ずーっとビギナーみたいで、楽しいは楽しいです
──“夏の調べ”はちょっとソウルっぽい曲で、昨今のシティ・ポップ流行への志磨さんの回答みたいな意味合いもあるのかなと思ったんですが。
志磨:実はあんまりよくわかってないんですよ。ぼくは80年代のポップスをあんまり聴かないので、シティ・ポップ・ブームとか言われても「なに?」みたいな感じで。でもこういう音は好きなので、たぶん聴けば好きなレコードあるんだろうな、と思いながら、最近あそこらへんの盤は異常な高値が付いてるので(笑)、ブームが落ち着いてから調べようと思って。
──さっき言っていたシンセサイザーが目立つ雰囲気は、この曲や次の“ぼくのコリーダ”にもありますね。ドレスコーズの名前でこういう曲調を聴くのは新鮮でした。
志磨:うん。自分でもおもしろかったです。
──コリーダとかエロイーズとか、女性の名前が出てきますが、下敷きにしたイメージはあるんですか? なにかの登場人物とか。
志磨:ビートルズで言ったらポール(・マッカートニー)の曲にありがちな、“Eleanor Rigby”とかそうですけど、登場人物の名前が付いた物語調の曲って、世の中にたくさんあるじゃないですか。ぼくあれに弱くて、毛皮のマリーズでも“Mary Lou”とか、なんかあったらすぐ「メリー」とか「ジョニー」とか出しちゃうんですよ(笑)。それを1回やめろって当時のディレクターに言われたことがありまして、「そんな横文字の名前より、自分のことを歌わないと誰も共感せん」と。確かに、と思って一人称で書くようにしてたんですけど、今回ばっかりはいろんな登場人物が出てくるアルバムがいいだろうということで、名前シリーズが復活です。
──“ラストナイト”は別れの直前を切り取ったシーンかな?と思ったんですが……。
志磨:この子はたぶん、ひとりでいるんですね。「きみの相手は ぼくだけがする」とか言って、自分を甘やかしてるみたいな。
──そうか、「きみ」は「ぼく」なんだ。
志磨:そうそう。わざとしょうもない映画を見たり、「わるいとこも直さないで」って人に言ってほしいことを自分で言ったり(笑)。明日のことは明日の自分が頑張るでしょう、みたいな。
──最後の“横顔”が、個人的にとても印象に残りました。レッド・ツェッペリンの有名な曲を彷彿とさせるリフをピアノに置き換えて、アコースティックにやっているのがおもしろくて。
志磨:最初はこれ、バンド・アレンジでやろうと思ってたんです。もうちょいニール・ヤングとクレイジー・ホースみたいなイメージで、あの間奏はイントロにくる予定だったんですよ。でも今回のアルバムには合わないな、と思って、アコースティックにしたんです。で、そのイントロというか、いま間奏にしてる部分も捨てようか迷ったんですけど、この曲が最初に浮かんだときからくっついてたものなので、ブチッと切除するみたいなのはあんまりよくない気がしたんですね。どんなときでも、曲を作ったとき最初にポンと浮かんだものは、意味がわからんくても残しとくので。
──これがあることにはなにか理由があるんじゃないか、みたいな。
志磨:そうなんですよ。アコースティックにしたらもはやあの間奏はいらなくて、録音のときもメンバーに「ここがなかったらもうちょっと簡単なんだけど、これがあるせいで迷う」って言われて(笑)。おっしゃる通りだし、ぼくもそう思うんですが、デベソとか虫垂とか親知らずみたいなもんで、いらないからって切って捨てていいのか、っていう気持ちがあって、残したまんまなんです。
──ニール・ヤングと言われてみると、バンド・アレンジだったらそうなりそうな感じはありますね。メロディとか。
志磨:もし別のアルバムに入れる曲だったらバンドでやってると思いますね。またいつかライヴなんかで、バンド・アレンジでやってみるかもしれません。
──全体に、楽しい曲調で弾むようなビートで、ちょっと切ないお話を歌っている曲が多いと思いましたが、考えてみればドレスコーズはいつもそうかなという気もしますね。
志磨:そういうのがやっぱずっと好きなんですよ。ティム・バックリーじゃないですけど、ハッピー・サッドっていうんですかね。ワクワクするもののなかに、どっか少し寂しさがあるっていうような。それもまた夏っぽいですね。日本の夏って短いから、「あちいあちい」って言ってるのも実質1週間ぐらいですもんね、毎年。8月の真ん中ごろには「あれ、もう終わり?」とか言って。だからよけいに焦るんでしょうね。
──ミュージシャンにはどんどん変化していくタイプと、ひとつのスタイルを頑固に追求するタイプがいて、志磨さんは前者かなと勝手に思っているんですが、この人の変わり方はかっこいいな、と憧れるアーティストはいますか?
志磨:やっぱりデヴィッド・ボウイですかね。抑制を効かせて理性的にやってる感じ含めて。コロコロとスタイルを変えていく人ってたくさんいて、勘とか好みでやってる感じの人もいますけど、ボウイはアルバムごとにキャラクターを作って役者みたいに演じて、スパッと切り替えていくじゃないですか。ツアーが終わったらまたまったく別のキャラクターになる。そういうとこに憧れますね。
──ボウイは肉体性と観念性のバランスがすごくいいですよね。
志磨:そうそうそうそう。あと、ちょっと人間離れしてるというか、音楽の範疇をはみ出てる感じも好きです。ローリング・ストーンズとかプライマル・スクリームとかもずっと変わってますけど、ロックンロール・バンドという基本があるじゃないですか。ボウイの場合はさらにいろんなものが付随してくるので。
──きっとラモーンズみたいな行きかたも大好きだろうと思うんですが。
志磨:ラモーンズみたいでいたいって、何度思ったことか。でもやっぱりできないですね、ぼくには。
──そんな志磨さんの、どこまでも変化していく音楽人生って、楽しさとしんどさとどっちが強いですか?
志磨:楽しい……と本人は思ってますね。それによって増える手間はありますけど(笑)。毎回新しいことを1からやると、勉強したり準備したりしないとダメだし、覚えたてだからうまく使いこなせないし、やっと使えるようになったころにはもう飽きて、「次はこれやりたい」って。ずーっとビギナーみたいで、楽しいは楽しいです。いいことかわからないですけどね。
──“Absolute Beginners”ですね。次のアルバムではまたコロッと変わるかもしれないし、もしかしたら飽きずにもう一度やるかもしれないし。
志磨:そうですそうです。それはまた来年のぼくが頑張るでしょう(笑)。
編集:梶野有希
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〈the dresscodes TOUR2022〉
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PROFILE : ドレスコーズ
2003年「毛皮のマリーズ」結成。日本のロックンロール・ムーブメントを牽引し、2011年、日本武道館公演をもって解散。
翌2012年「ドレスコーズ」結成。2014年以降は、ライブやレコーディングのたびにメンバーが入れ替わる流動的なバンドとして活動中。最新作は、アルバム『ドレスコーズの音楽劇《海王星》』(2022年)、LIVE Blu-ray & DVD『バイエル(変奏)』(2021年)。近年は菅田将暉やももいろクローバーZ、上坂すみれ、PUFFY、KOHHといった幅広いジャンルのアーティストとのコラボレーションも行なっている。音楽監督として『三文オペラ』(2018年 ブレヒト原作・KAATほか)、『人類史』(2020年 谷 賢一・KAAT)、『海王星』(2021年 寺山修司原作・PARCO劇場ほか)上演。また、文筆活動のほか、俳優として映画『溺れるナイフ』、『グーグーだって猫である2 -good good the fortune cat-』、『ホットギミック』、『ゾッキ』に出演。2022年5月20日には、新曲「エロイーズ」を配信リリース。さらに同年、ドレスコーズがソロ体制初となるツーマンイベントシリーズを開催中。
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