世の中の状況が、めちゃめちゃ作品に出てるなって
──熊谷くんも、音の気持ちよさっていうのは意識しました? 今作のギターは、気持ちよさもあるし、自由な感じもめちゃくちゃしました。抜き差しが素晴らしいというのは本当に感じましたし。-
熊谷 : 僕は全体的には意識しなかったんですけど、曲ごとのイメージはありました。
──このレコーディングに向けて購入したエフェクターとかあります?
熊谷 : このレコーディング用にというか、僕がコロナの濃厚接触者で隔離になってしまったときに、めちゃくちゃ機材を買いました。
──えええ!(笑)
熊谷 :濃厚接触者になると、強制的に家から出られなくなるじゃないですか。まとまった休みがいままでなかったので、これを機に機材を全部変えちゃおうと思って。ギターも買ったし、足元のエフェクター類もめちゃくちゃ買いました。配線を自分で組んだりすると平気で1日かかっちゃうんですけど、僕ははじめての経験だったから探り探りで。だから1日中ずっと座って、ずっとドライバーで調整するというのを丸4日くらいはしていたかも。
橋本 : めちゃくちゃ変な奴じゃん…(笑)。
稲葉 : コロナから復活して帰ってきたら、(熊谷の)ボードが倍ぐらいになってました(笑)。
──今回のアルバムの歌詞は“自動筆記”的な書き方だと資料に記載がありますが、これはどうして? 自動筆記とは、「自分の意識とは無関係に動作を行ってしまう現象」とのことですが。
橋本 : 今回の「夢と現実の交錯」というコンセプトがざっくり出てきたときに、コンセプトに縛られすぎて、辻褄を合わせようと歌詞を書いていってしまうのはよくないなと思ったんです。自分が作りたいものと違うんじゃないかなって。だから、もうちょっと潜在意識に訴えるというか、無意識に出てきたものや、整合性が取れないぐらいの矛盾したものがあってもいいんじゃないかと思って、自動筆記をなんとなく意識しました。
──その感じがいちばん濃く出ているのが、4曲目の“Village Satomi”。
橋本 : この曲は、僕の潜在意識のなかで見てる世の中と、こうありたいっていう未来みたいなものの両方を描いていると思うんです。ただ、“Village Satomi”っていうタイトルに意味は全然ないです。
──ないんだ(笑)。稲葉さんは、どう思っているんですか?
稲葉 : いちばん好きなタイトルですね。
一同 : (笑)。
橋本 : “Village Satomi”って、歩いている時に見つけたマンションの名前で。「あ! いいな」と思って、お借りしました。
稲葉 : 「名前使わせていただきました」ってあいさつに行かないといけないですね。
──あの... あいさつに行くよりも、なにか他のタイトルに変えるべきじゃないですか...?
稲葉 : 全然! 「これタイトル変えたほうがいいでしょ」とは、僕を含めて誰も言わなかったですね。
──でもこの曲、最後のノイズ・ギターがでかすぎて最高ですね。
稲葉 : 本当は最初、(熊谷)太起さんがちっちゃい音でさりげなく入れてていたんですけど、ミックスのときに太起さんが来る前に、僕が勝手にエンジニアさんにボリュームを上げてくださいって伝えて。そしたら、いいねって。
熊谷 : そもそも、この部分は途中でフェードアウトするつもりだったんです。だから、最後のほうの演奏とか、めっちゃ適当にやってるんですけど、それがよかったので、そのまま採用という。
稲葉: あとこれは、ドラムの人にも「はじめて叩くような下手な感じで叩いてください」ってお願いしました。だからよく聴くと、僕のベースもめっちゃミスっているけど、あえて修正してない状態のベースが入っているんです。めちゃめちゃずれてるんですけど、そこが気持ちいいっていうグルーヴ感は気に入ってます。
──曲調もLo-Fiの気持ちいい部分が存分にありますね。
橋本 : そうですね。この曲は、最新の僕らのミックスの傾向に反してスカスカな音だし、ローもけっこう切ってます。これまでと真逆の方向だけど、あえてその軽い感じでも気持ちいいんじゃないかと思って。
──歌詞の話でいうと、“I'm as real as a donut”と“真っ暗なドーナッツ”には、どちらにも「ドーナッツ」が入っているけど、これは?
橋本 : 1曲目と3曲目のドーナツは、違った意味合いなんです。1曲目“I’m as real as a donut”は、自分の頭のなかになんとなくあるイメージ映像に、曲と歌詞を近づけていったという感じなので、深い意味はなくて。でも“I’m as real as a donut”はこのアルバムを象徴するものになっています。たいして、3曲目の“真っ暗なドーナッツ”は、性的なニュアンスに近い。もともとドーナッツってセクシャルなものだったり、哲学的なものだったりするので、どこか惹かれるものがあったんでしょうね。
──3曲目“真っ暗なドーナッツ”は、どんな曲なの?
橋本 : これは、メンバーを喜ばせるための曲です。
──どういうこと?(笑)
橋本 : スティル・ウージーとか、そういう雰囲気の曲を作ったらおもしろそうだなっていうところからはじまったんですけど、自分がやりたいことだけをやっていくと熊谷と稲葉があまり目立たないなと思って。だからふたりが伸び伸びと弾ける曲が欲しくて。コード進行だけをもっていって、ギターもベースもふたりに完全に任せて作りました。
稲葉 : 僕もループで作りたい欲はあったので、なかなかいいフレーズを思いついたかなと。気持ちいい思いをしましたね(笑)。このベースラインは大晦日に作ったので、気持ち的には去年の集大成みたいな感じです。
──“真っ暗なドーナッツ”の最後には、バリバリのギターソロが入ってますね。
熊谷 : ソロをめちゃくちゃ弾くとかあまりなかったし、ソロを弾きたい人間でもなかったけど、やったらやったで気持ちよかったです。家で流しながら適当に弾いて、いいのが出たらそれを採用するというラフな形から生まれたフレーズで。ソロ自体はスタジオで録ったんですけど、ライヴのほうがもっとヤバい音をしているのでぜひライヴにも来てほしいですね。
──“I'm as real as a donut”はドラムが全編打ち込みで、“Mystery Train (feat. Wez Atlas)”、“夢で逢えたら”は一部打ち込みですですが、打ち込みのトラックは誰がどうやって作ったんですか?
橋本 : 僕が最初にデモを作るんですけど、細かいところは太起に打ち込んでもらってます。さっきの話にもありましたけど、メンバーの得意不得意にあわせて制作を進めているので、打ち込みは太起に任せたいなと。
熊谷 : “I'm as real as a donut”はデモの音を採用しているし、ギターも僕が宅録で録ったものをそのまま使っていますね。コロナ禍になって、自宅にスタジオのような作業部屋を作ったので有効活用しています。
──いままではスタジオで構築していくスタイルだよね?
稲葉 : そうだったんですけど、コロナ禍で少し変わって。そういう意味では、(コロナ禍も)よかったのかな。
橋本 : 世の中の状況が、めちゃめちゃ作品に出てるなって改めて思います。スタジオにも入っていたけど、リモートでできる作業はリモートでやっていたので。
稲葉 : 家でベースを入れたり、元に戻したりみたいなやりとりは以前より増えましたね。