2022/07/30 19:00

音楽ライターが選ぶ今月の1枚(2022年7月)──blondy『noise and you』

「OKMusic」や「SPICE」などで活躍しているライター、峯岸利恵が選んだのは『noise and you』。奥野陸(Vo/Gt)、濱田大地(Dr/cho)、木下茜(Ba)から成るオルタナティヴ・ロック・バンド、blondyの2枚目のミニ・アルバムである。というわけで、今月は、少し複雑、でも愛しく感じる日々の瞬間をパッケージした本作を丁寧にレビュー。また“blondyとあわせて聴きたい“をテーマにセレクトした10曲も掲載している。bloodthirsty butchersやeastern youth、リーガルリリーなどの名曲が収録されているのであわせてチェックを!

blondy『noise and you』

文：峯岸利恵

大阪出身のスリー・ピース・バンド、blondyのセカンド・アルバム『noise and you』。まず、このタイトルが素晴らしいと思った。noiseとyouが並んでいるが、それはただ単に美しさとしての対比を表しているだけでははないということが、作品を聴くと分かる。あなたを想うなかで向き合うこととなる、己の雑念。生活を送る上で否応なく生じる不安やヘイト、それらから守りたいと思える誰かの存在。愛すべき他者がいるからこそ生まれる疑いの心と、相手を愛するが故に生じる隠し事。生きていく上で日々積もっていく、そうした美しき矛盾や、生活のなかに潜む穏やかで少し哀しい瞬間が、どの曲のなかにも丁寧に切り取られている。

blondy / Love 【Official Music Video】

オルタナティブ／シューゲイズ的なヒリついた空気感や轟音も、楽曲を盛り上げる為に作為的に組み込まれている訳ではない。哀愁を感じさせる柔和なメロディが流れるなか、その瞬間はとても自然に訪れて、波のようにすぅっと消えていく。そのサウンド・バランスに違和感を抱かないのは、見に覚えのある心のザワつきに、その音を重ねることができるからだ。“サマードリーム”の歌詞に「七色の虹を見て綺麗だって思う／そんな事思えないくらい／つまらない大人になった」というフレーズがあるが、その直後、スコールのような轟音と女声の凛としつつも儚げなコーラスが入る。自覚していなかった変化に気付いた瞬間の胸のざわめきが、ここで表現させているように思う。

このようにblondyの音楽は、歌詞とメロディが一体となって聴き手の感傷めがけて押し寄せてくる。こう言うと「歌が入った音楽とはそういうものだろう」と思われるかもしれないが、意外とそうでもないのだ。言葉の強さが先にきたり、メロディの抑揚に集中してしまったりする。だからこそ彼らの音楽は、例え歌詞に侘しさが宿っていたとしても、とても気持ち良く心に響く。今作のなかで最もフォーキーな“Orange”は、特に歌に焦点を当てた楽曲で、シンプルなメロディが故に言葉がダイレクトに胸を打ち、取りこぼしては忘れてしまった様々な出来事を反芻しながらも、未来を歩もうとする意志を感じてグっとくる。

優しくされたのに泣きそうになったり、楽しいことをしている最中にふと終わりを感じてしまったり、相手を想うが故に嘘をついたり──生活をする上で、誰しもに訪れる愛のある矛盾。この『noise and you』は、そうした矛盾や違和感があっても間違いではないのだと、優しく諭してくれる作品だ。

blondy / 環状線に乗って【Official Music Video】

blondyと一緒に聴きたいアーティスト10組

・bloodthirsty butchers「燃える、想い」
・eastern youth「ソンゲントジユウ」
・Climb The Mind「ロードムービー」
・bacho「落葉」
・paionia「正直者はすぐに死ぬ」
・KOTORI「雨のあと」
・リーガルリリー「9mmの花」
・灰色ロジック「see the sea」
・Teenager Kick Ass「UnBORDE」
・Age Factory「TONBO」

今作と共に聴いてもらいたい10曲として、奥野陸（Vo・Gt）が敬愛しているというbloodthirsty butchersをはじめ、paioniaやClimb The Mind、bachoなど、孤独や感傷と向き合う時に聴きたい楽曲を選出させてもらった。轟音に身を委ねて泣きたくなる日もあれば、歌詞の優しさに縋りたくなる日>もある。疲弊する心を鼓舞したり、癒したり、慰めたりしながら日々をどうにか超えていく為に、是非とも聴いてもらいたい。