自分たちで居場所を作るところから始めなければいけなかった
岡村 : 続いて、日本のアーティストの中でパンクを感じる方についても話していきたいと思います。私が日本のアーティストでパンクを感じるのは、断トツでphewさんですね。アーント・サリーというグループで活動を開始していまに至っていらっしゃいますが、常にアグレッシブに何か新しいことをやっている方です。
野中 : パンクって人によって感覚が違うと思うんですけど、私の場合「自分の好きなものはみんなパンク」みたいになっちゃう。だから「この人が」と言うのは難しいですね…。あえて言えば碧衣スイミングさんでしょうか。“盆おどり”という曲があるんですが、私の家は銭湯なのに今週1回しかあけてない、人々が風呂に入らず不潔になって街が荒廃していくから金持ちに風呂を借りよう、金持ちに迷惑かけて、という歌なんです(笑)。そのうち金持ちの家の前で盆おどりがはじまってある種の災害ユートピアみたいな状態が出現するという…はちゃめちゃなんですけど、想像力の広がりを見せつつ、富の再分配の必要性を訴えているようにも理解できますし、本当にパンクで大好きです。
岡村 : 日本のアーティストの中でいえば、私は柴田聡子さんにもパンクを感じます。彼女自身は、パンキッシュなアプローチをステージではあんまりとらないし、フォーキーな方だと思われがちなんですが、根っこはすごくパンクな方なんです。彼女は言葉が非常に特徴的な人で歌詞が魅力的なんですよね。彼女の “いきすぎた友達”という楽曲は、「行き過ぎる」という言葉がどう行きすぎるのか、それぞれの解釈によって変わるんです。自分と他者の距離感に対する、言葉にするのが難しい関係性をうまく伝えている歌詞がすごくおもしろいですね。
野中 : 日本のアーティストでは、春ねむりさんにもパンクを感じます。昨年、オリンピックの開会式に合わせて“Old Fashioned”という曲を出されたんですが、はっきり「TOKYO 2020 虚しいね」と言っていて、あれはすごくインパクトがありました。春ねむりさんは、アメリカですごく大規模なツアーをやっているのに、日本のフェスからはなかなか呼ばれないみたいで。おとぼけビ〜バ〜もヨーロッパでのツアーがすごく盛り上がっているようですし、日本より海外で支持されるアーティストも増えてきている感覚は最近すごくありますね。
岡村 : いろんな形で、海外に向けて発信されているアーティストはいるんですよね。例えばCHAIのように、レーベルがしっかりバックアップして行くような形もあれば、おとぼけビ〜バ〜のように、自力でちゃんと評価を高めていらっしゃる方もおられます。
野中 : 本当にそうですね。
岡村 : 最後になりますが、野中さんは現代の女性アーティストの表現について、どのように感じていらっしゃいますか?
野中 : 女性アーティストの表現は、それが外に出される過程で、手厚いマーケティングやバックアップをされてこなかった歴史がありますよね。女性はそういった大きな資本が投下されるシステムのなかで軽視されて、あまり力を入れてもらえなかった。だから、自分たちで居場所を作るところから始めなければいけなかったんですよね。今、本当に音楽自体が売れない時代だったり、大きく効率よく稼ぐみたいなビジネスモデルが崩壊しつつあるなかで、昔から自力でやるしかなかった女性はこれまで通りに頑張っていけるはずだって、この本(「女パンクの逆襲フェミニストの逆襲」)は主張しているんです。それは本当にその通りだなと思いますね。