CROSS REVIEW 2
『急速に進化していくUlulU。その「瞬間」を切り取った貴重な1枚』
文 : 黒田隆憲
ピッチも正確で声量も安定した、いわゆる「うまく歌い上げるヴォーカリスト」とは決して言えないけれど、確実に聴き手の心を捉えて離さない。そんな類稀なる歌声を持つ人が時々シーンに現れる。東京を拠点に活動するUlulUのヴォーカル&ギター大滝華代もそのひとりだ。
彼女と古沢りえ(ベース、コーラス)、横山奈於(ドラム、コーラス)からなるこのスリーピースバンドは、2016年に自主制作のファースト・EPをリリース。その2年後にはカナダツアーを行うなど精力的に活動を行ってきた。2019年リリースのサード・EP『旅に行こうよ』では、おそらくオーバーダビングの類いは一切していないか、もししていたとしても最小限に留めた荒々しいバンド・アンサンブルをバックに、まるで魂を絞り出すように歌う大滝の歌を全面的にフィーチャー。シンプルがゆえに浮き上がってくるメロディの良さと、その奥に広がる音楽的バックボーンの豊かさが印象的だった。
本作は、そんな彼女たちによる初のフル・アルバムである。
まるでダイヤの原石を、そのままゴロリと投げ出したかのような前作『旅に行こうよ』と比較すると、ミックス・バランスなどのエンジニアリングは多少整えられたとはいえ、基本的にはこれまでの路線を踏襲。小賢しいギミックなど一切なく、ライヴにおけるパフォーマンスがありありと目に浮かんでくるような演奏はしかし、前作に比べるとテクニック的にもアレンジ的にも格段に進歩している。例えば往年のパワーポップを彷彿とさせる「3分間だけ愛されたい」や、オープン・コードの浮遊感とヨナヌキ音階の郷愁をミックスした「イルミナント」、軽やかなジャングリー・ギターがザ・スミスやサンデイズあたりを連想させる「君と過ごした夏」、軽やかなモータウン・ビートとハモンド・オルガンがネオGS〜渋谷系にも通じるような「孤独を運ぶ鳥」など、スリー・ピースとは思えないほどバラエティに富んだ楽曲が並んでいるのだ。
また前作に比べると、コード進行やコーラス・ワークの美しさもひときわ耳を惹く。冒頭曲「せかいを」で披露する多重コーラスはもちろん、「このドアを閉めるまで」のサビではアラン・メンケン(「A Whole New World」「Be Our Guest」)やヘンリー・マンシーニ(「Moon River」)ばりの和声が胸を打つ。前作『旅に行こうよ』にも収録されていた“指定席”が、今作ではどうリアレンジされているか、またエディット・ピアフの代表曲“愛の讃歌”を、たった3人でどのようにリハモナイズしているかに着目してみれば、彼女たちのコードやコーラス・ワークへのこだわりがよく分かるはずだ。
そしてなにより、大滝のヴォーカリストとしての魅力は本作でも健在。現代のシンガーだと例えばカネコアヤノや塩塚モエカあたりを引き合いに出されることもあるかもしれない。が、陰と陽を行き来するようなその声は、彼女たちと同様に唯一無二のオリジナリティを誇っている。
作品ごとに急速に進化していくUlulU。その「瞬間」を切り取った貴重な1枚だ。
黒田隆憲
1990年代後半にロックバンドCOKEBERRYでメジャーデビュー。その後フリーランスのライターに転身し執筆活動を開始。2013年には、世界で唯一の「マイ・ブラッディ・ヴァレンタイン公認カメラマン」として世界各地で撮影をおこないました。2018年にはポール・マッカートニー、2019年にはリンゴ・スターの日本独占インタビューを担当。著書に『シューゲイザー・ディスク・ガイド revised edition』(共同監修)、『マイ・ブラッディ・ヴァレンタインこそはすべて』、『メロディがひらめくとき』など。
【Twitter】
https://twitter.com/otoan69
編集 : 梶野有希 / 稲垣志真