各分野の音楽関係者に訊く、「メジャーとは? インディーとは?」
【メジャーとは? インディーとは? for PIGGS vol.5】第一部
【メジャーとは? インディーとは? for PIGGS vol.3】で、「メジャー」や「インディーズ」の定義、そのメリット、デメリットについて調査を行ってきました。そのなかで、実際に現場で働いている人々にとっては、どのような違いがあるのだろう... そんな疑問が湧いてきたため、今回は、各分野の音楽関係者にインタヴューを実施。実際の現場で見たそれぞれの目線から、「メジャーとインディーズにどのような違いがあるのか」を語っていただきました。
インターネットで情報を得ることが日常的になり、ストリーミング、YouTube、TikTokなど様々な方法で音楽が聴かれる今、「メジャー」や「インディーズ」のそれぞれの役割はどのようなものがあるのでしょうか?
取材 : 飯田仁一郎
文 : 西田健
INTERVIEW 1 : チケットプレイガイド / 某チケットプレイガイド、O坪氏
O坪(某プレイガイド)
某プレイガイドのスタッフとして、チケットにまつわるアーティストのプロモーションや販売の設計を担当。
──プレイガイドの目線で見ると、メジャーとインディーズで違う部分はありますか?
関わっている人の違いですね。インディーの人たちはDIY感が大なり小なりありますね。メジャーになると、制作のチームがいて、広報の方がいて、しっかり役割分担されている側面が強いですね。ただ、インディーズの方は、わからない分、「ここってどうやるんですか?」とか「こういう場合どうしたらいいですか?」と相談してくれるケースはすごく多いです。我々も仲間に入れてもらっている感じもありますし、それも含めてDIYの感覚はすごくあります。チケットの収益でいえば、メジャーでもインディーでも正直そこまで変わらないですね。
──なるほど。
しかし、メジャーの場合だと、いろんな会社と組むことによって、お互いの会社が予算を持ち寄って大きいプロモーションを打つことができます。そういう意味では、メジャーだと、できることは増えていくのかなという気はしています。
──時代が流れていくにつれて、状況が変化したと感じることはありますか?
昨今はかなり変わってきていますね。従来我々はイベンターさんや制作さんと向き合うことが多かったんですけど、今やアーティストさんや事務所の方が自分たちで関わる人や関わり方を選んでいる部分が、すごくあります。僕らの仕事としても、もともと型があって、そこにどうプランを立てていくかみたいな側面が強かったのが、アーティストさん本人や、アーティストの意見を代弁している事務所の人もいて、その要望を直に聞いて仕事することが増えてきました。
──アーティストの要望にはどのようなものがあるんでしょうか。
アーティストによって、チケットの売り方や届け方、入場方法ひとつとってもそれぞれ違うんですよ。例えば、ファンクラブを大事にするアーティストさんもいれば、ファンクラブそのものがないアーティストさんもいらっしゃいますし。そういう部分を事務所さんやアーティストさん本人の声を聞きながら対応するケースはものすごく増えてきていますね。そういう面ではプレイガイドにおいては、メジャーとインディーズっていう垣根はあんまりないような気がしています。
──そのなかで、アーティストはメジャー、もしくはインディーズにどういうメリットがあると思いますか?
メジャーのメリットは、アーティスト側は選択肢が増えることなんじゃないかなと思います。相談できる相手が増えて、そのノウハウを借りていろんな角度から自分たちでいろんな作り方や見せ方を自分たちで選んでいける。インディーズでこれまでDIYでやっていたところから一気に世界が広がる感覚があると思います。そこで新たにアーティストに合っているものを取り入れて、よりよくなるものが見つかるんじゃないかなと。しかし、関わる人間が増えるということは、意思決定が難しくなるので、誰の意見を大切にするのか、そういうことも含めたチーム作りができると上手くいくと思います。そういう意思決定においては、インディーズの方がメリットがある気はしますね。
──PIGGSがメジャーに進出して期待することはありますか?
PIGGSにはもっと大きくなってほしいですね。楽曲やステージもクオリティーがもっと上がって、それを好きになってくれる人が増えることには期待しています。個人的にはPIGGSはアイドルという括りだけで勝負するべきでもないと思っています。メジャー進出をすることによって、そういう枠を飛び越えてほしいです。これまで培ってきたPIGGSらしさはもちろんあると思うんですけど、もっと大きいものを目指していくなかで、変わっていくのもアリなんじゃないかなと思っています。
INTERVIEW 2 : ライブエージェント / 青木勉氏
青木 勉
株式会社エイティーフィールド代表取締役。ライブエージェントとして、メジャーからインディーズ問わず、アーティストのツアー制作・プロモーション、BAYCAMPをはじめイベント企画・運営を行っている。
──青木さんの目線から見るメジャーとインディーの違いってありますか?
やはりメディアに取り上げられる数が、メジャーとインディーの大きな違いなのかなと思います。大きなものを巻き込んで、より大きくプロモーションしていけることがメジャーの一番の魅力だと思います。例えば、メジャーは全国にプロモーションをするツールが存在しているので、そのチャンスとして大きいイベントやフェスに出演させていただく機会が増えたり、アニメのタイアップがついたり、テレビやラジオのゲストに出れるようになる。それは、インディーズだと難しい部分もあるんですよね。
──青木さんは、音楽的に尖っているアーティストと関わることも多いですが、青木さん自身は彼らがメジャーに行って売れて欲しいという想いはありますか?
そこはそんなに考えていないですね。本当に音楽性によるのかもしれないけど、カウンターカルチャーの音楽の人気が出て、いまの現状から逆転をする瞬間があったら、おもしろいとは思ってはいますけど、なかなかそういうことは起きづらいと思います。ただ、僕個人としては売れる売れないに関わらず、イベントを通して彼らの魅力を届けていきたいと思っています。
──それぞれのアーティストがメジャーに行くこと、インディーズを選択することに関してのメリットをどのように感じてますか?
インディーズは、自分ら主導の表現が自由にできるから、そこはすごくメリットがあるのかなって感じています。売れるためにどうするかを考える上で、もしかしたらアーティストは妥協して、やりたい表現と違うことをしなくちゃいけないこともあるかもしれない。みんなに受けるものをより突き詰めていくと、良くも悪くも似た同じようなものになってしまいますし、表現の自由が薄まっていく可能性がある。そうなってくると、おもしろみがなくなってしまうんじゃないかなと。それを良しとするのか悪しとするのかは本人たちの自由なんですけど、誰とどう組んでいくかっていうことは大事なんじゃないかなと思いますね。
──時代が変わる中で、メジャー、インディーズの役割が変化したと感じることはありますか?
ライヴイベントにおいては、メジャーとインディーズの役割はほとんどなくなった感じがしますね。でもインディーズの方が小回りは効きますね。インディーズでもダイレクトに自分でやりたいことがそのまま伝わるように配信も含めて99パーセントぐらいはできちゃうじゃないですか。そういう意味で、自分らで上手くやれる時代になってきていると感じます。
──なるほど。
ただ、最近のYouTubeが出てきて以降はまた変わってきた感じもあります。他にもTikTokや新しいメディアが出始めて、インディーズの人たちはそこに翻弄されながら違う仕掛けを考えているところだと思うんですよ。メジャーの方々は、新しいことに長けた人たちを投入しながら、メディアのプロモーションの仕方をちゃんと考えているなと思います。でも、これからもっと自由な時代になるのかもしれないですし、ライブシーンのカテゴリーからだと、またそこは別なのかもしれないです。一時期コロナ禍ということもあって、ライブ業界も元気がなかったこともあったんですけど、ライブ会場は、徐々に以前に近い形に戻りつつあるんですよ。そうするとインディーズからも、また違う路線の、違うやり方のアーティストの人気が出てくるのかもしれないですね。
INTERVIEW 3 : レコード・ショップ / 岩下氏
岩下好則
タワーレコード株式会社所属。タワーレコード渋谷店にて、イベントの制作や店舗としてのアーティストのプロモーション展開の企画を担当している。
──岩下さんがタワーレコードで働かれているなかで、メジャーとインディーズのアーティストにはどのような違いがあると思いますか?
広告にお金を使うか使わないかの違いは大きいかなとは思います。メジャーは、広告に力を入れるアーティストさんが多いので、プロモーションとしての店内展開や外看板のご依頼が多いですね。タワーレコードって、そこまでハードルは高くないんですけど、インディーのアーティストさんは、「そもそも無理だろうな」と思われているのか、「ダメもとで試しに声をかけたら、意外と受け入れてくれるんですね」って言われたりすることもありますし。すべてがお金ではないので、一緒になにができるのかっていうのを常に考えています。
──時代が流れていくにつれて、音楽業界の変化を感じることはありますか?
フィジカル市場の縮小傾向によって、かなり変化している感覚はあります。メジャーレーベルさんが、そこのプロモーションに予算をかけなくなってるかなっていうのはすごい感じますね。音楽を聴いている人の数自体は、決して減っているわけではなくて、むしろ増えて広がっているのかなとは思います。音楽を聴くうえでのツールとしてお客さんとか音楽ファンの方がダウンロード配信やサブスクを利用することは非常に多くなったのを感じます。
──なるほど。
でも、最近は配信をあえてやらないパターンも増えてきましたね。インディーズの作品を取り扱う店舗や、インディーズの作品だけを取り扱うネットの通販サイトも増えてきました。アーティスト側が音源の売り出し方を選ぶ時代にもなっているのかなと思います。
──そのなかで、アーティストの選択肢としてメジャー、インディーのメリットについては、どのように感じていますか?
メジャーのメリットは、持っている経験値というかバックアップ力がすごい大きいですし、横の繋がりも強いですね。メディア露出とかが増えて活動範囲が確実に広がるのかなとは思います。インディーのメリットの部分だと、フットワークが軽いですね。いろんなことが決まるスピードは、メジャーより早いのかなと。あとは、SNSや配信を使って、いろんな形で自分たちをブランディングできるようなツールがたくさんあって選択肢も多いので、インディーズは、そういうところを使っていろいろとチャレンジできるのがメリットなのかなと思います。
──今の時代のタワーレコードの役割とはどんなところにあると考えていますか?
ありがたいことに今の時代だからこそ、渋谷店のような実店舗や広告看板など媒体を上手に利用しプロモーション予算をかけるアーティストさんは決して少なくありません。ブランディングをするうえで我々を利用価値として考えてくださって本当に感謝しています。私たちは私たちが出来ることを考え最大限に協力、時には提案もさせていただいて、アーティストさんを応援すると共に一緒に音楽シーンを盛り上げていければと思っています。ですので、私たち自身がメジャー、インディーで区別しなくなってきているのかもしれません。
──最後に、PIGGSがメジャー進出をするにあたり、期待することはありますか?
PIGGSには、変化ではなくて進化を期待したいですね。PIGGSはデビューしてから、いま現在まで「こうあるべき」という呪縛のようなものができあがっちゃってるかもって感じているんですよ。それを振り切ってほしいなとは思っています。もちろん個人的には変わってほしくない部分もあるんですよ。でも、こういうメジャーへの挑戦というタイミングをきっかけにして、新しいPIGGSも見たい。アーティストさんを支える人たちのバックアップって本当に重要だなと思います。正直、僕もいままでPIGGSさんといろいろやらせてもらっていた部分が、メジャーに行くことで上手にできなくなることも増えるのかなという不安もあります。音楽シーンを盛り上げて行くために、メジャーに行っても、ウチ(タワーレコード)と今後も一緒に組んでやってもらえると嬉しいですね。
INTERVIEW 4 : メジャーレーベル / K氏
某メジャーレーベルスタッフ K氏
現在はメジャーレーベルの音楽配信のチームに所属。以前はインディーズ向けの流通サービスで勤務。
──インディーズとメジャーと両方の現場を経験されていると思いますが、明確にそれぞれの違いはありますか?
インディーズは、人数が少ない分、全てのことが把握しやすかったんですけど、メジャーは、やはり関わる人間が多いですね。アーティストごとに担当がついていて、制作、デジタル、宣伝と部署も別れています。自分が働く上では、各所とのコミュニケーションをとっていくのが以前と比べると大変ですね。
──なるほど。
ほかにも予算の面でいえば、インディーズの場合は、「だいたいこれくらいの売上が見込めるから、宣伝の予算はこれくらい」って考えるんです。逆に、メジャーは今後のことを考えてやっておくことに意味があるから「じゃあここで数十万の予算をかけて宣伝しましょうか」とか、そういう投資ができる。そこはメジャーの強みなのかなと。
──アーティストがメジャー、インディーズでそれぞれ活動する上でメリットだと思う部分はありますか。
インディーズは、予算も人数も少ないので労力や時間をかけていく必要があります。だからこそ、関わる人たちの気持ちや熱量がすごく大きくなっていく。それがお客さんにも伝わりやすい部分ではあるかなと。あとは、なんだかんだ自由に活動できるので楽しいですよね。みんなで文化祭の準備をする感覚に近くなる時もありますし。そこが活動する気持ちの上での糧になる事もあるかもしれないです。メジャーは、他にも大きな案件を経験しているスタッフが多いので、見ている世界が広いし目標も高いです。アーティストの規模感にもよりますけど、例えば再生回数で目標を立てるときに、それが1万回とか10万回の世界ではなく1000万以上での話をしています。もちろん、それを達成するのは簡単な話ではないんですけどね。
──時代が流れていくにつれて、音楽業界全体が大きく変化している感覚があるんですが、そのなかでメジャーとインディーズで考えた時に感じることはありますか?
より混沌としてきたなと思いますね。音楽のジャンルにもよるのかもしれないですけど、以前はインディーズでやることのかっこよさや美学もあったと思うんですけど、今はそういう思いがあるわけじゃない人たちも多いです。逆にメジャーも、SNSやネットで活躍する個人アーティストをフックアップしていたりもします。
──そうなんですね。
インターネットの世界が力を持つ時代に入ってきて、数字の上でインディーズがメジャーを凌駕することがたくさん起こっている感覚はあります。とは言え、再生回数は回っているけど、ライブの集客は、そこまで多くなかったりすることもあるんですよね。楽曲を売るという目線で言えば、メジャーとインディーズの差は、ほとんどなくなっているとは思います。でも、本当にファンになってくれる人を増やすことを考えると、やっぱりメジャーのインフラを使って認知度をあげていくことにおいては強いのかなと。ネットの力はすごく強いですけど、それまで何も知らなかった一般の層、いわゆるお茶の間まで持っていくのは、メジャーとしてのシステムが機能している部分だなと思います。
──メジャーに進出するPIGGSに対して、期待することはありますか?
メジャーデビューのタイミングってどうしても、離れるファンの方もいると思うんですよ。もちろん今のファンの人を大事にしてほしいんですけど、もし離れてしまっても、それ以上の人を掴んでいってほしいです。プー・ルイさんや過去のBiSを知らない人が、PIGGSを好きになってくれるみたいなことが、たくさん増えたらいいと思っています。今回の企画もすごくおもしろいと思って見ています。得意な分野の人を、その都度見つけていくのは、メンバーの刺激にもなると思います。
まとめ
それぞれの目線から、「メジャー」や「インディーズ」についての話を聞くことができた。違う部分も違わない部分も明らかになったし、時代が変わることで大きく変わったことも感じた。なんにせよ、「メジャー」「インディーズ」に関わらず、そのアーティストの特性に合わせてしっかり向き合いたいという各人の強い思いを感じれて、とても有意義な取材だった。ではアーティスト自身は、どのように「メジャー」や「インディーズ」について考えているのだろうか? 次回は、アーティストにインタヴューを行ってみようと思った。
次ページからは、PIGGSメンバーによるライヴハウスのスタッフへのインタヴューをお届けします