テニスをやりはじめてから全然息切れしなくなりました
野中 : 楽曲はどんな風に作られているんでしょうか?
なおこ : ビートルズはバンドをはじめる前からずっと好きだから、大きな影響を受けています。メロディー的には、ちゃんとAメロ、Bメロ、サビ、ブリッジがある曲が好きなので、そこは意識して作っています。歌詞に関しては、恋愛のことを歌詞にするのが気恥ずかしいので、日常のことや、自分の好きなもの、かわいい動物やお菓子とかを題材にしていました。“ロケットに乗って”という曲は「冥王星にロケットでいこう! 」と書かれたカルタが一枚あって、それがすごく印象に残っていたので曲にしました。“がんばれバイソン”は、上野動物園に行ったときにバイソンの檻があったんですけど、すごく臭くて人気がなかったことを題材にしています。そうやって日常の事を歌詞にしてメロディーをつけていく楽曲の作り方をしています。
野中 : 過去のインタヴューで、DTMで作曲することもあるという話を読みました。どんな機材を使われているんでしょうか?
なおこ : 以前はDTMのソフトを自分で使っていたんですが、最近は面倒くさくなってやめてしまったんです。いまはiPhoneで一回ボイスメモに入れたやつを再生しながらiPadで録音して、それを繰り返し多重録音しています。そして、それをメンバーに送って曲を組み立てるという超簡単な感じです。
岡村 : 日常的なものを題材にした歌詞を、パンキッシュでシンプルなロックンロールに乗せて歌うのは、当時としてはとても新しかったと思うんです。そこに関して、なにか新しいことをやっている実感はあったんでしょうか?
なおこ : やりたいようにやっていただけで、なにも狙ってなかったです。でも、メロディーはカラフルな曲にしたいと思っていました。怒鳴っているだけではないような曲にしたかったんです。ビートルズみたいに、メロディーがしっかりしている曲にしたいと思いながら、好きなようにやっていました。
岡村 : 少年ナイフが海外ではじめてライヴをしたとき、日本からきた女性3人がステージにいるというのは、当時としては珍しかったと思います。そのときのお客さんの反応はどうでしたか?
なおこ : はじめてアメリカでライヴをした1989年8月のLAの2nd Comingの会場では、最初からお客さんが動き回って踊りまくっていました。見ている私たちもそれが嬉しくて、ライヴ中はずっとジャンプしていました。本当に楽しい思い出です。
岡村 : なるほど。海外でライヴをするにあたって、女性としてのハンディや逆にアドバンテージを実感した部分はありましたか?
なおこ : ハンディだなと思ったのは、ひとつだけです。それは力が弱いことですね。日本から出発するにあたって、機材や荷物が多かったんです。だから、もう少しでも力があったらいっぱい運べるのになって思っていました。まあ、ツアーでは頑張って毎日運んでいましたけどね。アドバンテージの部分は、女性だからというところです。本当にアドバンテージだらけでした。少年ナイフが外国の人から注目してもらえたのは、女性3人だから珍しいところがあったんだと思います。私たちが日本の小さいライヴハウスでやっていた80年代は、自分からライヴをブッキングしたこともなかったんです。他のバンドが一緒に出ようって誘ってくれて、それでずっとライヴが続いていた状態でした。お客さんも一緒に出るバンドもみんな親切だし、困ったことは何もなかったですね。
岡村 : なるほど。90年代に入ってからは、女性的な目線やフェミニズムのようなテーマで活動しているバンドも増えたと思います。なおこさんは、そういう実感はあったんでしょうか?
なおこ : 少年ナイフの場合は、私たちの聴いてくれる人が楽しくハッピーになったらいいな、というのがいちばんの目標なんです。だから、イデオロギーは中立にしようって決めて、自分たちの意見や政治的な考えは出さないようにしていました。それは、いろんな考えの方が聴いてくださっているからです。音楽の力で聴いてくれる人が楽しい気持ちになったら、社会問題も全部クリアになって、みんなが楽しくなると思うんです。そういう考えで、少年ナイフはいつも活動しています。
岡村 : 現代において重要視されている、性差や立場をフラットにして本当に楽しめる人がそこにいればいいという感覚を、少年ナイフは非常に早くから実践していたんじゃないかと感じます。
なおこ : そうですね。人それぞれ個性や能力があるけど、それは比べるものでもないと思うんです。少年ナイフがいちばん最初に、自主制作で作ったカセットのタイトルが「みんな楽しく少年ナイフ」だったんですが、そのコンセプトをいまでもずっとやっている感じですね。
岡村 : それが40年間続いているのが、すごいですよね。いまでも初期の頃と変わらないエネルギーでライヴをやり続けているところがすごいなと思うんですが、最近のライヴにおいて変化を感じる部分はありますか?
なおこ : 90年代よりも元気になりましたね。最近は、週1回テニスのスクールに通っているんです。妹のあつこがロサンゼルスから大阪に帰ってきたときに、公園のコートでシングルスの勝負をやって、勝ったり負けたりしてるのが楽しいですね。昔はライヴが終わったら疲れていたけど、テニスをやりはじめてから全然息切れしなくなりました。そのおかげで今のほうが、めちゃくちゃ元気だと思います。
野中 : 年齢を重ねたときのほうが元気というのは、すごく希望を与えてくださいますよね。