卒業する頃にはラルクの曲を全部歌えるようになっていました
──いわゆる「歌ってみた」の文化にハマったり、自分で「歌ってみた」動画をアップしたりはしていなかったんですか?
望月 : 聴いたりもしたんですけど、ずっとそればっかり聴くとかいうことはなかったですね。「歌ってみた」動画を上げたりも、当時はしていなかったです。「歌ってみた」は自分の個性を出して歌うと思うんですけど、私はミクちゃんの歌マネが好きだったんです。
──なるほど。あくまで初音ミクの歌マネを当時はしていたんですね。
望月 : そうですね。そして、私は基本的に陰キャなんです。静かに家で雨が降る音を聞きながらベランダで村上春樹さんの本を読んだり、夕方に食事するのを忘れて細かい絵を描き続けて朝になってるとか、お墓について研究したり、そういう人間なんです。だから、動画を上げたりなんてとてもできなくて…。
──人前で歌うようになるのは、いつ頃ですか?
望月 : 中学生のとき、ボカロはもちろん好きだったんですけど、同時にL'Arc-en-Cielも好きだったんです。私は、好きになったらそれになりきらないと気が済まないんですよ。だから、ミクちゃんに近づけたように、次はラルクに近づこうと思って、そこからギターをはじめました。格好もラルクっぽくして、中学校を卒業する頃にはラルクの曲を全部歌えるようになっていました。高校生になってからは、軽音部がある学校に入って、そこでラルクのコピバンでギター・ヴォーカルを担当して、“HONEY”とかを歌いまくっていましたね。
──さっき自分は陰キャっておっしゃってましたけど、そのイメージとは全然違うような気がします。
望月 : 自分のなかにスイッチがあるんです。歌ってるときはめっちゃオンなんですよ。陰キャの自分なんて忘れてるぐらい、「イェーイ」みたいな感じなんですけど、オフになった瞬間に「誰も私のことを探さないでください」みたいな感じになります(笑)。
──オンオフがはっきりしてるんですね。演歌とボカロとラルクとの3つは全部違うような気もするんですけど、歌詞の世界でいうと、演歌もボーカロイドもラルクもダークな曲も多いじゃないですか。だから、そこは共通してるんじゃないかなと、いま話を訊いて思いました。
望月 : そうですね。いい意味で闇が隠れてる部分ですよね。ダークな曲が好きなのかもしれないです。
──大学に入ってからはどうだったんですか?
望月 : 大学生で軽音部に入ったんですけど、ヴォーカルの子が多くてすごく辞めちゃいました。それから就活をはじめるんですけど、歌もやってみたくてオーディションを同時並行で受けまくっていました。その頃、〈ニコニコ超会議〉の入場者人数を数えるバイトをしたり、入場している人の列の整理をやっていましたね。結局、就活で某大手の会社に内定が決まったんですけど、そんなとき、たまたま街でいまの事務所の社長に「芸能界に入らない?」って声をかけられたんです。そこで自分のなかでビビッときて、内定もキャンセルして、それからは、アイドル・グループのメンバーとして活動をはじめました。
──激動の人生ですね。
望月 : 2019年に〈ニコニコ超会議〉で超歌ってみたブースでアシスタントMCを務めさせていただく機会があって、そこで石川さゆりさんの“天城越え”を歌ったんですよ。すると、「演歌ってすごい! 」ってコメントとか周りの人も言ってくれたんです。演歌を歌ったことによってもともと夢だった「演歌歌手になりたい」っていう気持ちがどんどん大きくなっていきました。それから、ソロで演歌歌手としてメジャー・デビューしたのが2020年ですね。
──演歌歌手としてデビューしてからはどうだったんですか?
望月 : コロナ禍のときに演歌歌手としてデビューしてたんですけど、お店を回ったりキャンペーンも回れないし、配信でCDを広めたりしていたんです。その甲斐もあって、昨年末には、日本レコード大賞の新人賞を受賞させていただきました。結構忙しくて大変だったんですけど、やっていくうちにデビュー当時よりは自分の心に余裕を持てたり、時間の使い方とかも上手くなってきたんです。そこで半年前から、ボカロで「歌ってみた」動画を上げたりしはじめました。