2022/10/07 17:00

kojikoji 『Mining』

ラップ曲のアコギ弾き語りカヴァーで注目を浴び、変態紳士クラブ、クボタカイ、冨田ラボらの曲に起用されてきたシンガー・ソングライターの初アルバム。過去2作のEPではBASIが作詞とプロデュースを担当していたが、今回はアレンジにニューリーと東里起を迎えてほぼ全曲を自ら作詞・作曲している。「採掘」を意味するタイトルは作詞のために自らの内面を掘り起こした経験に由来する……というのは後情報で、予備知識なしに聴いたときは “はぐれ雲” で馴染みのあるコーラスが聞こえてきて、大橋トリオの提供曲と知って驚いた次第。この曲の歌唱は端正だが、全体的には “wan-tan” “じっくりコトコト” “陶芸” など歌とラップの中間のような歌唱で惹きつける。清涼感のある低めの声に魅力横溢。素直でユーモラスな言葉選びもいい。

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ユカリサ 『Signal』

2019年に山崎ゆかり(空気公団)、吉野友加(tico moon)、中川理沙(ザ・なつやすみバンド)の3人が結成したグループだが、不勉強にして初めて聴いた。ポップな表題曲で耳がそば立ち、 “頑張るふたり” “coffee shop open” のインスト連打、曲名通りMPBっぽい “Samba do primeiro amor” で惹き込まれた。架空のアニメのサウンドトラックがコンセプトだそうで、3人の担当楽器がオルガンとシンセ・ベース(山崎)、ハープ(吉野)、ピアノ(中川)ということは、先述のインスト2曲と “さおとまりこの日常” “おやすみ” の室内楽的な演奏が本来の姿で、シンリズムらが参加したのはバンド編成の2曲なのだろう。高い美意識が隅々まで浸透し、どちらも等しくすばらしい。1st『WATER』もすばらしかったので、反省して今後は注目します。

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illiomote 『side_effects+.』

正直さはilliomoteの美点である。「ハッピー・ポップ」を掲げた1st、コロナ禍の影響でメランコリーに振れた2ndを経て、この3rdでは両者のバランスがとれてきた印象。 “Water” からハウス的な “A.O.U” に直結、80年代パワー・バラードの虚無展開みたいな “nothin'.” をはさんで2ステップっぽい “Dark_Eyes.” が並び、アコースティックな “folksong '99” をアクセントにポップな2曲をボーナス・トラック的に配してある。わずか7曲でもしっかり流れを作って心を動かしてくれるのはさすがだ。感覚的な言い方になるが、どんなに明るい曲にも憂鬱なニュアンスがあり、それでいて殺伐とはしないのがilliomoteの持ち味。きっと二人の人柄の表れなのだと思う。ブルージーな深みを増してきたYOCOの歌が心地よい。

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この記事の筆者
高岡 洋詞

フリー編集者/ライター。 近年はインタヴュー仕事が多いです。 https://www.tapiocahiroshi.com/

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