神様だけにすがっては生きて行かれへん。そのためにサイケデリックがある
──(笑)。丸山さんの「Your Song」のおすすめポイントをおしえてください。
丸山:えっと... 歌詞が... なんかいい...です。悪魔のところとか意味深ですし。難しいですけど。
下津:ありがとうございます(笑)。「鳥になった後 」と「悪魔にあった後」という構成は、僕がよくやるパターンで。1番で明るいことを書いたら、2番目では暗いことを書くっていう。1曲を通して陰陽を作るというか。こっちは光系の悟りで、こっちはダーク系の悟りでっていう風に対比させた歌詞になっているんです。世の中もそういう風にできていると思うので。
──2曲目「Ceremony」は、今作のコンセプトを象徴する曲かなと。
下津:コロナがあって、戦争もあって。悪いことがたくさん起こっているじゃないですか。それで結論、街に人が集まりすぎてるんじゃないかなって思ったんですよね。だから森や海に行って、心が救われる感じを表現したくて作りました。以前からライヴで披露しているんですけど、いまのオシャレなコード進行は思いついていなかったんです。
──誰がコードを?
下津:丸さんです。俺が作ったコードの裏というか、代理コードみたいな進行を見つけてくれて。あとは『moana』とか「ニーチェ」の時にやった方法論も落とし込んでます。
谷山:『moana』でやったアレンジの集大成ってほどではないけど、そこで使っていた方法論がこの曲ですごくポップにまとまりましたね。
──その方法論っていうのは?
下津:メロディーが動いてるのに対して、ギターが全然動いてないとか。逆にここは一緒に動いてあげた方がメロディーがいい感じに聴こえるんじゃないかとか、そうやって1個1個コードを当てながら作りました。
谷山:丸がジャズに詳しいので、ジャズでよく使う手法とかコード・チェンジを教えてもらうんです。『moana』はそういう実験をいちばんしたアルバムで。ここらへんから、やっと丸に言われてたことが自分の物になり出したような感じがしますね。
──丸山さんのポジション、めちゃくちゃ重要だし、大変ですね。
丸山:うーん。どうかな。僕はジャズの人間ではないですけど、好きだから勉強したくて。
下津:大変だと思いますよ。水がパンパンに入っている水槽のキャパを広げてくれるのが丸ちゃんの役目なんです。それによって音の響きが変わるから、僕らのバンドはギター3本をちゃんと使えるし。丸ちゃんがいないと飽和しちゃうと思うんですよね。丸ちゃんが鳴らした音を基準にチームが動くこともよくあるので。
──すごいなぁ。「待ち人」については、いかがですか。
下津:俺はこんなに世界を愛しているのに、世界は俺を愛してくれないっていう歌です。でもみんな幸せになってという気持ちも入っていて。
──「your song」の話のときも思ったけど、いい意味で騒がしい人ですね、下津君は。
下津:(笑)。歌詞を読み取られるのは恥ずかしいですね。
──では、サウンド面はいかがでしょう。
下津:サザン・ロックとかビック・ビートとか、ウエスト・コースト的な音楽を、僕もギターの大久保も聴いていたんですけど、そういうのを踊ってでもずっとやりたくて。3枚目のバンド名を冠したアルバムに入っている「メイプルハウス」ぶりのノリになっていると思います。細かいとこで言うと、サビ前の「生ぬるい風〜」の歌詞に対して、音も生ぬるい感じにしてみたり。丸さんのギターも、鳴ってないけど聴こえてほしい音みたいなところを弾いてくれていたり。
──ギター・ワークが本当にすごかった。ミックスの近藤さんもそのギターの良さをフィーチャーする感じで作業されたのでしょうか?
下津:だと思います。今までのロック・バンドのフォーマットに当てはまらないらしく、ギターの配置は特にいつも時間をかけてくれていますね。
谷山:録りはじめるときもみんな「本当にチューニング合ってる?」って(笑)。丸さんも「ずれてるかもしれないですけど正解です」って言いながらレコーディングしていました。
下津:「気持ち悪いんだけど」ってね(笑)。あ、あとそうだ。今回のレコーディングは、オープン・リールで録っているんですよ。それもあって最終的にめっちゃ良い音を録ってもらいました。近藤さんとは、熱量がトントンなのでいい作品を録り続けることができるんだと思うんです。めっちゃムカつくこともあるけど、それも熱量があってのことなので。
──ミックスは、すごく時間がかかったんじゃない?
谷山:結構かかりました。アナログなので、エディットも全部手作業なんですよ。波形でチェックできないから、1回1回聴いて、消したい音を探しての繰り返しで。
下津:チェックしていて、ギターがミスってるから録り直そうとか言ってもそう簡単にはできないから、1週間前のメモリーに合わせて修正してってことの連続でした。しかも僕らは5人のバンドだからテイクもトラックも多い。だからひとり入れ替わったら全員のEQが変わっちゃうとか、もうそんなんで。アルバム単位でのアナログのレコーディングは、はじめてでしたし、マスタリングまで入れると3ヶ月くらいかかりました。
──それは大変だ! 4曲目「Amor」の歌詞には「すべて奴らの仕業だ」ってありますけど。
下津:これはもうぶち切れてますよ。これも戦争やコロナに対しての曲ですね。仕組まれて起きてることじゃんって勘ぐりに勘ぐってます。神様だけにすがっては生きて行かれへんなと思いましたね。そのためにサイケデリックっていうのがあるんちゃうかなと思って。