狙った層に届いているな」と実感したんですよね。
──物騒な例えかたで申し訳ないですが、毒入りの水を、毒だと気づかせないように飲ませるための工夫がお上手というか。
一同:(笑)。
──この曲にシューゲイザーの要素が入っていると気づかずに聴いている人もいるかもしれないけど、別にそれでもよくて、「この曲いいな」くらいの感覚でも自分たちの音楽を聴かせてしまえば勝ちだという話ですよね。水のつもりで飲んでいたらいつのまにか体内に毒が蓄積されているのと同じように、クレナズムの音楽に触れているうちにいつのまにかシューゲイザーを摂取していて、最終的にシューゲイザー大好き人間になっている、みたいな。
けんじろう:そうですね。侵しちゃいたいなと(笑)。
しゅうた:アルバムを通して聴いている時に思ったんですよ。最後のほうになればなるほど、なんかどんどん暗くなるなって(笑)。
萌映:確かに。濃度がだんだん上がっていく感じも楽しんでいただけたらと思います(笑)。