明日がないことが、ロックンロールの最初の条件
──うんうん。レコーディングはいかがでした?
谷山:この曲みたいに下津の歌声が前面に出ることがほとんどなかったんですけど、音質含めて、すごくいいヴォーカルが録れましたね。すごく距離が近いというか、オープン・リールじゃないとでない質感かなと。
下津 : この歌録りは難しかったです。スネアのボリュームもバラバラだし、2番ではベースが動き回ってたりとか、反対に隙間だらけのパートもあったりとか。そのリズムにヴォーカルを合わせるのが難しかった。
──そのへんのアレンジも丸山さん?
谷山:これはドラムの(坂本)タイキがいろいろ「こうしたい、ああしたい」っていうのがあったよね。
──踊ってってアレンジに対して、そんなにいろいろ話し合うバンドだったっけ?
下津: いや、そんなことなかったです。「ワン、ツー、スリー、フォー、せーのでドン!」みたいな、初期衝動のままスッと制作することに僕らが飽きているんだと思います。だって「ghost」以上のものってもうできないですもん。言い方は悪いですけど、あの作り方でできる最終形態が『光の中に』っていうアルバムだったので。
谷山:みんながどういう音楽がしたいのかも最近はいろいろわかるようになってきたから、こうやって話し合いをしながら制作できているんだと思いますね。
──そのことを下津さんはどう捉えていますか?
下津: ハッピーですよ。長い目で見たときにディスカッションがなくなるときは、バンドの最後の日だと思うので。だから、やりたいことがあって、分解できるものがある間は休んだりしながらも、色々できるんちゃうかなと思います。僕含め、音楽がなくなったらヤバいメンバーとしかバンドをやらないし。
下津:うん。『moana』の時期とコロナ禍があったから「あ、俺らは社会におるんや」って気づけた。いままで関係ないと思って生きてきたけど、めちゃくちゃ関係あるやんみたいになって。だから「知る由もない」っていう曲もできたのかなと。
──へえ。
谷山:そもそもこの曲ができたキッカケは、『シュガーヒル』というブランドをやってる友達の(林)陸也から「ファッションショーで演奏してくれないか?」ってオファーをもらったことからで。僕らもそういった経験はなかったんですけど、下津が「俺も(ファッションショーに)言葉を添えたい」ってなって生まれたんです。
──そっか。だから歌詞にも「お嬢さんドレスに着替えて」ってあるんだ。
下津:はい。シュガーヒルも結構インディペンデントな感じで、ブランド・メッセージ的にもアンチ社会みたいなところがあって。それで「僕らはどういうことをしたらええんかな」って聞いたら、「パワーを持っている人らとかに媚びなあかんところで媚びるのってめっちゃだるくない?」って言われて(笑)。それで「OK、OK。無理だよな、知る由もないよな」って思って、この曲ができました。
──なるほど。歌詞の後半なんて下津くんがずっと言ってることじゃないですか?「正義じゃない悪じゃない」とか。
下津:そうですね。みんな自由ぶってるけど同じ髪型して生きてるやん、個性どこいったん、みたいな気持ちを込めてます。僕はヘラヘラしながら、普段からこういうことを本気で思っているけど、こんなオブラートに包まへんかった歌詞はいままでなかったと思いますね。文学じゃないですもん。メンバーがいないと怖くて人前で歌えないから、バンドじゃないとできひん曲ですね。
──では、表題曲「Paradise review」についても教えてください。
下津:これは、GEZANが主宰しているレーベル十三月が開催した、ライブとスピーチによる反戦街宣〈No War 0305 Presented by 全感覚祭〉のあの景色をそのまま歌いました。これ俺らが歌わなきゃだめやんって思って。
──あのイベント、踊っても出てましたよね。
下津:はい。僕らの出番の時点で、1万人以上集まっていましたね。その景色を見て、1週間ぐらいで作りました。あの日は、反戦という言葉ではなく、「傷ついた人に合いの手を」っていうニュアンスの方が正しい感じで。でも僕的にはなんか気持ち悪くて。「誰に気を遣ってんねん」って。文明だけ便利に進化しているけど、人間はやってること500年間ずっと変わってないやんけ、それでなにがパラダイスやねんって。なんかもうめっちゃむかついて。
──僕はこの曲がいちばんぐっときましたけどね。今度〈俺たちに明日はない〉ツアーが始まりますけど、このツアー名もこの歌詞から?
下津:そうですね。この流れから。
──〈俺たちに明日はない〉っていう言葉に、下津君の「ふざけんな」っていう思いがこもっているの?
下津:明日がないことが、ロックンロールの最初の条件というか。明日を守ろうとしてるやつはロックンロールできないと思うんです。明日なんか殴り捨てて、そういう気持ちをダウン・ピッキングにのっけるものだと僕は思っている。だから、僕のロック像であったり、ロックが持ってるパワーみたいなものをむける矛先はやっぱりパラダイスではないんですよ。
──では最後に、今作『Paradise review』はどんなアルバムになったかそれぞれ教えてください。
丸山:色々なタイプの曲がありますよね。『moana』のときは苦しんでたけど、今作は楽しみながら録れたし、その感じが音に出てるから、色々な人に聴いてほしいです。
谷山:僕は30分ぐらいで聴き終わるアルバムがめちゃくちゃ好きだから、自分たちもそういう作品を作ってみたいとずっと思っていて。収録時間的にも聴きやすい作品ができて、すごく嬉しいです。
下津:世の中をみても、いまこの作品を出さないでいつ出すねんって思います。谷山はこのボリュームでよかったって言ってくれているけど、僕は10曲入りでも出していたと思う。だけど、結果残ったのがこの7曲で。それっていまの僕らに響いた曲が7曲だったってことだから、やっぱりこれしかないって作品になっています。
編集:梶野有希
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LIVE INFORMATION
<『Paradise review』release tour「 俺たちに明日はない」>
10/07(金)東京都 中野サンプラザ
10/21(金)新潟県 CLUB RIVERST
10/22(土)石川県 金沢GOLD CREEK
10/24(月)兵庫県 神戸太陽と虎
11/04(金)宮城県 仙台CLUB JUNK BOX
11/11(金)沖縄県 沖縄OUT PUT
11/20(日)北海道 札幌PENNY LANE24
12/02(金)福岡県 福岡The Voodoo Lounge
12/03(土)熊本県 熊本NAVARO
12/08(木)愛知県 名古屋THE BOTTOM LINE
12/10(土)広島県 広島4.14
12/15(木)大阪府 味園ユニバース
PROFILE:踊ってばかりの国
うたと3本のギター、ベース、ドラムで構成された東京で活動する5人組のサイケデリックロックンロールバンド。幾度かのメンバーチェンジを挟みながらこれまでに5枚のフルアルバム、3枚のミニアルバムをリリースし、FUJI ROCKなどの大型フェスにも出演。音楽に愛されてしまった5人が奏でる爆音でかつ繊細な楽曲は、古い米国の田舎町や英国の路地裏、日本の四季の美しさをも想起させ、眩しいほどの光で聴くものを包み込む、正しくアップデートされたロックンロールの形。2018年より「大和言葉」という対バン形式の自主企画もスタートさせ、活動10年を超えた現在、最も理想郷に近い形で活動中。
■公式HP:https://odottebakarinokuni.com/
■公式Twitter:https://twitter.com/odotte_official