2022/08/31 12:00

REVIEWS : 048 ジャズ(2022年08月)──柳樂光隆(Jazz The New Chapter)

毎回それぞれのジャンルに特化したライターがこの数ヶ月で「コレ」と思った9作品+αを紹介するコーナー。今回はアップデーテッドなジャズ+αに切り混む、好評シリーズ“Jazz The New Chapter”の監修を手がける音楽批評家、柳樂光隆による、今回は12枚の厳選ジャズ作品。

OTOTOY REVIEWS 048
『ジャズ(2022年8月)』
文 : 柳樂光隆(Jazz The New Chapter)

Joel Ross 『The Parable of The Poet』

あっという間に「新世代を代表するひとり」の枠を超えて、シーン屈指のプレイヤーになってしまったヴィブラフォン奏者ジョエル・ロス。本作は『KingMaker』『Who Are You?』に続く名門〈ブルーノート〉からの3作目。過去作に参加しているのはイマニュエル・ウィルキンスのみ。参加しているミュージシャンを一新して、音楽の印象も名かなり変わったので、これまでの2作の流れからすると異色作と言えるのではないだろうか。これまでとは作曲方法や音楽の構造を変えたと思えるのが面白く、デビュー作の時にはプロデュースをハリッシュ・ラガヴァンに委ねていたようにNYのコンテンポラリー・ジャズのエッジにあるようなソリッドでかっちりしたサウンドだったのだが、新作では柔らかくふわっとしたサウンドに。様々なメロディが織り成すような新たなコンセプトはある意味では非ジャズ的で刺激的。過去2作以上に驚きました。

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Gerald Clayton 『Bells On Sand』

ジェラルド・クレイトンは現代のジャズ・シーンで最も美しいピアノを弾く人。彼はピアノのポテンシャルを限りなく引き出し、そのタッチのバリエーションと表現力の豊かさで魅了できる最高のピアニストなのだが、その究極系みたいな演奏が聴けるアルバムを出してくれた。スペインの作曲家で“沈黙の音楽”とも称されるフェデリコ・モンポウの曲を取り上げて、それを叙情的に奏でる2曲が極上でうっとりするし、「My Ideal 1」「My Ideal 2」と名付けられた2曲では様々なジャズ・ピアノのスタイルがスムースに溶け込んだ「これぞジェラルド・クレイトン!」と言いたくなるさりげなくすさまじい演奏が聴ける。そして、ラストにもピアノ・ソロが収録されていて、これはモンポウとも「My Ideal」とも異なる演奏。恐らくこのアルバムは彼のアルバムの中でも最も親しまれる代表作になると思う。

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Tigran Hamasyan『StandArt』

アルメニアの奇才ティグラン・ハマシアンがジャズ・スタンダードに取り組んだ異色作。これまでティグランはいわゆるジャズスタンダードをこれまでのキャリアの中でほぼやってこなかったので、とても珍しい企画。そして、そのためにいつものメンバーではなく、ベースにマット・ブリュワー、ドラムにジャズティン・ブラウンを起用して、完全にコンテンポラリージャズ仕様で挑んだのも面白い。ちなみにジャスティン・ブラウンはサンダーキャットのバンドのレギュラードラマー。ティグランの代名詞ともいえる変拍子リズムが炸裂する曲もあるが、マーク・ターナーを迎えてサックスとピアノのデュオで演奏した「All The Thing You Are」やジョシュア・レッドマンを迎えての「Big Foot」、アンブローズ・アキンムシーレとのデュオ「I Should Care」などで聴ける(ジャズも含めた)即興音楽家としてのティグランの素晴らしさが存分に聴ける。そして、上記3曲だけでもそれぞれに演奏のコンセプトやスタイルが全く違うので、ジャズ・ミュージシャンとしての幅の広さが聴けるのも良いです。やはり当代随一のピアニストだと再確認。

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