2022/10/05 18:00

最初の15秒できっと好きになってもらえる

──確かにそうですね。ではリード曲“spring sleep”の制作はいかがでした?

横山:レコーディングが5、6日間あったんですけど、最初の2日間は僕とドラムだけは録り終わらないといけないスケジュールで。この曲もレコーディングではじめて合わせました。

高城:先ほど話にあがった、ドラムテックを手伝っていただいた矢野さんにもアレンジをお願いさせてもらっていて。矢野さんってドラマーとしての経験も豊富なので、音作りもそうですし、シンバルのニュアンスとかそういうすごく細かいところまでディスカッションをしながら録ったんです。だからすごく時間がかかりましたね。

:このアルバムのいちばんの贅沢ポイントかもしれないね。矢野さんにドラムテックで手伝ってもらって、レコーディングをご一緒させていただいたという。

岩瀬:あと、アルバムの1曲目からアウトロがフェード・アウトしていくスタイルをとっているんですけど、エンジニアさんから「変わってるね」と言われて。一般的ではない手法ですけど、最後まで楽しんで聴いてもらえる曲だと思います。

──曲調もアルバムの幕開けにふさわしい親しみやすい感じで。

:特に岩瀬がこの曲好きだったよね?

岩瀬:うん。基本的にデモは弾き語りなんですけど、この曲だけは簡単に打ち込んだデモがもともとあって。2年前くらいかな。

横山:これ、あれだよね。俺がまだサポートの時に、俺の家で打ち込んだデモが元になってるよね。(横山は2019年1月に正式メンバーとして加入。)

岩瀬:そうだった。そのくらい昔からある曲ですけど、バンドでちゃんと作る機会がなかったんです。アルバムに入れたかったので最初は僕ら4人でアレンジをしてみたんですけど、うまいこといかなかったので矢野さんに相談させてもらったら、最初のデモの段階からすごく良くて。アレンジがこの曲の良さを加速させてくれました。

:矢野さんがギターのフレーズを変えたり、タンバリンを入れたりして、一緒に試行錯誤してくださって。すごくありがたいことだし、キャリアのある方と一緒になにかを作るという経験をさせてもらえたことはすごく勉強にもなりましたね。

──アルバムの最初にこの曲を持ってきたのはなぜですか?

岩瀬:特に自信がある曲だからですね。サブスクやCD屋さんの試聴機で聴いてくれたら、最初の15秒できっと好きになってもらえると思うんです。いや、せっかくなら30秒くらい聴いてほしいけど...(笑)。アルバム全部を聴くのは大変だと思うので、せめてこの曲だけでも聴いてもらえたら、このアルバムを作ってよかったとすら思えますね。

──歌詞にも「小籠包」など、ポップな言葉が入っていたりと新鮮でした。

岩瀬:いつもは頭に浮かんだ言葉を書くことが多いんですけど、この曲に関してはちゃんとポップなワードを選んで書きました。カタカナもそうですし、「小籠包」とかフックになるような言葉をあえて選んで書いているので、1、2回聴けば覚えてもらえるんじゃないかなと思います。

──電子音が印象的な「2番手」は、音楽的に新しいことにチャレンジされたとのことですが。

:岩瀬が元を作ってくれて、アレンジは僕がしています。打ち込みの音をベースに、ドラムもリズムマシンっぽい音と生ドラムのキックの音を使ったりしています。これも1回バンド全体でアレンジしたんですけど、4人でひとつの曲を作るって案外難易度が高くて。それでこの曲のアレンジを僕が任せてもらったのですが、ドラムやベースをカット・アップしたり、サビにあったハイハットをAメロに持ってきたり、イントロを消してBメロのベードラを作ったりみたいな、DJっぽい感じで組み立ていきました。

とけた電球 「2番手」 (Official Music Video)
とけた電球 「2番手」 (Official Music Video)

──“2番手”という楽曲のイメージに合わせて、打ち込みをメインに持ってきたんですね。

:そうですね。「2番手」というタイトルなので、別に1番手がいるわけじゃないですか。自分とあなたの他に第3者がいるような恋愛を描いた歌だから、苦くて切ない曲なんですけど、サビの最後は「いい日になるでしょう」と歌ってたり、同時にポジティヴさも孕んだ曲だとも思っていて。だからこの曲の主人公像は「失恋して苦しい」よりも、この切ない状況でさえも楽しんでしまう人かなと思ったので、ダンサブルなサウンドにしたかったんです。切なさもありつつ、開放感もあるような曲にしたいなと考えてアレンジしました。

──ヴォーカルのみからはじまる曲って、とけた電球では珍しくないですか?

:そうですね。この歌がいちばん最初に耳に入ってきて欲しかったのと、サビまでのスピード感が欲しくて、イントロのない構成にしました。その中に展開もちゃんと欲しいと思い、Bメロは異質なアレンジを組むことでコンパクトさとボリューム感を内包した自由なアレンジになりましたね。

──そして今回は、初のワンマン・ツアーも開催されます。どういったライヴを目指しますか?

:ワンマン・ライヴって、やっぱり特別なんですよね。僕らだけを観に来てくれるお客さんが会場にたくさんいるので、普段やらない曲をやっちゃおうかな、とかサービスしたくなっちゃいますし。あと昔から関西でもライヴはやらせてもらっていますけど、ワンマンははじめてなんです。待ってくれている方や、ワンマンライヴだったらいこうかなという人もいると思うので、その期待に答えたいし、楽しい時間を届けたいですね。

──では、最後に岩瀬さん。意気込みをお願いします。

岩瀬:はじめてのワンマン・ツアーなので、新曲をたくさんやりつつ、古い曲もできるだけやりたいと思っています。あとこのワンマン・ライヴは、ターニングポイント的な公演になると思っていて。新しい曲もいつかは古い曲になっていくので、今後やらない可能性もでてくるわけじゃないですか。だから今回は、ちょうど新しい曲と古い曲を同時に楽しむのにピッタリな公演なので、1枚目のフル・アルバムを出すこのタイミングでのとけた電球を楽しんでもらえたら嬉しいです。

とけた電球のフル・アルバムはこちら!


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ポップスは明るいだけじゃおもしろくない─とけた電球、新EP『WONDER by WONDER』

計算ではなく、良い音楽を作りたい──とけた電球がニューシングルに込めたバンドとしての美学

LIVE INFORMATION

〈初めての10周年!初めてのフルアルバム!初めてばかりで期待しちゃうワンマンツアー!〉
10月9日(日)
場所:下北沢440
昼公演:OPEN 15:00 / START 15:30
夜公演:OPEN 19:00 / START 19:30

11月3日(木祝)
場所:名古屋 ell.FITS ALL
時間:OPEN 18:30 / START 19:00

11月4日(金)
場所:大阪 OSAKA JANUS
時間:OPEN 18:30 / START 19:00

PROFILE : とけた電球

2012年5月、高校のマンドリンクラブで出会ったメンバーで結成する。心に響く歌詞とメロディ、即興的で中毒性の高いライブ演出が注目を浴びている。

■公式HP:https://www.toketadenkyu.com/
■公式YouTube:https://www.youtube.com/channel/UCXfWxPbe6SoT_thmfOxojsA
■公式Twitter:https://twitter.com/toketadenkyu
■公式Instagram:https://www.instagram.com/toketadenkyu/

この記事の筆者
梶野 有希

1998年生まれ。誕生日は徳川家康と一緒です。カルチャーメディア『DIGLE MAGAZINE』でライター・編集を担当し、2021年1月よりOTOTOYに入社しました。インディーからメジャーまで邦ロックばかり聴いています。

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[インタヴュー] とけた電球

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